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我が家の床下で築くハーレム王国  作者: りょう
第1部 出会いと求婚の4月
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第1話空を知らない国

 俺がこの訳が分からない床下の王国に来ている間に、あの姫が留守番するという意味がわからない事態に、俺は混乱した。


「俺の家に客とか来たらその時はどうするんだよ」


「姫様には居留守を使ってもらうよう指示しておきました。そうすれば問題ないでしょう」


「居留守って、普段使うものじゃないんだけどな……」


 それでもおれは納得がいかない。たかだか説明を受けるだけなのに、こんなに不安になるのは初めてな気がする


「何をそこまで心配することがあるのでしょうか。そんなに姫様を信用できないのですか?」


「信用も何も、まず初対面なんですけど。あと普段から全裸の人をどう信用しろと」


「あ、もしかしてお宝をトレジャーされないか心配しているのですか? それならご心配なく。姫様にそういう趣味はありませんから」


「あっても困るし、そんな心配は一切してないからな」


 というか誰がいつそんな心配した? 俺が心配なのはそっちではないんですけど。


「男性の方といえば、親とかには見られたくない物はそこに隠すという伝統があると聞いています。いわゆるお宝ですよね」


「伝統というかは怪しいが、俺は決してそういうのは断じてない! あと俺がしたいのはそういう話ではない」


「ではパソコンなどの履歴などは」


「何でそんなのばっかり知っているんなお前は」


 地下の人間のくせに、何でそういうのは知っているんだよ。俺には決してそんな事は……。


(……)


 隠し場所変えておこうかな。



 そんなくだらない会話をしている間にも地下王国を歩き続ける俺達。広さが広さなだけあってか、目的地らしき城までもそれなりの距離がある。あそこに向かうだけでも疲れてしまいそうだ。


「入った時も思ったけど、ここってかなり大きいよな」


「もしかして疲れましたか?」


「疲れたというよりは眠いかな。もう夜だし」


「私はそれほど眠くないですけど」


「それは多分、この国に空がないからじゃないのか?」


 ここは地下の国なので、空というものがない。今まで当然のように見えていたものが、突然見えなくなるとどことなく寂しく感じる。


「ここって空がないけど、寂しく感じたりしないのか?」


「生まれた時から見てきたものなので、特に違和感とかは感じませんね。むしろ最近まで空というものを知りませんでした」


「それマジで?」


「はい。特に姫様も……」


 信じられなかった。こんな所に空を知らない人達がいるなんて。でも地下での暮らしなら、それは仕方がない話ではあるんだけど。


「そうこうしている間に着きましたよ」


「え?」


 深く考え込んでいる内に、使いが俺に声をかける。顔を上げるとそこにはあの城が目の前にあった。


(デカっ!)


 王国の中心というだけあって、その大きさはファンタジーの世界とかで出てくるようなレベルの大きさだった。こんな所に俺が入る事になるなんて本当に驚きだ。


「とりあえず中にお入りください」


 使いが城の入口を開き、俺はその中に入る。中もハリボテとかそういうものではなくて、しっかりとした城だった。それを見て俺は改めて考える。


(ここまで来たけど、特別俺が選ばれるような理由は見当たらないなぁ)


 わざわざ越してきた家の地下に、こんな世界が広がっているなんて思っていなかったけど、これってただの偶然な気もする。

 姫や使いの言い方だと、まるで俺は最初からここに来ると決まっていたような言い方だったけど、それは気のせい。そうだと思いたい。

 特にこんな豪華な城に住むような縁なんて、俺にはない。


「それではこちらへお掛けください」


 客間へと通された俺は、紅茶らしきものを出されながら近くの椅子へと座る。その正面に姫の側近の人(なのかは分からないけど)が座る。

 俺が座ったのを確認して、彼女は紙とペンを出して俺に告げた。


「まずはこちらの契約書の方にサインしてください」


 それは正に悪魔の契約とでも言わんばかりだが、まさか第一声がそれとはいくらなんでも酷い。


「待て待て、説明なしに無茶言うな。あと契約って何だよ!」


「ここまで来てくださったという事は、あなた様は了承してくれた事になりますので、説明は不要かと」


 しかもさっきの姫と同じ事を言っている。オイオイ、しつけはどこへ行った。しつけは。


「何なの? わざとなの。さっきから何度も言っているけど、説明してくれないとこっちもなんとも言えないからな」


「はぁ……仕方がありませんね。そこまで言うなら説明してあげますよ」


「何で上から目線?!」


 本当にこんな調子で大丈夫なのか?


