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6 来訪

(1)


玄関の

ベルが鳴って

何気なく開けた

ドアの向こうに

君がいた驚き


いるはずの

ない人

あるはずの

ない光景


僕がどれだけ

呆然としたか

君は知らないだろ


背中に父の

声を聞くまで

君を中に

通すことすら

忘れてた


僕がけがを

したと聞くなり

やって来た

君の直情径行に呆れ


天敵の

懐にさえ

面子も忘れて

飛び込んでくる

無鉄砲な

無垢さに呆れた


ついおととい

体育館で

4度目の

派手なけんかを

僕としたのは

どこの誰?


意地っ張りじゃ

僕に負けない

その誰かさんが

今 目の前に

ポツンと

立ってる


それを

信じろって?


「僕とけんか

できなくて

寂しくなって

来たんだろ」と

からかわずには

いられなかった


通りで不良に

絡まれたと

とっさに答えた

作り話に

見るからに君は

疑わしげで


不様なけがの

ほんとの理由を

問いつめられる

より先に

話をそらして

しまいたかった


いや

そうじゃない


君が

来てくれた

嬉しさを

勘づかれるのが

気恥ずかしくて


からかわずには

いられなかった



(2)


我が家の

小さな台所に

女性が立つのは

いつ以来だろう


君が料理に

慣れてないのは

ものの一目で

わかったけど


誰かと料理を

する楽しさを

あのとき初めて

味わった


野菜を切る

危なっかしい

君の手つきも

玉ねぎに

泣き笑いする顔も

愛おしかった


「お母さんは?」と

君は訊いたね


僕はとっさに

はぐらかした


いつか君に

話すときなど

来るんだろうかと

心のどこかで

思いながら



(3)


父のことを

よく思わない連中の

嫌がらせなんか

しょっちゅうだった


学校でも

家でも


でもまさか

君にまで

巻き添えを

食わせるなんて


思い出すと

今でも

胃の腑が裏返る


父の不屈の信念は

息子の僕にも

誇らしい


だから連中に

どんな仕打ちを

されたって

弱気になんか

ただの1度も

なった覚えは

ないけれど


さすがに

あの日

あのときだけは

我が家の運命が

恨めしかった


来てくれた

君の好意に

あんなひどい

お返ししか

できなくて


すまなさで

一杯だった


とにかく君に

けががなくて

良かった


神様に

感謝したかった


僕の腕の中で

大丈夫と

小さく気丈に

頷いた君


それだけが

救いだった




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