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我が家の床下で築くハーレム王国  作者: りょう
旅行とケジメの7月
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第44話二十年がもたらした諦め

 あれは丁度、翔平と私が出会って間もない頃。翔平はほとんど覚えていないかもしれないけど、例の事件が起きる前にもある事件がトリナディアで起きていたの。


「お父さん、お母さん、今からお出かけ?」


「ごめんねハナティア。少しの間お留守番できる?」


「うん! 留守番してる」


「偉い偉い。じゃあサクヤもハナティアの事お願いね」


「分かりました。しっかりハナティアをお守りします」


 少し前にも話したと思うけど、トリナディアはもう一つの地下の国のセレスティアナと同盟を組んでいたの。あの日お父さんとお母さんは、それの話をするためにセレスティアナに出かけたんだと思う。当時はまだ小さかったから詳しくは分からないけど、サクヤはそう説明してくれたの。


「そのセレスティアナに向かう途中に何かに巻き込まれたのか?」


「ううん。セレスティアナにはしっかり到着したのを、私はその日の夜に私はお母さん達から連絡を受けてるの」


「じゃあ他に何かその他に何かあったのか?」


「そう。その事件はお母さん達がセレスティアナに帰ってくる日に起きたの」


 無事談合を終え、お母さん達は翌日の夕刻までには帰ってくる予定だったの。それなのにお母さん達は帰ってこなかった。その次の日も、更にその次の日も。


「お母さん達、遅いねサクヤ」


「遅いでは済まないくらい時間が経っていますので、先程偵察を向かわせておきました」


 だけど何故かその偵察も帰ってこないという事態になったのが、お母さん達がセレスティアナに向かってから五日が経った頃。サクヤも本当は探しに行きたかったのかもしれないけど、私がまだ小さかったから置いて自分が向かうわけにもいかなかった。


「それってもしかして、セレスティアナが何か噛んでいたのか?」


「そう。これはもう少し経ってから知った事なんだけど、お母さん達がトリナディアへ帰ってくる日、手配されていたはずの帰りの乗り物がセレスティアナに壊されていたんだって。だから帰る手段を失ったお母さん達は……」


「そのまま帰ってきてないのか」


「うん……。何度もセレスティアナを問い詰めたし、探しにも行った。だけど、一度も見つけられなかったの。だからもう、私の両親

 ……」


 何度も探し続けてきた自分だからこそ、一つの現実を受け止める。もうそれ以外の答えは私の中にはなかった。


「私の両親はこの世にはいないの」


 それはまだ小さかった彼女にとっては、あまりに残酷過ぎる真実。


「だからねお父さんとお母さんが作れなかったこの国の未来を、私が作り上げなきゃって」


「だからお前は今日までずっと……」


 その真実は少女を決断へと導くことになった。


 ■□■□■□

 自分の両親は既にいない。

 そうハナティアははっきり言った。実の両親に二十年近く会えていないとなると、その方面で考えるのが妥当だとは俺も思う。

 だから彼女は何度も両親は既に亡くなっていると言ったのだろう。何度も頑張ってきた彼女だからこそ、その現実を受け止めている。


(だからハナティアは、両親の意志を継いで……)


 本当は泣きたいくらい辛いかもしれない。時間は経ったとはいえ、当時のハナティアはまだ幼い年。まさか俺が何も知らない傍らで、こんなにも残酷な事が起きていたなんて思いもしなかった。


 でも俺は、一つ思う事がある。


「なあハナティア、本当にお前は諦めているのか?」


(ああは言ったけど、ハナティアは多分諦めていない。自分の両親の事を)


 諦めているなら俺にわざわざ話さなかっただろうし、ハナティアが話した理由はきっと……。


「二十年よ。ずっと探しても見つからなかったんだから、諦めたっておかしくないでしょ?」


「でもその確証はどこにもないんだろ?」


「そうだけど。もう、私が出来る限りの事はした。諦める以外何もないでしょ」


「確かにここまでお前は一人、いや、サクヤとだから二人で頑張って来たんだよな。でも、今度は俺もいる」


 俺に力を貸して欲しいから、多分そうに違いない。


「……え?」


「探そう、お前の両親を。どんな結果であろうと、確証を得られるまで足掻いてみよう、ハナティア」


 母親の前であそこまで言ったからには、もう俺はここからは一歩も引かない。たとえそれが、ハナティアにとって残酷な答えになろうとも、俺は彼女の力になりたい。


「そんな……。翔平は何も分かってないから、そんな事言えるのよ。国のために諦める必要だってあるの」


「確かに下手に動いたら、国同士の関係が悪くなったりするかもしれない。だからって、何も証拠もなしに諦めるのは俺は嫌だ」


「……」


「なあハナティア、もう一度だけ希望を持ってみないか? このままなのはお前だって嫌だろ?」


 俺は彼女に手を差し伸べる。ハナティはその手を……。


「ごめんね翔平、やっぱりこれ以上の事は私はできない」


 取らなかった。それどころか、そのままハナティアは布団に潜り込んでしまった。


「ハナティア?」


 返事はない。どうやら眠ってしまったらしい。


(やっぱり、そう簡単にはいかなかったか……)


 二十年も探せば、普通は諦めがつく。俺の方がおかしかったのかもしれない。


(両親、か)


 当たり前のようにいる存在が、そこに長い間いないなんて考えたら、そんなの寂しいに決まっている。俺には両親はいるけど、それでさえ……。


(二十年前の事故で記憶を失ってから、最近になるまで何一つ違和感なんてなかった)


 自分の名前も、自分の家族も。


(だけど……)


 俺は一枚の写真を机の中から取り出す。記憶を取り戻してからずっと感じていたある違和感、その答えはこの写真の中にあった。


(そもそもトリナディアに幼い頃に通ってたと聞いてからおかしいとは思っていた)


 その違和感が確証に変わったのは、柚姉ちゃんの墓参りに行った時の事を改めて思い返した時だった。あの時は何も違和感なんて感じなかったけど、改めて思い返したら違和感はハッキリしていた。


(気のせいだと、思いたいな)


 その一枚には、俺と柚姉ちゃん、そしてハナティア。後ろにはハナティアの両親と思われる二人と、俺の今の両親とは違う人物が二人写っていた。


(俺の両親ももしかしたら、ハナティアと同じで)


 本当はこの世にいないのかもしれない。

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