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我が家の床下で築くハーレム王国  作者: りょう
梅雨と始まりの6月
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第32話好きとか嫌いとか

 翌日、すっかり元気になったのかハナティアが朝から俺の部屋にやって来ていた。


「昨日は心配かけてごめんね、翔平」


「気にすんな。五日も頑張っていたんだから、無理もないだろ」


「……うん」


 とりあえず元気になった事に一安心する俺。でも今の返事を聞く限り、どこか元気のなさを感じる。何かあったのだろうか。


「何か元気なさそうだけど、大丈夫か?」


「え? あ、うん。ちょっと昨日の事を思い出してて」


「昨日の事?」


「久しぶりにあの夢を見たから、少し怖くなったの」


「あの夢?」


 ハナティアが怖いと感じる夢、そんなのいくらでもあるかもしれないが、それ以上ならばそれは。


(二十年前の事故の事か)


 俺もそれに関わっているので安易にスルーはできない。でもそれを彼女に尋ねていいのだろうか。


 いや、それは……。


 俺が触れていいものなのだろうか、彼女の心の傷に。


「そ、それよりさハナティア。明日時間あるか」


「……」


「ハナティア?」


「翔平は聞かないの?」


「え?」


「自分が一番の被害者なのに、何が起きたのか聞かないの?」


「いや、それは」


 正直記憶を取り戻し始めている自分が怖かった。これ以上思い出したら、思い出したくない事まで思い出してしまいそうで……。


「翔平は怖いの? 記憶を取り戻すのが」


「それは……でも、ハナティアも嫌な事思い出すから聞かない方がいいと思って」


「私は気にしてないよ。もうこんなの慣れているから。それよりも翔平はずっと思い出せないままでいいの? 昔の事、柚お姉ちゃんの事、雪音ちゃんの事、そして私の事」


「このままでいいわけがない。でも俺はただ……」


 ハナティアの言葉に何にも返す事ができなかった。どれも正論だったし、俺は先日の一件で過去の記憶に恐怖を覚えている。


「あ、ごめん私……今……」


「いいんだハナティア。全部正しいから。それより明日時間があるか?」


「明日? 大丈夫だけど」


「お前に会って欲しい人がいる」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「なんだよ一週間ぶりに会ったのに、俺一人だけボッチかよ」


「悪い正志、明日学食奢るから許してくれ」


「分かった」


「案外安い男だなお前って」


 翌日の講義終了後、雪音と二人で我が家に帰宅。どこで三人で会おうか考えた結果、落ち着いて話ができる場所で尚且つ誰にも聞かれない場所がという事で、俺の家になった(その方が三人とも移動距離が大して必要ない)。


「おかえり翔平。先に上がらせてもらっていたけど、私に会わせたい人って……」


 部屋に入るとハナティアが一人お茶をすすっていた。そして雪音が入ってきたところで、その手が止まる。


「こんばんわです、ハナティアがちゃん」


「私に会わせたい人って雪音ちゃんだったの? 昨日はいかにも真剣な顔してたから、もっと大事な人だと思ったんだけど」


「いや、結構大事な人だよ」


 雪音には座ってもらって、俺はあえて立ったまま話を進める。


「翔平君、私も率直に聞いていいですか?」


「ああ」


「翔平君が一昨日の電話で私と話したいと言った事って、あの事だと思って間違いないんですよね」


「雪音が俺やハナティアと二十年前から交流があるって事だけど、いいんだよな」


「はい……」


「ゆ、雪音ちゃん、その話は……」


「いいんですハナティアちゃん。翔平君が記憶を取り戻してくれた事だけでも、私嬉しいですから……。だからもう黙っているのは終わりにしましょう」


「雪音ちゃん……」


 空気が一気に重くなる。別に重い話をしているわけではないのだけれど、やはりずっと黙っていたからかいきなり明かす事に抵抗をハナティアは感じているのかもしれない。


「翔平君は、いつ私の事を?」


「電話した日の少し前の日だよ。小さい頃の夢を見て、その中にお前がいたからハナティアに聞いたんだよ」


「そうだったんですか」


「翔平も最初は驚いてたけど、理解してくれたみたい」


「受け入れるのは大変だったけどな」


 高校生からの親友が、実は幼馴染だったなんて言われたら驚くに決まっている。だけどそれを自然と受け入れた自分がいるから不思議な話だ。


「まあ、とりあえずあまり重い話をするのはあれだし、飯でも作るか?」


「あ、そういえばまだご飯食べていませんでした」


「私もー」


「雪音はともかく、ハナティアは何か食べてこいよな」


 この話を長くするつもりはなかった。本来なら聞きたい事はまだあったけど、それはそれぞれの事情だと思うし、その記憶の扉を開くのは自分自身だと思う。

 ハナティアも雪音も幼馴染とかそんなの関係なしで、今も二人は大切な人なのは変わりないわけだから、それを知ったから何かあるみたいな事にはならない。


(だから重苦しい話をする必要はないんだよなきっと)


『いただきまーす』


 正志に話す時はこうはいかないかもしれないけど、今はそんな事は考えなくていい。ただこの時間を……親友と過ごす時間を……。


「ところで翔平君、ハナティアちゃんとはどこまで進んだんですか?」


「どこまでって、いきなり何を言い出すんだよ」


「だってお二人はもう付き合っているようなものじゃないですか。昔からすごく仲良しだったんですよ……嫉妬してしまうくらい」


「か、からかうなよ。別に俺達はそこまで」


 していないとは言えないところまで来ているので、俺は言い訳ができなかったのであった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 夜になって、雪音が帰る事になったので俺が送ってあげる事にした。


「あー楽しかった」


「何か昔に戻れたみたいな感じでした」


「昔に、か。言われてみればそうかもな」


 小さい頃によく遊んでいたなら、そういう錯覚に陥っても不思議ではない。まあ、俺には分からなかったんだけど。


「ねえ翔平君」


「ん?」


「翔平君はハナティアちゃんの事をどう思っているんですか」


「どうって?」


「その……好きとか嫌いとか」


「何だよさっきの話の続きか?」


「いえ、そうではなくてですね」


 好きか嫌いかと言われれば、勿論好きだけどそれ以上の感情が彼女に向いているのかまでは分からない。でもこの後子供が生まれたりしたら、もうその次元ではない。


「うーん、それは難しいな」


「では私が翔平君の事が昔から好きだと言ったら、どうしますか?」


「え? いや、えーっと」


 今サラッと告白された気がするけど、気のせいか?


「まあ冗談ですけど」


「なっ、からかうなよ」


 からかうように笑っている雪音。


「楽しいからいいじゃないですか」


「ぜんぜん楽しくないからな!」


 冗談のような告白。けど俺はその言葉にどこか真剣さを感じた。


「翔平君」


「何だよ」


「ハナティアちゃんを、大切にしてあげてくださいね」


「え?」


「ハナティアちゃんは、翔平君が考えている以上に過去の事に傷ついています。それを癒せるのはきっと翔平君だけですから、大切にしてあげてください」


 雪音は同じ年とは思えないくらい優しい微笑みで、俺に言った。


(ハナティアがどれだけ辛い思いをしているのかは分かっている)


 ただ俺は、その傷をどう癒せばいいか分からない。

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