一階探索編
エントランスを仕切るドアを開けると、廊下に出た。
そこからは外が見えるが、外側の壁半分は何故か全て鉄格子みたいに鉄棒が設置されており出られないようになっていた。
「何でこんな風に鉄棒があるんだ? 牢屋かここは?」
ポンポン鉄棒を触りながら山田。
「こう言った物を付ける理由は色々あるが……外からの進入を防止したりとかじゃないか? ただでさえ外部に民家が無いんだから」
「中で何か起こったら牢屋の言葉通り逃げられないな」
「止めてよ、もし、急にその辺のドアが開いたらどうするのさ」
キィ……とか錆びた音がしてゆっくり開いたらど思うと……おお、恐ろしい。
「どうすればいいんだ、それは? 逃げるか? 立ち向かうか?」
「もし、立ち向かうさ! 小西がな!」
「俺か?」
「当たり前だろ、木刀小僧」
「誰が小僧だ、馬鹿者」
ここにいるのはバカばかりだからまだ気は楽になるけど……僕は本来ビビりなんだから、こんな所来たくないってのに。
それにしても、結構綺麗だな。
もっと、窓が割れたり、辺りはゴミが散乱してると思ってた。
「意外そうだな? 綺麗すぎてか?」
「え、ああ、そう。色んな奴らが見に来てるならもっと荒れてるかと思ってた」
「昼はな、よく管理者が来るらしいんだ」
ああ……掃除してるって?
「じゃあ危ないじゃん! 夜だって、見つかりかねないよ!?」
「いや、それは大丈夫だ」
この日と、何を根拠にそんな事言っちゃってんの?
「管理者も夜は来ないらしい」
「何それ?」
「交通の便が悪いからだろうが」
うーん。聞けば聞くほどこのマンション不審な気がするのは僕だけなんだろうか?
「で、どうする? 一個ずつ開けて行くか」
「いきなり!?」
「いや、まずは陣形を決めよう。よいか山田。我々はインペリアルクロスという陣形で戦う。防御力の高い俺が後衛、両脇を小西と相沢が固める。お前は私の前に立つ。お前のポジションが一番危険だ。覚悟して戦え」
「いや、それコピペのやつじゃん」
しかも、さり気なく自分を安全な後衛にしてやがる。このビビり、侮れない。
「オーケー、わかった! じゃあ、一個目、行くぜ!」
「いいのか、流石バカだ!」
山田は力一杯101号室のドアを握り、引っ張る。
何か起こるかもしれない。こんな小さな明かりひとつしかないこの場に、そして俺達に緊張が走る。
「いやいや、ネタはいいから早く開けろって」
「無理だ、鍵かかってるし」
そりゃそうだよな。まっとうな人間なら閉めとくよな。
開けとく意味ないし。
どうやら全ての部屋は施錠済みらしく、一階は全て見回ってしまった。
「残念だな、折角俺の村雨が唸ると思ったんだが」
「それ、ただの木刀だろ。剣道未経験者」
「だけどよ、これを全部の階やって回るのか? 怖いとか置いておいて疲れちまうぜ」
全部がしっかりと管理されてるのを感じて、僕たちは少しだれてきた。
「一階はもういいか? じゃあ次は……一気に一番上にでも……」
「なあ、ゴミ捨て場とかないのか?」
ゴミ捨て? 外じゃないの?
「こんなにでかいマンションで、一階見て回ってゴミ捨て場が設置されてないのってあるか?」
「あるんじゃないの? 実際ここ、そうだし」
「悪魔の証明をしてるんじゃなくてな。俺の知ってるマンションはこの規模だと大体は併設、ないしは中に専用スペースがあるはずなんだよ」
言われてみれば不便だよな。
「じゃあ、少し探してみるか?」
「もう一階は見てないか? 流石に上にはないだろ?」
「エントランスは別出口なかったか?」
うーん、わかんないな。暗いし、そこまで見てなかったから。
そして戻る僕達。
「こっちは出口で、こっちが今来た所……で、後は……」
「管理人室があって、郵便受け……」
「他に開いてる郵便受けはないな、やはりこれだけが収穫だな!」
「お前も探せ、バカ!」
本当に、明かりないとわからない位真っ暗って、どうやってここの人は生活してたの?
照明使っても気が滅入るよね?
「お、こっちにもドアがある!」
「それだ! でかしたぞ、相沢偵察兵!」
「さっきと違うぞ、さっきは相沢強襲兵だったろ?」
「よっしゃ、一番は任せろ!」
「……相沢衛生兵です」
どっちでもいいけど。
山田が走り去る後を僕達が追いかける。
そんな図式が出来上がっていった。
通路は突き当たりまで何もなく、道の先にはゴミ集積場と書いたプレートが下がっていた。
「あったな」
「ここも閉まってたら台無しだな」
小西はまた何か違和感でもあるのかな?
「何か感じる?」
「何? 霊感みたいな話か? 俺はそんなの興味ないからわからん。さっきのも、建物としての違和感だけだ。だから別にあったんだな、位にしか思わんよ」
そんなもんか。
「霊感なんて上等なもん俺達があるわけないさ。ほれ、山田、開けろ」
「ふ、たまには踊らされてやる! それ!」
今度はちゃんと開いた。
しかし、開いたドアが、壁にぶつかってトンでもない音が響き渡った。
「バカ! おい、行くぞ!」
「え、一寸、何処行くの?」
山下は僕の手を掴むと、わき目もふらずにかけだしていた。
一瞬だけど、ゴミ捨て場には何か置いてあった、そんな気がした。