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我が家の床下で築くハーレム王国  作者: りょう
覚悟と決断の夏休み 後編
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第83話感謝の言葉

「お初にお目にかかれます。私はセレスティアナ王国より使いで参りましたハスキと申します。今回柏原様のお宅をお訪ねさせていただいた理由は一つ」


「帰ってくれ」


「そう申されましても、こちらは国王様直々の指示できていまして、やすやすと帰るわけにはいかません」


「お前達の狙いは分かっている。だから帰れと言っているのだ」


 全てのきっかけはセレスティアナ王国の使いが柏原家を訪ねて来たところから始まる。当時柏原家の屋敷には、ある物が眠っていた。それはトリナディア王国も把握しており、それが国を動かすものだという事も両国は分かっていた。


「国を動かすほどのものって一体何なんだよ。あの屋敷にはそんな面影は一つもなかったじゃないか」


「それはそうに決まっているでしょ。奪われちゃったんだから」


「奪われたってまさか」


「そう。翔平から全てを奪っていったのはセレスティアナ王国の」


「そんな……馬鹿な話が」


 セレスティアナ王国はどうしても屋敷に眠るある物を手に入れるために、何度も交渉に訪れた。

 しかし屋敷の主人である翔平の父、柏原哲二はそれを断り続けていた。彼にも守るべきものがあったのだ。


「柏原さん、このままお断りし続けるつもりですか?」


「勿論だ。あれは誰かの手には渡せるものじゃない。たとえそれが旧知の仲の人間にもだ」


「それは私達にもという事ですか?」


「申し訳ないがそうなる」


 たとえ自国の王に頼まれても譲れないもの。その正体は実はまだ明かされていない。


「分かってないってどういう事だよ」


「それがセレスティアナに渡ってしまったからよ」


「え? 父さんは渡さなかったんじゃ」


「さっきも言った通り奪われたのよ。言う事を聞かない事に腹を立てたセレスティアナが直接屋敷に攻め込んできて」


「まさかその事件で父さんと母さんが……」


「そうだと良かったんだけど」


 突如として柏原家の屋敷に直接攻め込んできたセレスティアナ。強硬手段でそれを奪った彼らは、屋敷を焼き払ったが、柏原家の人間の命をその場では奪わなかった。


「お母さん! お母さん!」


「ごめんね翔平、柚……。二人の未来を見届ける事ができなくて」


「お母さぁん!」


 その代わりにセレスティアナ王国に捕虜として捕らえる事にした。だが捕らえたのは夫婦の二人のみ。二人の間にいた子供は、ギリギリのところでトリナディアが保護した。


「じゃあ俺の本当の父さんと母さんは、今生きているのか?」


「ううん。それは無いわ」


「え? でも命は奪わなかったって」


「その時はね。それから数年後に、二人の死刑を執行したのよセレスティアナが。しかもトリナディアから見える場所で、わざと見せしめにするように」


 ■□■□■□

 ハナティアの言葉一つ一つが俺の記憶を紐解く鍵になっていく。本当に小さい頃の記憶だからおぼろげだけど、徐々にあの時の事がよみがえる。


(そうだ、父さんと母さんは……俺と柚姉の眼の前で……)


「その事があってトリナディアが二人を保護する事になったんだけど、十五年前の事件をキッカケで今の家族に引き取られる形になったの」


「哲二と俺は昔からの仲だったんだ。だから子供がいたのも知っていたし、その事件で亡くなったのも知った。更に十五年前の事件でお前が記憶喪失になったと聞いた時、友の意志を継ぐ機会だと思ってトリナディアに頼んだんだよ」


「嘘だそんな……」


「翔平?」


 俺が頭で理解できる範疇を越えている。不謹慎だけど火事とかで亡くなったならまだ気が重くならなかった。だけど、真相は違う。俺の本当の父さんと母さんの命を奪ったのはセレスティアナ王国だ。


 俺の目の前で全ての幸せを奪ったんだ。


「訳が分からないよ、こんな話。思い出したく無い事まで思い出したし、話を聞かなきゃ良かった。何も知らないままのほうがよかった」


「落ち着いて翔平。辛い話かもしれないけど、これを受け止めないと翔平は……」


「分かってる。分かっているから……一人にしてくれ」


「翔平!」


 俺はフラフラしながら立ち上がり、父親の部屋から出て行く。一度一人にならないと、頭の中で整理ができない。目を背けないためにも、まずは一度時間をおいて……。


「待て翔平」


 部屋を出る直前に父さんが俺に声をかけてくる。俺は一度出るのを止めて、振り返る。するとそこには膝をついて座っている父さんの姿が。


「何だよ父さん、一人にしてくれよ」


「十五年、嘘をつき続けていてすまなかった」


「っ!? あ、謝らないでくれよ父さん」


 それは初めて見る親の土下座だった。こんな形で見る事になるなんて思ってはいなかったけど、それくらいの事をしてしまったのは確かだ。

 でも別に俺はそれについて、酷いとかそんな感情は抱いていなかった。むしろ俺から出てきた言葉は、


「嘘をついていたとはいえど、今日まで育ててくれてありがとう、父さん。話してくれた事もすごく嬉しい」


 今までずっと言えなかった感謝の言葉だった。


「だから……謝らないでくれよ。父さんは何も悪く無いんだから」


「翔平、お前……」


「まだ受け止めることは難しいかもしれないけど、時間をかけて受け止めてみせるよ。自分の中に眠る本当の過去を」


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