1-5.ブレイク・マジック(2)
「で、異世界の金髪碧眼色白豊満美女を、何処で『お も て な し』したんですか?」
愛妻を( 諸々、がんばって )グッスリ寝かし付けた武良は、そっとベッドルームを離れ、書斎で『侍』ヴァーチャル空間にログインするなり、開祖シンに話し掛けた。
彼の名は、海良 真。
真円流武術の、私の師匠だ。
また『侍』を組織した、私の上司だ。
『侍』の開祖なので『侍』では彼を、『開祖シン』とか『開祖』とか『シン』とか呼ぶ。
『マンドゥリン・オーエンタル・東京の、レストラン&バーだよ』開祖シンは、平静に答える。
「うわ。ガチ狙いする時クラスの、5星の高級ホテルじゃないですか」にやり、と笑う。
『あの時間、それなりの店は其処しか思い付かなかったんだよ。まぁ上質な接待が出来た筈だから、良しとしよう』うんうん、と頷く。
「何を、言い聞かせているのです?」苦笑する。
『それから、彼女はブラックホール並みのウワバミだ。マンドゥリン・バーに置いて居た全種の酒をフル・コンプし、尚ヘビロテした』目を丸くする。
「そんなに?……てか、その情報要ります?」訝しげに、左眉を上げる。
『あっち(異世界)では、美味い酒に目が無い上流階級が多いそうだから、斬り込む切欠には良いネタに成るだろ』両肩を、すくめる。
「まぁそうか。で?」身を、乗り出す。
『うん?』とぼける。
「異世界の美女鑑賞を、楽しんだだけでは無いでしょう」身を、乗り出したまま、問う。
『あぁ。で、武良はゲームは得意か?』にやり、と笑う。
「ゲーム?まぁ嫌いでは無いですよ……まさか。確かにセルガさんは、『まぞくたいじ』とか言ってましたが」マジか。武良は、あきれ驚いた様に、両眉が上がる。
『そうだ。『タケヨシ勇者様が此方(異世界)に置いで頂き、強大な魔族や魔王を退治て欲しい』そうだ。召喚ゲートを押し返した事を『前例無い強大な勇者様の証ですは♪』て喜んで居たよ。更には、オーラと言う『魔力』を扱える我々『侍』と言う集団には、興味心身だよ。。進んだ科学技術は、セルガさんからすれば『上級魔法』だろうね。『上級魔法使いの集団』は、かなりの戦力として魅力的だろう。まぁ『侍』の規模は誤魔化したがね♪』自分が口にして居る内容に、少々あきれた様子を見せる。
「『侍』が『魔法使い』て……まんまどっかのラノベか、ゲーム設定じゃ無いですか」背もたれに、上半身を鎮める。
『うん。社会構造を含めて、聞けば聴く程、『何処のラノベかい?』と思った。後で『地図』とか『勢力図』とか『社会構造』等の聞き取り資料を、丸ごと隼に渡して置くよ』いささか、『仕事』の顔に成る。
「承りました……で、前例と彼女は言ったんですね。つまり、過去に何人も召喚されてるんですね。召喚される側の意志や都合なぞ関係無い、拉致が」苦虫を噛んだ表情が、出る。
『あぁ。それだけ魔族や魔王が強大なので、藁をも掴む思いで召喚するそうだ』渋い顔をする。
「だからって、拉致には変わりませんよね。拉致の必要性を、何とか解消したいですね。で、召喚者を選定する基準は、何でしょう?」わずかに、怒りを見せる。
『神の祝福を受けて、召喚術中に意識を異世界に飛ばすそうだ。で、強い力を感じたら、引き寄せて召喚すると』
『召喚転移魔法を行った先のシステムニ、証言を肯定する過去ログを発見しましタ。まタ……教会司祭が召喚システムに意識をダイブさせテ、召喚転移魔法を稼働させるのですガ、意識を身体に戻すことが出来ズ、そのままお亡くなりになる前例モ、何件か確認出来ましタ』
「……そうか。セルガさんも、命がけの召喚か」真剣な表情に成る。
『そうだ……で、呼び出した座標軸は記録出来るので、魔王退治後元の好きな時代に戻せるそうだ。金銀財宝を持たせてな。また魔王退治まで、年単位掛るから。そこで家族が出来て残る勇者も居るそうだ。勇者を先祖の貴族家系も、勇者の力を代々受け継ぎながら案外多いそうだ』うるおぼえな記憶を、何とかたどる。
「へぇ。勇者の先輩方々が居るんですね。実力は?」興味深そうに、左眉を上げる。
『そこまでは確認出来なかったよ。後は現地で確認を頼む』右手を、(任せた)か(勝手にやれ)か、ひらひらと降る。
「わかりました。成る程。今回召喚前にコミュニケーション取れた事は、お互いに初事態だが、良い交渉を得る機会を得たと」無理矢理背筋を伸ばし、仕事を承る様子を見せる。
『あぁ。その点はこちら側が有利かもな。何より『異世界転移魔法』か。を、完コピ出来たので『何時でも任意に転移』でこちらと往来が可能だ。だから異世界でも双方向で『侍クラウド』が使える。最初は『科学技術』を小出しでも、異世界の『王族』等の支配階級や、『魔族や魔王』の状況に合わせた『対抗措置』が可能だろう』頷きながら、条件を吟味する。
