1-2.母・父・妹・姪・甥の想い
『母さん。おかわり』
ジョイス・ターンは白いシャツの普段着で、実家食堂のダイニングテーブルに座り、空にした一杯目のシチュー皿を、母親に突き出す。
あいよ。
ジェナ・ターンは息子の皿を受け取り、コンロの上の大鍋から、山盛りよそってやる。
お前が帰って来たんで、たくさん作ってあるから。たんとお食べ。
『あぁ。母さんのシチューが、一番旨いよ』
ジョイス・ターンは、二杯目なのに猛然とシチューを口に運ぶ。
『おい母さん。こっちも、おかわり』ジョイスの夫のアーロン・ターンが、白いものが混じり始めた髭面に、笑みを浮かべて妻に空の皿を突き出す。
あら、父さん。お代わりなんて珍しいわね。
夫の髭に、シチューが付いて仕舞って居ないか、さり気無く確認しながら皿を受け取る。
『いいじゃ無いか。久々に息子と、このテーブルを囲んで喰えるんだ。食は進むさ』髭面に豪快な笑顔を浮かべて、妻に答える。
『おばぁちゃん。私もお代わり!』孫娘のケル・ターンが、子供用のやや小振りな皿を、祖母に突き出す。
『あ!ズルい!!僕が先だよ!!!』ケルと双子の兄で、孫のカイル・ターンも、一拍遅れて祖母に小振りな皿を突き出す。
『カイル!ケル!お老婆ちゃまを困らせないで!』ジョイスの娘のミーナが、双子の子供達をたしなめる。ジョイスのお腹には、三人目の子供が居る。ミーナの夫、婿のノブヒコ・ターンは出張中だ。
はいはい。でも、先にお皿を出したケルから先に出すね。
『父さん、母さん、皆んな……話がある』急にジョイスが、かしこまって皆に宣言する。
なんだい?
『母さん。懺悔する……俺、罪を犯した』
……そうかい。
ジェナは、薄々感じては居た。
『俺、これから大罪を償わなきゃいけない』
……じゃぁ。お別れに、来てくれたんだね。
『母さん、ごめん。今日で最後なんだ。もう会えない……俺、これから罪に服しに行く……来世でも母さんの子供に成れたら、今度はちゃんとする……先に征く事になってしまった事を……親不孝を、ごめんなさい』
ジョイスは深々と、頭を下げる。
わかったよ。ちゃんと務めなさい。償いなさい。また、御前と縁がある事を、願って居るよ。
ジェナは、頭を上げたジョイスの左肩に、手を置く……暖かい。
パッと、ジョイスはジェナの手を取る……暖かい。
『ありがとう』ジョイスはジェナに、良い笑顔で微笑む。
ジェナは、はっと、覚醒する。気が付けば、寝巻きのまま食堂のテーブルの『いつもの席』に、着いて居た。
夢?……いいや、違う。
「ジョイスは、ちゃんとお別れに来たんだな」ジェナと同じ寝巻き姿の夫も、自分の席で、寂しそうにつぶやく。
「ジョイス兄さんは、往って仕舞ったのね」寝間着姿のミーナも、寂しそうにつぶやく。
「ジョイスにいちゃんには、もう会えないんだね」カイルも、寂しそうだ。
「でも……」
「うん?なんだい、ケル」ジェナは、ケルの言葉を促す。
「ジョイスにいちゃん、良い笑顔だった!!」
皆、ふっ、と微笑んで、同意する。
「……ねぇ、あなた」ジェナは、夫に話し掛ける。
「なんだい?。ジェナ」夫は、優しく微笑み返す。
「ジョイスの部屋を、そろそろ片付け様かと思うの」ジェナは、はかなげに微笑む。
「そうだな」夫は深くうなづき、同意する。
さっ
窓から、朝日が刺して来る。
ジョイスの座って居た席には、シチューをキチンと食べ終えた皿が、残って居た。
もう、ジョイスの分は、取り分けなくても良いんだね。