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次曲「両親へ」


 同居人の(かなで)は普段、一切の感情も見せてくれない。

 笑顔は勿論のこと、驚嘆や悲哀も、とにかく感情の全部。

 張り合いがない、なんて物ではない。不気味――そう、不気味な子だよ。奏は。

 そのくせいつも余計な一言が多くて、私が作った料理はボロクソに批評する。それこそ、ネットショップのレビューの方が幾分か甘口に思える程に。完膚無きまでに。

 この前なんて、私がちょっと体に触っただけで顔を真っ赤にして怒り出すし、情緒が不安定過ぎる。

 え、感情は表に出さないんじゃないかって?

 そこが一番腑に落ちない部分だよ。喜んだり泣いたりしないくせに、怒りはするんだよね、あの子。

 それはもう、わかり易いくらいに目をキッと鋭くさせる。あんな目で睨まれたら、動物園のライオンだって泣いて逃げ出すに決まってる。


 そこでもうひとつ。

 奏はすごく綺麗な子で、ソファに座ってテレビを見てる時なんてじっとしてる分、本当にお人形さんみたいに見える。誇大も誇張もなしにね。

 肌は白くて腕も足も細くて、でも、目は大きくてくりくりしてる。充血してるみたいに赤いのが少し気になるけど。

 あと、白い髪の毛も長くて綺麗。

 いつも下ろしてるから、「そんなに長くて邪魔じゃないの」って訊いたら、「別に」の一言だけが返ってきた。

 勝手に結ぼうかとしたらまた怒られるし、それ以来は特に髪の毛に関しては触れてない。


 他に特徴的なのは、着ている服くらいかな。

 基本的には黒ばっかり着てる。あとは時々、白を着てるくらい。

 スカートの丈は足首まで隠れるやつばかりで、上も長袖が中心。さすがに耐えられない程に暑い日は半袖を着るけど、そんなのは夏場でも稀。見れたら、明日の天気が心配になる程度に稀。


 そして件の同居人は今も、テレビ台の向かいに置いてある水色のソファの上でお人形さんごっこに勤しんでる。


「かーなーでっ」


 持てる限りの愛想笑いをかましてみる。


「どいて」


 案の定、能面を被ったままで返してくる。

 ボソボソっとしてても、何故か聞き取りにくくはない声なのが不思議。いつもそんな声色で奏は話す。


(たま)にはさ、楽しくお喋りでもしてみない?」

「利がない。どいて」

「そんなこと言わないでよ。だって、一緒に住んでもう三年経つんだし」

「どいて」

「はい」


 出たましたよ、あの目。

 あれが出ちゃうと、さすがの私だって身の安全を気にしなくてはならない。

 幾ら自分が魔術師の端くれだろうが、相手は魔法使いなのだ。正面切って対峙したところで、為す術なく敗北してしまうのが関の山。

 だったら、触らぬ神に祟りなしじゃないけど。そっと身を退くのが賢い選択に違いない。


「それならさ、一緒に見るくらいは許してくれる?」

「勝手に」

「それじゃあ隣、失礼しますよー」

「煩い」

「ごめんなさい」


 目くらい合わせてくれたって、罰は当たらないと思うんだけどな。

 これが世に言う「ツンデレ」なら良いんだけど、ここ三年間はずっとツンとされてるのが現状で、幾ら待ってもデレが来ない。

 つまりこれはツンデレではなく、「ツンツン」か。


「新しい属性だね、奏っ」

「煩い」

「ごめん」


 三年経っても未だ、このツンツンとの付き合い方がわからない今日この頃。家主であるはずの私は酷く、肩身の狭い思いをしています。

 彼岸のお国で過ごしてらっしゃるお母さんとお父さんはいかがお過ごしでしょうか。こっちでは暑い日が続いておりますので、お二人も体調にはお気を付け下さることを切に、切にお申し上げます。

 お亡くなりになった今で尚、心より尊敬して止まない両親へ。娘の蔵森(くらもり)(あずさ)より。

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