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我が家の床下で築くハーレム王国  作者: りょう
第2部 新生活と演説の9月
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第97話王女の演説〜一時間前の葛藤〜

 本番二時間前にハナティアが倒れてしまった事もあり、今日の演説は中止にしようと俺とサクヤは決断した。

 しかし再び目を覚ましたハナティアは、


「中止なんてできる訳ないでしょ! 折角ここまで準備をしてきたんだから」


「お前さっき倒れたばかりなのにそれで大丈夫なのかよ」


「あれはちょっと意識を失っちゃっただけなんだから平気よ。これでも私の体は丈夫なんだから」


「丈夫なら倒れたりしねえよ」


 あんな事がありながらも、彼女の意志は変わらなかった。あれだけ演説を行う事に躊躇っていたというのに、どうして今彼女はこんなにも……。


「翔平様、こうなってしまった以上はハナティア様の意志を尊重するべきではないでしょうか」


 サクヤはハナティアの意志を尊重したいのか、先程の意見をガラリと変える。俺も勿論彼女の意志を尊重してあげたい。だが彼女がこの後もう一度倒れてしまうような事があれば、もしかしたら取り返しのつかない事になってしまう可能性だってある。


「もしもう一度倒れるような事があったら、どうするんだ?」


「心配いらないって言っているでしょ。全く翔平はどこまで心配性なのよ」


「お前はこれまでも何度も心配させてきただろ。それに今日倒れた事だって、もし他に原因があったりしたら、ちゃんと調べてもらう必要があるし」


「私を信じられないの? 翔平は」


「違う、そうじゃない」


 俺は何を言われても不安を払拭する事ができなかった。別にハナティアが信じられないわけではない。ただ、彼女にもしもの事でもあればと考えてしまうと怖いのだ。


 そう、例えば彼女の姉が言っていたことのような事が起きてしまったりすれば……。


「ごめんね翔平。心配させてばかりで。だけど今私はやるべき事をやらないといけないと思うの。だってここまで準備してきた事が無駄になるなんて嫌でしょ? それに人がもう集まり出してるんだから、帰ってもらう事なんてできないでしょ」


 踏み切れない俺にハナティアは優しく言葉をかけてくる。ハナティアの言葉が最もだし、もうその意志は変わることはない。だったらもう俺がするべき事は……。


「それはそうだけど……。本当に大丈夫なのか?」


「本当にちょっと疲れていただけだから。ほら、もう時間もないし最後の準備に取り掛かろう?」


「あ、ああ。分かったよハナティア」


 彼女を信じるしかない。


 ■□■□■□

 本番まで残り時間も三十分を切り、俺とハナティアその時に向けて城の外へ出て様子を伺っていた。


「やっぱり結構人来ているんだな」


「当たり前じゃない。国の姫様が演説するんだから」


「ちなみに演説を今までにした事は?」


「ないわよ、そんなの」


「それでよくここまで自信を持てるなお前」


 初めてなのは何となく察してはいた。だからこそ演説の内容には力を入れてきたし、わざわざ演説しやすいようにちょっとした舞台まで設けた。

 ハナティアは舞台の設置までしなくてよかったのにとは言っていたが、雰囲気は大事だと俺は思っている、


「それに沢山の人に来てもらわないと、この後のイベントにも影響を及ぼすでしょ?」


「この後のイベント?」


「そういえば話していなかったわね。十月の後半に行うわよ、私達の結婚式。式にはあまり人を呼ばないけど、その後に国民にお披露目する式典だった行うんだからね」


 サラッととんでもない事を言ってのけるハナティア。いや、結婚式は行わないといけないのは分かっていたし、ここでの暮らしが始まった以上、時期も早いのは分かっていた。


 だからってこんなタイミングで教える事はないだろ。


「ちょっと待て、それ今言う事なのか?」


「しょうがないでしょ。話す機会がなかったんだから」


「別に終わってからでも良かっただろ」


「緊張を和らげたかったの。話していないと緊張するんだから」


「まあその気持ちは分からなくもないけどさ」


 やたらと話してくるとは思っていたが、本音はやはりそれだったらしい。緊張和らげるために結婚式の日取りを教えると言うのは、少し変だとは思うけど。


「さてとそろそろ時間だけど、大丈夫か? まだ倒れてたばっかりなんだから、無理だけはするなよ」


「何度も言わなくても大丈夫。翔平は見ているだけでいいんだから」


「だから俺は不安なんだけどな」


 演説の内容も、舞台の準備もバッチリ。ハナティアの体調も一応大丈夫らしい。だから問題はないはず。


 なのに何故か胸騒ぎが収まらない。


「じゃあ行ってくるね翔平」


 だが俺の不安をよそに、無常にも時間はやって来てしまう。ハナティアは舞台へと上がっていく。俺はそれを影から見守る。


「トリナディア王国民の皆様、今日は集まっていただきありがとうございます。今日は皆さんにこれからのトリナディアの事、そして私がこれから行う事について、皆さんに私から直接伝えたくてこの場を設けさせてもらいました」


 ハナティアが挨拶の言葉を述べる。ここまでは予定通り。あとはハナティアが俺と一緒に考えた言葉を皆に伝える事ができれば……。


「しかしそのお話をする前に、もう一つ私個人の話になりますが、皆さんにお話ししたい事があります」


「え?」


 だがハナティアが次に述べた言葉は、俺と考えた言葉ではなく、俺は思わず声を漏らしてしまった。


「しょ、翔平様、大変です」


 同時にサクヤが俺の元に慌ててやって来た。


「どうしたんだよサクヤ、そんなに慌てて」


「ハナティア様が……」


「皆様が知っての通り、私はこの度結婚式を挙げさせてもらいます。そして一月には子供も生まれます。そしてそれを機に……」


「私宛にこんな書き置きを私の部屋に残していたんです」


 サクヤが一枚の紙切れを俺に渡してくる。そこには……。


「王女の座を降り、私の姉であるクレナティアに全ての権限を譲る事に決めました」


『今日まで王女の私を支えてくれてありがとう。これからはお姉ちゃんを支えてあげて』


 今の彼女の言葉を短くまとめたような言葉だった。


「ハナティア、どうしてお前いきなり……」


 俺とトリナディアを築いていくって約束したのに、どうしていきなりこんな事を言い出すんだよ。


 それはある意味、ハナティアの俺に対しての裏切りでもあった。

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