【六】
【六】
アリーシアは肘を突き、窓の外を見て呟く。
「ハァ……この気持ち、どうすればいいの?」
艶やかな唇から漏れる吐息、悩まし気な声と表情。その表情を浮かべる顔は整い、綺麗さと可愛らしさを両立させた美形。何処からどう見ても、恋煩いをしている異国の美少女。
そんなアリーシアを傍から見ていた海斗に、アリーシアが視線を向ける。
「ねぇ海斗、どうすればいいと思う?」
「知らん」
「ハァ……海斗なんかには分からないわよね。私のこの気持ちは……」
再び窓の外に視線を向けたアリーシアに、海斗は困惑する。
昨夜、誘拐されたアリーシアは、ブルーカイトとして出動した海斗の活躍により救出された。もちろんフェイスガード付きのヘルメットで顔を隠した海斗は、救出したアリーシアの目にはブルーカイトとしか映っていない。そして、自分を助けてくれたブルーカイトに本気で恋をしてしまったというアリーシアは、その気持ちをどうすればいいかと海斗に相談したのだ。いくら海斗でも困惑するのは避けられない。
しかし、流石プロというべきか、海斗は動揺を上手く隠し、アリーシアには不審がられてはいない。そもそも、自身の気持ちでいっぱいいっぱいのアリーシアに、他を気にかける余裕がないという理由もある。
「ブルーカイト様は危険を顧みずに、私を助けてくれたの。暴走する車を追跡して。それに、私に巻かれたガムテープを外す時は、丁寧に水を掛けて外してくれたわ。そのお陰で、全然痛くなかったし」
「そうか」
「本当に格好良かったわ」
「良かったな」
「ちょっと! 真面目に聞いてよ! 友達でしょ?」
「真面目に聞いている。アリーシアがブルーカイトに助けられて感謝しているのだろう?」
「間違ってはないけど、それに加えて本気で好きになっちゃったのよー! 私にどうしろっていうのよっ!」
「それは、俺に言われても困る」
「あー! なんで似た名前なのに海斗はブルーカイト様と知り合いじゃないのよ!」
「それは、俺に怒られても困る」
知り合いどころか本人なのだが、任務の性質上、自分の正体を明かすわけにはいかない。それに、明かす事が許されているとしても、海斗には「自分がブルーカイトだ」と言う事など出来ない。
一見、落ち着き払った表情をしている。だが、実際は青野海斗が生きてきた一六年の人生で、一番動揺しどう行動すればいいのか分からず混乱している。
形はかなり特殊ではあるが、間接的に女子が自分を好きであると知ってしまった形になる。人に好かれるという事の嬉しさを感じる前に、どうする事が正しいのか? という疑問の方が押し寄せてくる。そして、その答えが出ない海斗は、現状維持を貫くしか出来ていない。
「はい、皆さん席に付いてください。」
教室に担任教師が入ってきて、朝のホームルームを始める。しかし、ホームルームの間も、アリーシアはボーッと窓の外を眺めていた。
海斗を中心に右にアリーシア、左に結莉亞、そして正面に梨沙という配置が固定化された。しかし、今日はアリーシアが呆けていて、正面の梨沙が心配そうな顔で海斗に声を掛ける。
「青野くん、アリーシアさん、何かあったんですか?」
「ん? 俺には分からない。本人に直接聞いてくれ」
海斗はアリーシアの許可なしにみだりに人へ言いふらすのは良くないと判断し、完璧な表情ですっとぼける。しかし、梨沙も結莉亞も、アリーシアの表情を見て気付いていた。アリーシアの態度は露骨で分かり易かったからだ。
「それで? どんな男性なのかしら? あなたが恋している男性は」
「な、なんであんたなんかにそんな事が分かるのよ!」
やっと意識を現実に戻したアリーシアは、顔を真っ赤にして結莉亞に言い返す。しかし、結莉亞はそのアリーシアを嘲笑って言葉を更に返した。
「何処からどう見ても、恋に悩む女性の顔をしているわ。今時、そんなに分かり易く悩む女性も珍しいと思うけれど」
