準備は必要ですよ?
今は綺麗に建てられた立派なマンション。
以前もマンションでかなり老朽化が進んでいた。
これはその以前の建て直し前のマンションの話。
建て直しが決まったからか、住民は引っ越したり、所有者の進める別の建物へ移動したりして、そのマンションは段々と暗く、閑散としていった。
全ての住民が移動してからも、暫くは何もせず時折人は来るのだがそのままの状態がキープされた。
砂利だった駐車場は草が生えてきて、各部屋のベランダ等は塗装が剥げて焦げ茶のサビが露出してきている。
ぱっと見幽霊マンションの出来上がりだ。
「と、言うわけでさ、今日はそのマンションに行って見ようぜ!」
集まってゲームをしていた僕達に、言い出したのはいつも急に突飛なことを言い出す山下だった。
「でもさ、それって不法侵入なんじゃないの?」
「バカだな! そんなの見つかんなきゃいんだよ」
僕の言葉は瞬時に一蹴された。
「何処だ?」
「ここならやら30分位だな」
「マジか! そんな近くなのかよ!」
ゲームに集中していた小西とバカの山田が聞く。
この感じだともう行く気か。
「で、相沢。お前はどうする?」
「皆が行くなら行くよ」
最早選択肢はなかった。
メンバーは僕、山下、小西、山田の四人だ。
ゲームは即座に電源を落とされた。
「ここだ、いい雰囲気だしてるだろ?」
「何処が……30分、だよ。遠すぎるよ……」
騙された。
30分なんてトンでもない……一時間はかかったよ。
「お前……盛りすぎだぞ。こんな遠いならいかねぇっての」
「ま、ついたしいんじゃね?」
僕たち自転車部隊は、そのマンションの駐車場に自転車を止めて、マンションを見上げてるような感じになっている。
周囲は工場やトラックの集積場があり、人の住むような環境ではないように感じる。
「こんな所に住んでた人いるの?」
「さあ? 社員寮かなんかだったんじゃないの」
案内した当人はあっけらかんとそんな事を言う。
おい、案内役が説明を放棄してどうするのさ。
「おい、入り口、塞がってるぞ」
先にマンションを回っていた小西は、戻ってきてそう言った。
「なんだよ、じゃいけねぇじゃん! どうする? 窓ぶち破るか?」
「落ち着けバカ! 確か、どっかに入り口はあるって話だ。落ち着いて、入り口を探すぞ」
確かにそうだよね。
こうやって、バカな奴ら(僕らみたいな)が侵入するかもしれないから、塞ぐよね。
確かに、板で階段を封鎖してるし。
改めてマンションをみる。
真っ暗なマンションは所々ボロボロで、廃墟と言っても支障ないたたずまいだ。
入れない、その時点で、何だかそれが俺たちに対する警告のような気がしてきた。
「本当に行くのか? 入ったら呪われたりしないか?」
「古い考えだなぁ、相沢は。なんの言われもないただのマンションに何かあるかっての。これはこれからお前等を誘うための試練だ」
試練って、何それ?
「どう言うことだ?」
「難しい言葉使うな、バカ」
「バカはお前だ、バカ。簡単な話だ。お前等と本物の廃墟に行きたいんだよ、俺は。だから、なんでもないこのマンション跡に来たんだ」
そんな事考えてたのか? いい迷惑だ。
「お前……面倒くさい奴だな」
「おもしれぇじゃん!」
何だか、無駄に恥ずかしがる山下の元、気が付いたら廃墟探索隊が結成された。
本当にいい迷惑だ。
「おい、この板、動くぞ」
「お、ここの事か。よく見ろよ、小さくいらっし、ゃいませとか書いてくれてる奴がいるぜ?」
話が上がってる位だから、僕たちみたいなのは初めてじゃないんだな。
その有り難くもない先達が、ここに書いてくれたのか。
「おい、山田、しっかりもてよ、一気に外すぞ! せぇの!」
「よっしゃ、任せろ!」
そして、暗闇の中、その漆黒の闇は解放された。
「よっしゃ! 一番槍、げっとだぜーーーー!!」
「おお~全く中が見えないじゃないか! 街灯もない、月も出てないだとこんなに見えないんだなぁ」
「山下、ライトは? これでは探索などとてもじゃないができん」
一番先に僕は無駄に体力のある山田に、呆れるやら心配するやらで、一番最後にそのマンションに足を踏み入れた。
「え?」
「お前……まさか……」
が、こんな暗いのにライト一つ無かったため、一旦探索は中止。
まずは買い出しに行くことになった。
念の為板も戻して……山田もご苦労様。