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我が家の床下で築くハーレム王国  作者: りょう
梅雨と始まりの6月
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第25話あまりに早すぎる時

「な、なあハナティア、それは冗談で言っているんだよな?」


 そんな話、あり得ないと思っていた。たった二ヶ月、昨日も一日一緒にいたとは言えど、その可能性なんてないと思っていた。


「冗談ではないの。サクヤから説明は受けてないの?」


「せ、説明って?」


「信じたくはない話だと思うけど、私は普通の人間より、その子を授かるのが早いの。だからそれを活用して、計画も立案したの」


「そんな話されて怖くなかったのか?」


「怖いといえば本当だけど、長い間ずっと一緒にいた翔平ならきっと、何があっても問題ないって思って」


「問題ないって、そんなのお前……」


 ハナティアは太りの女性だ。いくら俺に対して信頼を置いているとは言えど、出産は彼女にとって一番大事な話。それを易々と受け入れるなんて、そんな事……。


(いや、もしかしたら)


 この二ヶ月ほとんど俺とハナティアが一緒だった。だとしたらよく考えれば、その考えがあってもおかしくはない。けど、俺と彼女はまだ……。


「ごめんね翔平、この計画は第一段階にして最終段階に入っているようなものなの。私達はこの国の未来を作るために、ありとあらゆる手を尽くす必要があるの。たとえそれが、相手がまだ望んでいないものだとしても」


「望まないって、じゃあ歴代が失敗してきた理由って」


「そう。お互いまだ思いが通じあっていない時点で起きてしまう事があるから、それを知った傍はその現実を受け入れられずに姿を消してしまう」


「まあ普通はそうだよな。正直俺も受け入れろ何て言われても、すぐには難しいよ」


 確かにこれはあまりに早すぎる。それが故に、まだ互いの気持ちも理解できていない時期にそれが来てしまう。だからいきなり子供ができたと言われても、男はどう反応すればいいか分からなくなる。そして葛藤の末姿を消してしまうのだ。


(だから失敗ばかりだったのか……)


 じゃあ俺はどうする。このままハナティアの元を去るのか?


「ハナティア様のそれは完全に血筋です。歴代がそうであるように、彼女も同じ力を持って生まれてきたんです」


 その会話にいつの間にこっちにやって来ていたのか、サクヤが入ってくる。


「それはもう呪いの領域と言っても過言ではありません。ですから、その呪いの連鎖を解くためにも翔平様には是非ご協力してほしかったのです」


「つまり、こんなのでも離れないでほしいってことか」


「そうなります」


「でも子供が生まれたら、呪いは続くんじゃないのか?」


「ごもっともです。それでも下ばかりを向いているわけにはいかないですから、私達は」


「そっか」


 やっぱり俺が考えているより苦労しているんだな、二人とも。でもそれとこれとは違う。もし子供が産まれるのであれば、俺はその責任を負う事になる。

 そう、俺は親になるのだ。年齢はとっくに成人はしているけど、まだ成人式も行っていないこの俺が。


(そんなのを突きつけられても……)



「ここまで話をして、改めて翔平に聞いていい?」


「何だ」


「翔平はこれから、親として私と一緒にこれからもいてくれる?」


「それは……」


今の俺に答えなんて出せる筈がなかった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 それから二日が経って、俺は再びトリナディアを訪れていた。理由は特にない。ただ、出せない答えを見つけたくて俺は彷徨っていた。


「はぁ……」


 あれから何度のため息をついたか分からない。


(親として、か)


 この前のハナティアの言葉を思い出す。果たして俺にはその責任を全うする事ができるのだろうか? いや、多分俺にはそんな事……。


(何でこうなるんだよ……)


大学生になってから本当に悪い事ばかりの人生だった、


「こんな所にいたんですか。ハナティア様が探していましたよ」


「そうか、悪いな」


 考え込んでいるとサクヤが俺の隣にやって来る。恐らく彼女は分かっているのだろう。俺がこうなる事を。


「なあサクヤ」


「何でしょうか」


「俺はこの先どうしていけばいい」


「それはあなた自身が決める事ではありませんか?」


当たり前の答えがサクヤから返ってくる。この話を他人に聞いたところで答えなんて出ない事を俺は分かっていた。でも誰かに相談したい気持ちが抑えられない。


「それは分かっているんだよ。けど、俺の中で答えが出てこないんだよ。親になるって事がどれだけ責任重大な事で、それを背負うという事がどれだけ重いのか」


「それは実際になってみて分かる事ではないでしょうか」


「それは分かっているんだよ。こんな事一度も考えた事ないし、答えを今出すなんて不可能なのも分かっている。だけど時間だってないんだろ?」


「長くはありませんね」


 でもだからこそ、俺は答えを知りたかった、だってそうすれば、もっと楽になれると思うから。それが甘い考えだとしても、だ。


「そこまで追い詰めているなら、一番身近な方に聞いてみるのはいかがでしょうか」


「一番身近な方?」


「翔平様を育てた方がいらっしゃるじゃないですか」


「俺の両親か?」


「そうです。一人で悩んでも埒があかないと思いますから、どうでしょうか」


「確かにそれはありかもな」


 今週末にでも家に行ってみるか久しぶりに。


「もし両親の元に行くのであれば、一つ私からお願いがあります」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 そして週末。俺は久しぶりに実家へと帰ってきた。二ヶ月しか経っていないのに、何だか懐かしさも感じてしまう。


「ハナティアは来た事があるのか? 家に」


「ううん。それはなかったんだけど、一応翔平の両親とは面識があるの」


「そっか。じゃあ初対面とかの心配はないんだな」


「うん」


 俺の隣にはハナティアがいる。先日サクヤが俺に頼んだのは、ハナティアも是非連れて行ってほしいとの事だった。面識はあるという事なので、問題はないみたいなのだが、一体彼女が付いてきて何を話すつもりなのだろうか?


(俺はあまり好きじゃないんだけどな、こういうの)


 とりあえず迷っている場合ではないので、家のインターフォンを押す。すると少しした後に家の扉が開かれた。


「はーい。って、あら? 翔平どうしたの? 突然」


 中から出てきたの、俺の母親だった。いつもと変わらない能天気な顔をしている。


「た、たまには家に顔を出そうかなって思って」


「それに後ろにいるのってもしかして、ハナティアちゃん?!」


「お久しぶりです」


「本当に久しぶりね。元気にしてた?」


「はい」


「とりあえず中に入ってちょうだい」


「お邪魔します」


「た、ただいま」


 二ヶ月振りの我が家への帰宅。

 それは俺が一つの意味を知る事になる重要なキッカケになる大切な日になるとは、この時はまだ知る由もなかった。

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