「し、仕方ないでしょ!」
「で? どなたかしら?」
「い、言わない」
顔を逸らして逃れようとするアリーシアに、正面から更に追撃が来る。
「も、もしかして……青野くんですか?」
梨沙の言葉に、黙々と昼食を食べていた海斗はその手を止める。しかし、アリーシアは表情をスッと無表情にして口にする。
「なんでそこで海斗なのよ。全然違うわ。こんな空気の読めない無愛想な男じゃない」
キッパリそう言い切ったアリーシアは、落ち着きを取り戻して昼食を食べ始める。
「あらあらまあまあ! それは良かった! これでライバルが減ったわね」
「はぁ? もしかしてあんた、海斗の事好きなの?」
「いいえ、恋愛感情はこれっぽっちも無いわ」
アリーシアの質問に、結莉亞は両手を合わせて喜びながら否定する。結莉亞にとって海斗は、お金や自分の権力では手に入らない初めてのもので、その希少性に興味が湧いているだけである。
結莉亞はアリーシアや梨沙の事を、入手し辛い海斗を手に入れるための競合相手という意味でのライバルとしか思っていない。それに、財産、権力、容姿全てが優っているため、大したライバルだとも思っていない。もちろん、全て結莉亞の主観での話であって、客観は一ミリも入っていない。
「まあ、私に相応しい男性なんてこの世に居ないのだけれど。私の心を束縛しようなんておこがましい」
「おこがましいって言葉、あんたに相応しい言葉ね」
「あら、一般庶民が私に何を言ってらっしゃるのかしら? そんなつつましい胸を張って」
「今、胸の話は関係ないでしょ! それにつつましくなんかないわよ! あんたのその無駄な皮下脂肪が異常なだけ!」
また海斗を間に挟んで口論を始める二人に、海斗は再び手を動かし始める。しかし海斗の正面に座る梨沙は、海斗の様子を窺ってチラチラと視線を向けたり外したりする。その視線に気付いていた海斗は、梨沙の顔を見て首を傾げた。
「宮下、どうした?」
「えっ?」
「俺を見ていただろう。何か話でもあるのか?」
「えっ、えっと……青野くんは、どんな子がタイプ? ……あっ」
急に海斗から話し掛けられた梨沙はパニックに陥り、頭が真っ白になった。しかし、変に間を開けることもできず、気が急いて勝手に口から飛び出した言葉に、一瞬真っ青になってボッと顔を真っ赤に染める。
「どんな子がタイプというのは、どんな女性が好みか、という事か?」
「う、うん」
もはや後戻り出来なくなった状況で、とりあえず突き進むしかなくなった梨沙は頷いて肯定する。
海斗は、梨沙の質問に腕を組んで悩んだ。
好みのタイプというものを、海斗は今まで考えたことが無い。もちろん、大前提として相手は女性である。そして、そこから更に細分化するとなると判断基準が海斗には分からない。
「身長が低い人が良いとか、あとはその……胸が大きい人が良いとか、それから家庭的な人が良いとか」
なかなか答えが出ない海斗に、梨沙が遠慮しがちに問い直す。すると、海斗は梨沙を正面に見て口を開いた。
「容姿に関しては、特にこだわりはない。しいて言うなら、女性らしい女性だろうか?」
答えながら、その自分の出した答えの不明瞭さに自分で首を傾げる。
「女性らしい女性ですか?」
「上手くは言えないが、女性として魅力的な女性はいいと思う」
一瞬、海斗の頭に柔らかい感触と甘い香りが蘇るが、隣に居るアリーシアが自分に視線を向けているのを見て、すぐに頭の中から消し去った。
「逆に女性らしくない女性って居るの?」
「あら、つつましい胸を持っていて言葉遣いが粗雑な人が居るわ」
「ちょっと、私を見て言わないでくれる? あんたの胸が無駄に脂肪を蓄えてるだけで、私だってつつましいって言われる程無いわけじゃないんだから!」
「無駄に脂肪を? あらあらそんな無駄だという脂肪さえも蓄えられない粗末な体をしている人に言われても、全く説得力が無いわ」
