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我が家の床下で築くハーレム王国  作者: りょう
第1部 出会いと求婚の4月
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第6話ただその理由を知りたくて

 床で寝た影響もあってか、寝起きはあまりよいものではなかった。


(寒っ)


 まだ四月の半ば。そんな日にこんな床で眠ったら、風邪をひく可能性だってあった、そうだと分かっていても、俺はやはりまだハナティアを受け入れられない。


「すぴぃ……」


 そんな彼女がまた俺の眼の前で眠っているのだから、もう呆れを通り越して尊敬にすら値する。この積極性を他に生かそうとは思わないのだろうか。


「お前なぁ……」


 しかしその反面、かなりの至近距離にハナティアの顔がある為か、ドキドキしている自分がいるのも分かる。こう間近で顔を見るとやはり可愛いというか、何というか……。


(とりあえず落ち着け俺)


 ここで下手な事をすれば何か起きてしまうかもしれない。それを避けるためにも、俺は一度彼女を起こさないように立ち上がろうとするが、


「うーん、翔平……」


 寝言なのか名前を呼ぶハナティア。更には抱きついてくる。寝ぼけているのか素なのか判別がつかないが、余計に動きづらい。おまけに俺はこんな時でも心臓が破裂しそうになる。


(な、何でこんなにドキドキしているんだ俺は!)


 己の欲望と抑制心の狭間で葛藤し続ける俺。いや、女の子がこんなに近くにいたら誰だってドキドキする。好き嫌い差し置いて、こんなに可愛い子が……。


(これじゃあ変態だ俺!)


 顔は幼いし、体型も小柄。だけどそれなりの可愛さはある。更にこの積極性なら、大抵の男はアウトだ、


(こんな子が俺の運命の人だなんて)


 やはり信じられない。


「って、いつまで寝ているんだよ。起きろ!」


 だがこれがいつまでも長続きすると、俺も限界を越えてしまいかねない。ここは早く起こして、何とか危機を抜け出したいのだけれど、ハナティアとの距離は徐々に縮んでいく。


(こ、この距離だとほんとに……)


 いよいよキスをしてしまいかねない距離までやってきてしまったその瞬間、


「ハナちゃん、遊びに来た……よ?」


 ものすごく悪いタイミングで誰かが入ってきたんですけど。入ってきたのは茶髪のショートカットの女の子。この城にいるたり、おそらくトリナディアの住人だろう。それに恐らくハナティアの友人で……。


「きゃー、変態がいる!」


「あ、えっと、いや、これは……」


 必死に釈明をしようとするが、少女はそれを無視。部屋の外で大声を出し始めた。


「誰か、誰かー」


「頼むから俺の話を聞いて」


「おまわりさーん」


「呼ばないで! おまわりさんを。というかいるの?!」


 そんなの呼ばれたらシャレにならないんだけど。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ごめんなさい! 私が早まったばかりに……」


「いや、理解してくれたならいいんだけど」


 色々騒がしい朝が終わって、落ち着きを取り戻したところで先ほどの少女が謝罪しにきた。朝は騒がしくてよく見えなかったが、見た目はハナティアと同じ年代の子だ。


「本当あなたはつぐづくお騒がせものなんだから」


 隣にいるハナティアが、ため息をつきながら言う。俺と接している時よりも、声のトーンが低めな所をみると、こっちが他人と接する時のハナティアらしい。


(いかにも友達っぽいんだけどなぁ)


