1-87.魔犬(6)
『さて、『言霊』の儀式は終わったのかな? ではゲンデン、もう、思い残す事は、無いな』
ロービンスン騎士爵の廃嫡された兄、ボーデンが、怪しい黒いローブを着て、四人の前に、いきなり現れる。
「ボー兄さん……」
ロービンスン騎士爵は、苦虫を噛み潰した様な表情に成る。
『おう、幸運なゲンデンよ。正当な借りを清算しに来たぞ。おう、相変わらず見目麗しいメルナ。今からでも遅く無いぞ。我の元においで』
「御断りいたします」
メルナ夫人は、厳しい表情で、ピシャリとはねつける。
『相変わらず、冷たいなぁ。けしからん。では、娘をいただこう』
「えっ」
メルナ夫人は、少し離れたミィーファを見る。
ミィーファは、急に現れた大叔父に気が付き、緊張の表情でこちらを見ている。
そのすぐ背後には……ロービンスン騎士爵の弟、ハイデンがボーデン兄と同じ黒いローブを着て、不気味に現れた。
「ミィーファ!」
思わずメルナ夫人は、叫ぶ。
『ミィーファ。親の不徳により死ぬことを恨んで、天に召されれば良い』
ハイデンはニヤケながら、某然として居るミィーファに、尊大に言い渡す。
ガウバウ! ガウバウ! ガウバウ! ガウバウ!
ハイデンのローブの懐から、禍々しい黒い猛犬が、飛び出て来て、ミィーファを囲む。
『ふん。ミィーファ。今度は『四肢同時』に、食い千切ってやろう』
ボーデン兄は、愉快そうに、ほくそ笑む。
「! やはりボー兄が、娘の愛犬に『魔』を仕込んだのだな!」
『何を言う。たかがミィーファの片脚一つで済んで、良かったではないか。今日まで平穏に過ごせたのだから。まぁ、良い。そんな些細な事は、今日ですべて終わる。四人で幸せな散策の果てに、死ぬが良い』
ボーデン兄は、尊大な口調で弟に言い渡す。
「ボーデン大叔父上。相変わらず『おめでたい』意見を御持ちなのですな」
タムは、ミィーファが囲まれた状況で、平素に変わらず落ち着いた声で、大叔父に語りかける。
もっともミィーファも、落ち着いてたたずんで居る。
ボーデン大叔父を見つめる視線は、激しいが。
ボーデンの目は、スッと細められる。
『フン!継承権も無い不肖の輩が、我に話し掛けるではないわ!』
「……だから、そう言う所が『御祖父様』に嫌われたのでは?」
タムは、幼児に語りかける様に、大叔父を諭す。
『ぬぐぐ! 生意気な! ならば貴様から死ね!』
ボーデン大叔父のローブの闇から、巨大蜘蛛型魔獣が飛び出てくる。
バオオオオオオン!
蜘蛛型魔獣の雄叫びに、ロービンスン騎士爵は、メルナ夫人を後ろに庇い、その身を固くする。
しかしタムは、平然と魔獣に近寄る。
ボ?
近寄られた魔獣の方が、戸惑う。
「御前も不運だなぁ。こんな奴に召喚されて……」
『どうした! 早く殺してしまえ!』
ボーデン大叔父は、叫ぶ。
バオオオオオオン!
蜘蛛型魔獣は、タムの頭に巨大な前脚を振り下ろす。
ドガン!
次の瞬間、蜘蛛型魔獣は、立木まで吹き飛ばされた。
シュゥ~
タムは一瞬で、全身甲冑姿に変わり、左腕一本で蜘蛛型魔獣を殴り飛ばしていた。
左拳から、蜘蛛型魔獣の前脚と強く擦れたのか、煙が立ち昇って居る。
ゲッ、ガッ、ガフガフ。
グロッキーに成った魔獣は、フラつきながら立ち上がる。
ガッ!?
いつの間にかタムが、蜘蛛型魔獣の目の前に立っていた。
「すまんな」
ドカン!
六尺棒を振るい、蜘蛛型魔獣を真っ向幹竹割りで、真っ二つにする。
ひゅん
タムは六尺棒を振るい、魔獣の体液を降り飛ばす。
ボーデン大叔父とロービンスン騎士爵夫妻は、タムの『想像以上の戦闘力』を見せ付けられて、固まる。
タムは『何でもない』自然体で、両親の元に歩き出す。
『……(ハッ)たっ、タム! 武人として甘いぞ! 警護対象から離れるとは!』
バウガウ! バウガウ!
ボーデン大叔父は我に返り、動揺を隠すように着ているローブから、新たに魔犬を召喚する。
「おや? 大型魔獣はおしまいですか? もう魔力が尽きたのですか? そんな程度で、よく尊大で居られますね」
タムは呆れた口調で、大叔父をディスる。
『フン! ならば、目の前で両親が殺されるさまを、拝むがよい!』
タムはヘルメットのまま、否定する様に左右に首を振る。
「貴方には、無理です」
『フン! ならばゲンデン『息子の戯言』で、死ね!』
魔犬が二人に飛び掛かろうと、身を下げる。
バウガウ! バウ……
ドン、ドンッ!