男子である海斗を挟みながら、胸の話でまた口論を始める。海斗は視線を二人から外して正面に向ける。しかし、その向けた先では梨沙が自分の胸を揉んで確認している所を目の当たりにし、結局トレイの縁に視線を落ち着かせた。
アリーシアは昨日の誘拐事件の事もあり、ガッチリと護衛に付かれ、寄り道さえも許されず黒塗りのセダンに乗り込んでいく。それを見届けた海斗は、ゆっくり歩き出す。
この後の海斗の予定は、またSITとの合同訓練である。前回は海斗が犯人役だったが、今回は役回りが逆である。しかし、一対複数という状況は変わらない。
一見、一対複数は海斗に不利でSIT側に有利に組まれたものに見える。しかし、TKTは単独行動の部隊だ。だから、SIT相手の訓練というのは、秘匿されてきたTKTとしても、一隊員である海斗としてもありがたい訓練ではある。ただ、必要以上に目の敵にされていることは、海斗自身あまり良く思っていない。
互いに競い合い切磋琢磨する事は、とても良い事ではある。だが、SIT隊員の中には、海斗がブルーカイトとして注目を浴びた立て籠もり事件、その事件を海斗が解決した時のやり取りを良く思っていない者が多数居る。
単独突入を行った挙句正体不明で詮索禁止。その異常とも言える特別待遇に、不信感を抱くのは当然の事だ。だたそういう風当たりの強さも、海斗が慣れてしまったという類のものだ。
そんな理由もあって、海斗個人としてはあまりこの後の予定は楽しいものではない。
横断歩道の前で信号待ちをしていると、海斗は後ろから視線を感じた。さり気なくカーブミラーで後方の様子を確認すると、黒いパーカーに黒のスウェットパンツ姿の人物が見える。その人物は黒いキャップを目深に被り、海斗の方からは顔を確認出来ない。
信号が変わり海斗が歩みを再開すると、その全身黒で揃えた人物も歩き始める。
海斗はさり気なくイヤホンを片耳に付けて、制服のボタンに話し掛ける。
「メカニック、俺の後ろをつけてる人物、顔が分かるか?」
『ンー? ちょっと待ってて、今調べるから』
一定の間隔を保ってついてくる人物に意識を向けながら、海斗はTKTの本部とは別の方向へ歩き出す。
『トビくんをつけてる何者か、監視カメラでも帽子が邪魔して顔分からないわ。ドローンを飛ばす?』
「いや、下手に刺激するのは良くない」
『海斗、撒けるか?』
イヤホンから隊長の声が聞こえ、海斗はさり気なく視線を後ろに向ける。海斗と追跡者の距離はずっと一定のまま。離れることはもちろん無いが、不用意に近付くこともない。尾行に慣れた人物であるのは間違いない。しかし、海斗は次の交差点で立ち止まった時、隊長に低い声で返した。
「隊長、相手はどうやら複数です。これでは撒けそうにありません」
『近くの交番に入ったところで見逃してくれるとは思えないな。状況から考えてもアリカロ王国の者ではない。が、アリカロ王国に関係するのは間違いないだろう。一対複数はお前の専門だ。人目のない所に誘き出して情報を掴め』
「了解。銃の使用は控えます」
信号が変わった横断歩道を渡り、多方向から注がれる視線を感じながら、海斗は大通りから外れて、アーケード街に入る。周囲には開店準備中の居酒屋や、ブティック、それからファストフード店等の多種多様な店舗が並ぶ。アーケード街に入った瞬間、海斗に向けられた視線が減る。しかし、しばらく歩くと、正面から海斗は視線を感じた。
アーケード街を中程まで歩いた時、海斗は通り過ぎる配送業者のトラックに捕まり、アーケード街から離れる。だが、トラックの進行方向からも視線を感じ、海斗は途中でトラックから離れて小道に入った。
ビルとビルの間の狭い路地を、全身黒で統一された衣服を着た人物が走る。路地の中央で周囲をしきりに見渡すその首の動きは、明らかに何かを探している様子だ。