 こいつ、友達とか関係なくこんなひ暗いのだろうか。


「ハナちゃんがまさか、男の人と寝ているなんて思わなかったからつい」


「だからって、本当にお巡りさんを呼ばなくてもさ」


 ちなみにあの直後、本当にこの国のお巡りさんがやって来てしまい、危うく逮捕されそうになった。でも俺は明らかに何もしていないので、すぐに釈放された。

 これが地上だったら、もっとシャレにならなかったかもしれない。


「とりあえず彼は二週間前に知り合った、翔平という人なの。今後も会うことがあると思うから、自己紹介でもしておきなさいよ」


「わ、私はキャロルといいます。今朝は迷惑かけて本当にごめんなさい」


「もう謝らなくても大丈夫だよ。ハナティアから紹介あったけど、俺は柏原翔平。よろしくなキャロル」


「うん。よろしくね平ちゃん」


「へ、平ちゃん? というかキャラ変わるの早!」


 名前の思いも寄らぬ所をチョイスしたあだ名だったので、俺は驚いてしまう。ハナちゃんとかは何となく納得できるけど、平ちゃんって……。


「変なあだ名」


 それに対してハナティアは冷たくそんな事を言う。


「いや、ハナちゃんも大概だと思うけど」


「何か言った?」


 キッと睨んでくるハナティア。どうやら自分のあだ名も多少は気にしているらしい。


(似合っていると思うんだけどな、ハナちゃん)


「そういえばキャロルってハナティアの友達が何かなのか? ハナちゃんとか呼んでいるし」


「勿論! 私とハナちゃんはずっと仲良しなの」


「へえ」


「何たってハナちゃんは昔から」


「ちょ、ちょっと何を言おうとしているのよ」


「ハナちゃんの秘密」


「やめなさい!」


「痛っ!」


 ポカッと一発叩くハナティア。うん、俺が感じた通り二人は仲良しなようだ。素のハナティアが出ているあたり、それが証明になるだろ。


「仲いいんだな二人とも」


「勿論。私とハナちゃんは昔から寝床を共にする」


「これ以上誤解を招くような事言わないで!」


 まるで漫才のようなやり取りを続ける二人。俺はそれを微笑ましく眺めていた。


「何ニヤニヤしているのよ、この変態!」


「いやぁ、本当仲良いなって。これは百合だと間違わられても」


「翔平、あとで覚えておきなさいよ!」


 まあそれはひとまず置いておくとして、俺はキャロルに朝から何故ここに来た理由を尋ねた。


「ああそういえば忘れていたけど、これから私ハナちゃんとお出かけするの。平ちゃんも来る?」


「この国を案内してくれるのか?」


「案内って程ではないけど、見た所初めて来た人みたいだし、案内する! それでいいよねハナちゃん」


「私は構わない。本当は二人で……」


「何か言った? ハナちゃん」


「別に」


 何かハナティアがちらちらとこっちを見ているけど、二人でって、まさかとは思うけど……。


「ハナティア、お前……」


「何を勘違いしているのよ! 元々キャロルと二人で出かける予定だったんだから、当たり前でしょ」


「何だそうなのか」


 俺の勘違いだったらしい。まあ親友みたいだし、俺が邪魔なのは仕方ないか。


「まったく、ハナちゃんは素直じゃないね。あれだけ平ちゃんの事を」


「キャロル、これ以上喋ったら舌抜くわよ!」


「ほ、ほめんなはい」


 照れ隠し何なのか、それとも他の理由からなのかハナティアがやけに今日は冷たい気がする。もしかして俺が昨日勝手に先に寝た事を怒っているのか?


(でもあれは流石に……)


 あとで謝っておこうかな。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 キャロルによる案内は、昼頃に出発してそれから約三時間くらい続いた。国の形が円形状になっているので、ぐるっと国を一周回るような感じで歩き、一周し終わった頃には、夕方の時間に近づいていた。