「それで?」促す。
『受けて良いと思う』答える。
「彼女とは、何処まで摺り合わせられましたか?」確認する。
『魔王退治の報酬としては、金銀財宝・領地・地位名誉・女奴隷だらけのハーレムとかだったかな?』どうでも良さそうに、肩をすくめる。
「ほほう♪ 独身『侍』が、多数立候補し兼ねませんね」苦笑う。
『まぁな。若いのを送り込んでも良いのだが、初めての異世界転移だ。そこは海千山千の御前さんが適任だろう。
そして最も興味深いのは、『侍』での『オーラ』が、あちらでは『魔力』なんだが、『ヴォーク教の神の祝福の聖句』や『各種の魔法・魔術』等、『魔力』=『オーラ』の活用法を、教えてくれるそうだ。
注意点は、『侍』としては、あちらの政治形態に『内政干渉』を控える事かな。まぁ、『相互不可侵』て奴だな』分かってるだろう? と視線を送る。
「なるべく控える、ですね」はいはい。
『なるべくな。あちらの政治形態は、大小の連合国と幾つかの神殿が絡み合っての運営だそうだ。で、セルガさんは。ヤーディン大国の国教『ヴォーク教』の『タイ・クォーン公都教会』の、神官長だそうだ。だから、あちらで色々融通は付けられるそうだと』また、記憶をたどる。
「ふぅん。権力の押し合いへし合いならば、『融通』の実行力も不安定でしょうね」懸念に、唇を『へ』の字にする。
『まぁな。まぁ『侍』が飛び込んで行く、此方の諸国でも同様だろう?』何を今更。
「そうですね(苦笑)。ふむ。すると政治形態はや生活レベルは、歴史上中世の『騎士と剣』の中世クラスですか。数人の『侍』で、乗っ取ろうと思えば、可能ですね」にやり、と、あえて剣呑な事を言う。
『まあな。 だが、世界制覇なんぞ此の地球でも可能だ。 それは、『侍』の本分では無い。これまで通り『交渉人・仲介人』の立場を心掛けるぞ。 また『郷に入れば郷に従えを』で良いさ。 まぁ、テクノロジー的に此方の行動を事細かく記録される事も無いのが、好都合だ。で、御前さんのプランは?』視線で、回答を促す。
「そのセルガさんのヴォーク教神殿?を足掛かりとして、のんびり異世界観光でもさせてもらいながら、魔法や魔族を分析しましょう。そして生活魔法や魔術等日常的な魔力と言う、オーラ活用法を此方の世界でも使用来ないかを確認しましょう。最大限の理由は、こちらでは出来無いレベルまでの『侍』攻撃力を、強大な魔族・魔王で試せる良い機会と、捉えて居ます」キリっと、断定する。
『『最大限』てのが把握出来ない、出来てないのが痛し痒しだがな。まぁ、惑星崩壊は起こすなよ……そんなところか。と言う事で、『侍として、承認』しよう』にこり、と同意する。
「はい♪」セルガさんに連絡の、セント・メダルを取り出す。
『あぁ、そうだ』止める。
「はい。何でしょう?」止めた意図を問う。
『日防隊に近日中納品予定の、第一次『量産型強化スーツ』の進捗はどうしてる?』進捗を問う。
「えーと。隼?」うるおぼえで、相棒を頼る。
『日防隊からの選抜者に寄ル、試着スーツの試験運用からの『ダメ出し』は終了しましタ。許可を頂き次第、三富重工業での第一次量産に入れまス』立て板に水で、答える。
『わかった。武良は、異世界からでも侍クラウドで、フォローアップ等の対応出来るな。セルガさんへの連絡に入ってくれ』武良の回答は待たずに、話が進ム。
「はい」武良は改めて、セント・メダルに集中する。
リー リー リー
リー リー リー
鈴虫が優しく無いているような、音がする。
リー リー リー
リー リー リー
うん?
リー リー リー
リー リー リー
あれー セルガさんー
リンリンリン リンリンリン
リンリンリン リンリンリン
呼び出し音の音量と、色調が変わる。
リンリンリン リンリンリン
リンリンリン リンリンリン
えーと
リンリンリン リンリンリン
リンリンリン リンリンリン
おーい どうした?
リンリンリン リンリンリン
リンリンリン リンリンリン
耳が痛くなってきたなぁ
リンガリンガ リンリンリン
リンガリンガ リンリンリン
うぉ! 更に上がるか!
リンガリンガ リンリンリン
リンガリンガ リンリンリン
えー。召喚止めますとかじゃ無いよね。まぁ、鳴ってるから、大丈夫か。
リンガリンガ リンリンリン
リンガリンガ リンリンリン
なんか、バッド・トリップしそう……
リンガリンガ リンリンリン
リンガリンガ リンリンリン
ピポ!
お! やっと出たか♪
『はい! セルガで……きゃーーーーーーーーー!!!』
どんがら!!がっしゃ〜ん!!!
セルガさんらしき女性の絶叫と、転倒音と、何かの破壊音が、『侍』ヴァーチャル空間に響く。