「危険分子を見失った」
『この周辺に居るはずだ。探し出せ』
「了解」
無線から聞こえる声に低い声で答える。そして再び走り出そうとした瞬間。男は首を腕でロックされ、目の前に鈍く光る、黒いコンバットナイフの先を突き付けられる。
「忍者かよ」
「お前は何者だ」
「へっ、それはこっちが聞きた――グハッ!」
軽口を叩く男と判明した黒服の腹部を、海斗はコンバットナイフのグリップで叩く。体をくの字に曲げた黒服は、口から唾を吐き捨てながら、ニヤリと笑って見せる。
「ただの高校生じゃねえな」
「お前こそ、日本人ではないな」
「何?」
「そうか、日本人ではないのか」
「チッ……」
単純な鎌掛けに引っかかった事へ舌打ちをする。その様子を見ながら、海斗は更に話を続ける。
「複数でただの高校生を尾行するとは、観光で来たわけではないだろう。何が目的だ」
「尾行を複数だと見抜ける奴がただの高校生でたまるか!」
海斗は後ろから鉄パイプを振り下ろそうとした別の黒服に蹴りを入れる。蹴りを食らった黒服は派手に吹っ飛んで地面に倒れるが、すぐに立ち上がって鉄バイブを構える。そして、海斗の拘束から逃れた黒服の男は、右手に銀色に光るナイフを手にしている。
「二、三日、ジッとしてるだけで怪我をしなくて済むんだ。大人しくするのが利口だと思うぞ?」
「今ならまだ、洗いざらい吐いて警察に捕まるだけで済むが?」
「クソガキがナメるなよ!」
「そうか」
同時に攻撃を仕掛けてきた二人の間から、海斗は正面に向かって走り出す。正面から黒服の男がナイフを突き出す前に、右の壁を蹴って三角飛びでナイフを回避する。
黒服男の背後に回った海斗は、蹴りで黒服男の足を払う。
「ガッ――!?」
地面に強か体を打ち付けた黒服男は、胸が詰まるような息苦しさを感じながら呻き声を漏らした。
「ハッ!」
ナイフを水平に構え、もう一人の黒服が振り下ろした鉄パイプを受け流す。受け流された鉄パイプは、路地にむき出しになった配水管に当たって跳ね上がる。両手を振り上げた状態になってしまった黒服は、目を見開いて海斗を見る。
その時、既に回し蹴りを繰り出す体勢になっていた海斗は、勢いをつけて振り出した足を黒服の顔面に当てる。
「ガハッ!」
派手に吹き飛んで地面に倒れた黒服から注意を逸らさないように、足払いした方の黒服男へ再びナイフを向ける。
「吐け、何故俺を狙った」
「…………ヒィ!」
無言を突き通そうとした黒服男の顔の脇で、甲高い音が響く。海斗の振り下ろしたコンバットナイフが、地面のコンクリートにぶつかり、コンクリートを削る音だ。
「吐け、次はお前の頬の肉を削る」
「お前が邪魔だったんだ!」
「何の邪魔だ」
「…………ヒィ! ステイムダイトを――」
海斗はとっさに後ろへ飛び退き、ゴミ箱の陰に隠れながら後退する。海斗が数秒前に居た場所には、路地の入り口から発砲された銃から放たれた銃弾が当たり、キンッという耳鳴りのような甲高い金属音が響く。
通りの奥まで入り壁の陰に隠れる頃には銃声は止み、海斗が無力化した二人と銃を発砲した三人目は既に逃走した後だった。
本部に戻りながら、海斗は唯一聞き出す事が出来た『ステイムダイト』という単語を無線で隊長へ伝えた。
そして、海斗がTKT本部に到着すると、ジェスチャーで席へ座るよう隊長に促された。
「海斗を襲撃した人物は、追跡できなかった。防犯カメラの死角を縫って逃走したようだ」
「用意周到ですね」
「ああ、それに手慣れてもいる」
室内にメカニックが戻って来て、やる気のなさそうに書類を海斗に渡し、海斗の隣へ腰掛ける。
「海斗が得たステイムダイトという単語。長官を介して先方に伝えたら、血相を変えたそうだ。そして、早急に王女を帰国させると言ってきたそうだ」
「いかにもあやしーわね。んで、ステイムダイトについて調べてみたら、アリカロ政府の極秘ファイルの中にゴロゴロ情報があったわ」