ボワッ
真上から、青白い光線が二本が照射され、ロービンスン騎士爵夫妻を襲おうとしか二匹の魔犬は、一瞬で燃え消える。
『なっ!?』
見上げれば、真上の太陽の中に、しばらく前から飛んでいた二羽の鳥が……?
いや、『天使の翼』で飛ぶ、カムランとヤバだ。
「だから『無理』と言ったのです」
『くっ、ハイデン!』
『はい! 殺れ!』
ミィーファを取り囲んでいた魔犬が、上空からの攻撃を意識してランダムに動き、ミィーファに飛び掛かろうと身を下げる。
「ミクリエ。頼む」
『は~い』
ヴォン
ミィーファの周りに、シールドが張られる。
『『なにっ!?』』
ボーデンとハイデン兄弟は、生贄にしか見えないミィーファからのシールド発生に、驚き焦る。
コレではロービンスン騎士爵家族四人に、絶望を与えられ無い!
ヴォン
『ミクリエ、いきま~す』
ドヒュン!
ミクリエが現れ、ふわモコのくせに、魔犬以上のスピードで駆け出す!
『し~るど・ばっしゅ~』
ドシュン!
ボンッ!
『シールド・バッシュ』と言うよりは、まるで砲弾の様に駆け飛び、ミクリエより大きい魔犬の身体を一気に突き抜け、魔犬はバラバラに飛び散る。
ドン!
急降下して来たヤバが、一匹を仕留める。
ドンッ!
「ミクリエかぁ! やるなぁ!」
カムランも、ミクリエを褒めながら、一匹を仕留める。
『は〜い。もういっちょう、し〜るど・ばっしゅ!』
ドンッ! バシャッ!
ミクリエは、魔犬の頭に突っ込み、バラバラに吹き飛ばす。
『ぐぬぬ!』
ボーデン大叔父は、歯ぎしりをして、悔しがる。
「大叔父。小叔父。貴方がたの退路は、もう在りません。大人しく自首し、神に懺悔して下さい」
タムは、ボーデンとハイデンに、降伏勧告する。
『フン! 忌々しい! 良いだろう、今は見逃して……』
ヒュン
ドスン
『ぐっ!』
タムは、ボーデン大叔父の黒いローブに、青く輝く六尺棒を打ち込む。
『ぐはっ!』
カムランも、ハイデンの黒いローブに、青く輝く六尺棒を打ち込む。
『『ぐあぁぁああ!』』
ボーデン大叔父とハイデン小叔父は、タムとカムランに払われ、禍々しい瘴気がしぼんで行くのと、同時に消えて行く。
邪気がすべて払われ、裏庭に爽やかなそよ風が流れて行く。
「カムラン、ヤバ、御疲れ様。引き続き空中警護を頼むよ」
「おう」
「任せろ」
カムランとヤバは、再び飛び立とうとする。
「あぁ、あちらは?」
「とっくに、だそうだ」
バサッ
カムランは肩をすくめ、飛び立つ。
「そうか。では父上、母上、ミィーファ、散策を再開しましょう。あぁノル、お茶の様子は」
「はっ、はい! 何時でも、どっどうぞっ」
タムが幼い頃、世話してくれたメイド長のノルは、先程のタム達の『凄まじい戦闘力』を見せ付けられ、驚きと畏怖を感じ、緊張する。
「おぃおぃノル、そんなに緊張されると寂しいなぁ。昔の様に遠慮なく諌めておくれ」
タムは、ほろ苦く微笑む。
「はは、はは、いえいえ」ノルは緊張して、苦笑いする。
「これタム。それだけ御主達が『達人の風格』をまとう実力を持ったのだ。力無い庶民は労わってやらねばならぬ」
ロービンスン騎士爵は口ではタムを諌めながらも、息子の大活躍に大いに嬉しそうに微笑む。
メルナ夫人と、ミィーファもだ。
「はい」
タムは『キラリ』と、爽やかな笑顔で返答する。
◯ ◯ ◯
「がはっ」
「ぐあっ」
ドサドサッ!