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「まずあなた様、えっと柏原何ちゃら様でしたっけ」


「名前くらい覚えておけよ。俺は柏原翔平だ」


「ではあなた様で」


「もう何でもいいから、説明してくれ」


 もうどこからツッコミを入れればいいのか分からないので、話を進めてもらう事にする。


「文句ばかりで仕方がない人ですね」


「誰のせいだよ」


 彼女はまたため息をついてから、やれやれと説明を始めた。


「まずあなた様をここにお呼びいたしましたのは、私達の国の繁栄、すなわち子孫を残して欲しいからです」


 子孫を残す? それはつまりあんな事やそんな事をして、子作りをこの地下世界でしてくれとでも言いたいのだろうか。しかもその相手は恐らく……。


(あの姫だよな)


 俺に犯罪者になれとでも言いたいのだろうか。


「なあそれって、結構な責任があるんじゃないのか?」


「一つの国の繁栄ですから、重大責任ではありますね。でもそれはあなただけが負う責任ではありませんよ?」


「あの姫にも背負わせるのか?」


「元からそういう話ですから」


「そうは言うけど、子作りなんて簡単にできるようなものじゃないだろ」



 俺の頭の中では子作りというのは最低でも二年はかかると思っている。それを地上での生活を両立させながらなんて、無理な話だ(まだ了承すらしてないけど)。


「勿論こちらも決して無計画で頼んでいるわけではありません。あなた様の中にある力と、姫様の中にあるものの二つを合わせれば、きっとこの国の危機を救えます」


「俺の中の力?」


 そんな話聞いた事ない。というか子作りの為に使う力って、なんか大丈夫なのか?


「その辺りの詳しい事は追い追い話させてもらいます。でもその前に、あなた様の承諾が必要なんです」


「そう言われてもなぁ」


 はい、とは返事できるような話ではなかった。異世界にでも来ているならともかく、ここは俺の家の地下だし帰ろうと思えばすぐ帰れる。

 ましてやこの説明は、まだ重要な部分が抜けているところが多い。そんな話を俺は了承できるほど優しくはない。


「まだお悩みなんですか? こんなに私達が頼んでいるのに」


「いいか、よく考えてみろ。いきなり自分の部屋に穴を開けられて、こんな地下の国で子作りをしてくれなんて話、誰が納得できるか。相手の気持ちも含めてこの話は滅茶苦茶すぎる」


「無茶な話なのは私達も承知しています。しかし残されている時間も多くはないんです」


「時間がないのは何となく分かる。だけどそれだけでは誰もうんとは頷けない。しかもお前の説明はまだ曖昧なところが多すぎる。残念だけどこの話は無しにしてくれ」


 立ち上がってさっさと帰ろうとする俺。あの穴どうやって埋めようか考えながら、ドアノブに手をかけたところで、再び声をかけられた。


「では、もしこの国の姫様である、ハナティア様があなたにとってただ一人の運命の人だって言われたらどうしますか?」


 その言葉を聞いて俺はその手を止める。


『ただ一人の運命の人』


 何故かその言葉が俺の中で引っかかった。理由は分からない。けど、その言葉に何か特別なものを感じた。


「どういう意味だよそれ」


「知りたいですか? でしたら、是非とももう少しだけ私達の事を聞いてもらいたいのですが」


 それは単なる偶然だったのかもしれない。でも何故か分からないけど、俺はその言葉に聞き覚えがあった。


(どこか懐かしさすら感じる)


 何故そう思ったかは分からないが、もう少しだけ聞いてみる価値はあるのかもしれない。


「分かった。でもそれでも納得できなかったら」


「その時は私達も潔く諦めます」


 十八の春、俺の中で何か特別なものが今始まろうとしている。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 一方その頃の姫はというと。


「うーん、やっぱり外の空気は気持ち良い」


 一人東京の地に降り立っていた。身体的な大きさははたから見ると小学生から中学生くらいの身長だが、こう見えてそこそこの年齢はいっている。


(って言っても、誰も理解してくれないけど)


 体は小さいし、色々な場所が女性として成長していない。それが一番の理由ではあるのだけど、私だってこれでも頑張って生きている。


(それにこれからだってもっと頑張らないといけないし)


 そんな彼女が何故一人東京のど真ん中を歩いているのかというと、彼女にはある目的があった。それは……。


「そろそろ新しい服、欲しいなぁ……」


 自分の為の新しい服を、この地上で買い物する為だった。


「折角会えたんだから、私も服くらいはしっかりしないと」


 止まっていたそれぞれの時間が、ようやく動き出そうとしている。


(やっと会えたんだから。私ずっと待っていたんだからね、翔平)

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