他国の極秘ファイルを簡単に調べ上げたメカニックは、モニターに一枚の画像を表示する。その画像は鈍く黒光りする石ころが写っているだけで、海斗には何を意味するのか分からない。
「ステイムダイトは、アリカロ国内で近年採掘された新鉱物よ。鉄とか銅とかそんな物」
「鉄や銅のために俺は殺されかけたのか?」
「最後まで話を聞きなさい。このステイムダイトには特殊な性質があるの。……電気を流すと、表面の可視光線を回折する性質と、可視光線以外の電波を吸収する性質があるの。しかも、ステイムダイト側からは、電波を漏らさない性質もある」
「可視光線の回折と可視光線以外の電波を吸収する性質……」
「分かりやすく言うと、ステルスに使えるって事。しかも、可視光線、つまり光を回折させるから目に見えない。その上、電波を吸収するからレーダーにも映らない。更に自分から発せられる電波まで吸収するから、サイドワインダーミサイルでも迎撃出来ない。光学ステルスどころじゃない、完全なステルスね」
「完全な、ステルス」
現状の技術では、完全なステルスは実現していない。ステルスで思い付くのはステルス戦闘機だが、ステルス戦闘機は目に見えない光学ステルスではなく、大きく二つのステルス技術が使われている。
まず一つ目は電波ステルス。電波ステルスは戦闘機のボディを特殊な形にして電波の反射を抑制し、電波の反射を使って感知するタイプのレーダーに有効なステルス技術である。近年では、電波吸収体と呼ばれる物質を使い、電波を跳ね返さず吸収して更に電波ステルスを高めている。
二つ目は赤外線ステルス。赤外線ステルスは主にエンジン周辺から発せられる赤外線を低減させるなどして、赤外線に対する迎撃対策に対したステルス技術。メカニックの発したサイドワインダーミサイルは赤外線を感知して追尾する迎撃ミサイルの名称である。サイドワインダーミサイルのサイドワインダーは、ミサイルの軌道が蛇行する事と赤外線を感知して攻撃する性質のあるヨコバイガラガラヘビの別名から取られている。
現代のステルス技術は、この電波ステルスと赤外線ステルスの二つのステルス技術からなる。しかしその二つも、高い技術と導入に際する費用が高額である事からどの国でも気軽に導入出来るステルス技術ではない。
だが、ステイムダイトは通電させる事で、電波、赤外線、そして光学ステルスを実現する事が出来る。
「でも、現時点ではステイムダイトの光学ステルスじゃ戦闘機には使えない」
「何故だ?」
「ステイムダイトで実現出来る光学ステルスは回折型って言うんだけど、回折型は内側からも外の光が回折されて見えなくなるの。それにステイムダイトの場合は電波も吸収しちゃうから、レーダー頼みの操縦も不可能。でも、これが弾道ミサイルに使われたら、完璧なステルスミサイルの出来上がりよ」
「なるほど、それは確かに欲しがる国はありそうだ」
ステイムダイトの正体は判明した。そして、それの危険性も十分理解した。海斗はそれらを頭の中で整理し、隊長へ視線を向ける。
「襲撃してきた黒服達、このままアリーシアを大人しく帰すとは思えませんね」
「そうだな。帰国までの間、より警戒を強める必要がある。アリカロ王国側からも、やっと日本警察への正式な協力要請が来た」
「かなり遅過ぎますね。まあ、ステイムダイトの存在を知った事で、形勢が逆転したのかもしれませんね」
海斗は椅子の背もたれに背中を付けてフッと息を吐く。
海斗はメカニックのように頭を科学的に使うのは得意ではない。正直、ステイムダイトの説明の時点で嫌気がさしていた。
メカニック自身はステイムダイトに興味津々であったが、海斗にはあまり関係ない話だ。ステイムダイトが完全ステルスであろうがなかろうが、海斗の任務は変わらない。
秘密裏にアリカロ王国の王女を護衛する事、ただ一つだけだ。