ボーデンとハイデンは、薄暗いが広い部屋のど真ん中の魔方陣から、放り出される。
「クソったれ! 何が『魔獣サイコー』だ! てんで弱いではないか! 金だけむしり取りおって……」
「ボー兄! 早速ジョイス・ターンを、諌めにゆきましょう! そして……」
「ふうん。ジョイス・ターン、か。どこで、逢えるかな?」
「「!」」
ボーデンとハイデン兄弟は驚き、落ち着いた声の主を振り向く。
「誰だ!」ボーデンは、叫ぶ。
ヴォン
空中に浮かぶ剣の、青白い聖なる輝きが、薄暗い部屋を明るく照らす。
「ひっ…… せっ『聖光剣』! ゆっ、勇者!」
ボーデンの表情は、照らされる青白い光のせいでは無く、真っ青になる。
「はぁ、こんな所の地下に、こんな場所を用意出来るとはねぇ。『魔族崇拝結社』の組織力は、思った以上に凄いねぇ」
武良は呆れながら、感心する。
『まったくデスねぇ、まったくの『盲点』でした。すべて、洗い直さないと』
タイ・クォーン教会第一守護天使のワードマンは、愕然として嘆く。
「な、何を言う、そんなに結社はしらん。関係ない!」
「あ〜、そうだね。もう貴方の言い訳は『関係無い』いや、ぜんぜん『どうでも良い』」
武良は、バッサリとボーデンの言い訳を切り捨てる。
「では、ワードマンさん。失礼いたします」
『どうぞ』
ボウッ
武良の前に、青白い輝く『光の玉』が浮かぶ。
「これより御前らの身体から、『魔素』を『浄化』する。魔族崇拝結社と関係無いと言うならば、その身に『魔素』は無いはず。心せよ」
もう武良の口調は、目の前の男達への嫌悪感を隠そうとしない。
「くっ」
勝手知ったるボーデンは一つ唸り、右の壁に駆け出す。
掛かっている絵を、捻じる。
ゴゴン
隠し扉が開く。
ボーデンはニヤリと笑うと、逃走路に飛び込もうとする。
ぼかっ
隠し扉の暗闇から、右拳が飛んで来て、ボーデンの下アゴにヒット!
ボーデンは、ものも言わずにハイデンの隣まで、後ろ向きに吹き飛ぶ。
のそり、と、真っ白いタイ・クォーン教会衛兵隊員が、退避路の先から出て来る。
「ロムレス。待機御苦労さん」
「いーえー」ロムレスは、何でもない、と手を降る。
「では、『魔素』浄化!」
ヒュン!
二つの光の玉は、スッとボーデンとハイデンの胸に入る。
「ほぐぃぅ!」
「がぶぅ!」
入った瞬間、兄弟は悶えだす。
「あづい! 胸のながが、熱い!」
「はががが、あづい!」
カッ
兄弟の両目、その鼻、口、両耳などの『全ての穴』から、溢れんばかりの強く青い輝きが、噴き出し始める。
『あああああ〜 うわああああ〜 』
『ががががが、あづい!』
情け無い声を上げながら、全身のあちこちが『破れ』、強い輝きが『破れ』から漏れ出す。
ボーデンとハイデンは、内側で輝く強い光に、内側から燃えて行く。
ごろん
ごとん
二人の抜け殻が、ゴロンと床に転がる。
「おや、案外残りましたね」
『本当ですね。魔族の様に完全に灰に成るかと思いましたが』
(え?)
(え?)
ボーデンとハイデン兄弟は、ミイラの様に変わり果てた、自分達の遺体を見下ろして居る。
(そうか、俺は、死んだのか)ボーデンは、途方にくれる。
(あぁ、そんな……ケリス……)ハイデンは、女の名をつぶやく。
(クソったれ! 今から、ゲンデンの所にバケて出てやる! 取り付いてヤル!)ボーデンは幽霊に成りながら、怨念は強い。
(…… えぇ〜)ハイデンは、流石に引く。
『捕縛』
ワードマンさんの宣言が、幽界の次元に響く。
ガシャン
ボーデンに、首と手首を同時に拘束する、冥府の裁判官ミーノスの刻印入りの、金属板制の枷がハマる。
『御主は、死んでも馬鹿が治らないな。地獄の底辺から、やり直せ』
(えやぁあああ!)ボーデンは、声にならない叫びをあげる。
首の枷は首を絞め、声が出せない。
『じゃぁ、冥府の裁判官ミーノスの所へ連行して来ます。ホウ!御主も来るのだ!』
(……はい)ハイデンは諦めたのか、素直にワードマンの横に立つ。
ワードマンを中心に、三人の周りに魔方陣が現れる。
『では』ワードマンは武良に一礼し、魔方陣の中に消えて行く。
「やれやれロムレス、我らは帰ろう」
「ハッ」
武良達は隠し扉から、薄暗く広い部屋を出て行く。
武良が扉を開けて外に出る。
ドドーン!
武良達が出て来た建物が、一気に炎上する。
「…… 参ったなぁ。全部の『公民館』を取り壊す訳には行かないし」
「デスねぇ。市民団体の集会や、毎週の炊き出しも出来無く成っちゃいますし」
ロムレスも、同意する。
はぁ
「しょうがない。公都衛兵隊の探索方に情報を流そう」
武良は苦虫を噛み潰した表情で、帰路に付く。
御読みいただき、誠にありがとうございます。
御陰様で、来月で初投稿から、一年に成ります。
しかし、思うように振るいませんでした。
ライトノベルっぽく、無くなって来てる様な。
そこで一度、この連載を、しばらく休載させて頂きます。
勝手ながら、申し訳ありません。
現在同じテーマとキャラで、また新規キャラも混ぜて、異なるバージョンをプロットを『練り直し』中です。
まとまりましたら、新規の作品として投稿を始めさせて頂きます。
出来ましたら、ブクマをそのままで御願い致したいと思います。
今少し、お待ち頂ければ幸いです。
宜しくお願い、致します。