「思った以上に広いんだな、ここ」


「気がつかなかったの? 城に入る時は通っているのに」


「案外気づかないものなんだよ。でも結構楽しかった」


「私も〜」


 正直な話トリナディアに大きなスポットがあるわけではなかった。でもそこはかとなく面白さは伝わっていたし、何よりこの二人と過ごす時間も決して悪くなかったと思う。


「平ちゃんって、特別な性癖を持った変態だと思っていたけど、結構面白い人なんだね。私楽しかったよ」


「誰が変態で特別な性癖の人間だ!」


 あれは男としての理性を保つ為に戦っていただけで、そういう性癖があるわけではない。


「でもまたこういうのはいいかも」


「だな。なんだかんだで有意義な時間を過ごせたし」


 三時間三人で過ごしていくうちに、キャロルとは打ち解けていい休日を過ごせたと俺は思う。聞いたところによると二人は同じ年らしく、何だかんだで年も近い事も分かった。


「じゃあ私この辺で。じゃあね二人とも」


「うん、じゃあね」


「またな」


 城の入口でキャロルとは別れ、俺とハナティアの二人きりになる。


「あー、疲れた。平ちゃん目の前だけ素の自分でいられるって、すごい楽しい」


「無理にキャラ変えなくてもいいのに。というかどさくさに紛れて平ちゃんって呼ばないでくれよハナちゃん」


「翔平も人の事言えないじゃない」


 そんな会話をしながら城へと戻ろうとする。だけどその途中で、ある事を思い出したので俺は一度足を止めた。


「どうしたの?」


「いや、ちょっと話しておきたい事があってさ」


「話したい事?」


「昨日も言ったけど、どうしてお前はそんなに俺と一緒にいる事を望むのかなってさ。今朝もあんなにあんなに近くで寝なければ、誤解も生まれる事なかったし」


「またその話? それなら昨日も話したし、今朝の事だって翔平が勝手に寝ちゃうから悪いんでしょ」


「いや、俺も悪いところがあるのは認めるけどさ」


 流石に朝みたいにあそこまで接近されると、男の俺としてはドキドキなイベントなんだけど、それでも何故かそれを受け入れられない自分がいた。

 その理由をこの三時間考えながら国を回っていた。その間にも国の人にすれ違ったけど、どうも男の俺は珍しい存在なのか奇異な目で見られた。

 その間ハナティアは何も言っていなかったけど、どう思っていたのかと思うと心が痛む。


「これだけ好きとか言われて、子作りしてくれとか言われてもどうしてか、はいとは頷けないんだよ。ハナティアが悪いわけではないのも分かっている」


「じゃあ誰が悪いの?」


「誰も悪くはない。でもお前だけは辛いと思うんだ。これから周りから奇異な目で見られる事もあるだろうし、それを我慢させる理由なんてない。だからやっぱり俺思ったんだよ」


 そして気づいてしまった。俺がこの状態だと辛い思いさせるのはハナティアだけなんだって。好きではない人とこうして二人でいる意味なんてないんだって。

 そんな毎日をこれからも繰り返すなら、彼女は辛さは更に増すだろうし、俺の心がいつ変わるかも分からない。


「このままその計画の要としてここで暮らすなんてできないよ。コミュニケーションとか必要とか色々言っていたけど、俺には難しい話だよ」


 そう思ったからその歩みを止めた。城に戻ったらそれを繰り返すだけ。だからここで戻らなければ、きっと全てが終わる。


(こんな絶好な話、捨てる方が勿体無い、それは分かっている)


 だけどそれでハナティアが辛い思いをするのは耐えられない。たとえ二週間だけの時間だとしても、ほぼ一緒に過ごしたんだ。情くらいはうつる。


「どうしてそういう事を……言うの?」


「どうしても何も、俺はお前のことを考えて言ったんだ。運命の人とかそういう言葉に縛られないで、お前にはもっと自由に生きてほしい。ただそれだけなんだ」


「翔平は……何も分かっていないよ」


「分かっていないって何がだよ


「私辛くなんかないよ。今まで経験してきた事よりもこれくらいは。翔平が好きじゃなくても、私が絶対好きにさせてみせる」


「それがどれだけ長い時間かかるのか、分かっているのか?」


「とっくにそんなの慣れてるから、大丈夫」


 何が慣れているのか俺にはサッパリだった。でもその言葉に少しだけ闇を感じた。まるでそれが長いあいだあったような言い方。しかも何故かそれが、俺に向けられている、そんな気がした。


「どうしてそこまでお前は……」


「そんなの決まっているでしょ? 私はただ翔平を」


「……本気だって思っていいんだな?」


「うん……」


 そこまで本気になる理由は俺にはまだ分からない。でもそれが本物だというなら、俺はもう少しだけ彼女を信じていいかもと思った。


(俺も不思議な性格してるよな……)


 こんな言い方されたら、無視なんてできるわけがないのに。

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