タイムカプセル・ポスト
これは、17歳の少女と、17歳の少年の少し切ない恋のお話。
2013年、少女はタイムカプセルにハマっていた。タイムカプセルに関する面白い小説を読んだところだったのだ。少女はそれに感化されて、自分でもやってみようと思った。
「未来の私へ 私は今、17歳です。元気に高校に通っています。こちらは2013年です。そっちは今、何年ですか?元気にしていますか?」
などというような、当たり障りのないことを、つらつらと可愛らしい便箋に書き連ねていった。そして、家にあったお菓子が入っていたアルミでできた箱を空にして、そこに手紙を入れて自分の家の庭に埋めた。何年後に開けるかは決めていなかった。素敵な彼氏を見つけて、その人と結婚するときにでも開けようかな、なんて適当に考えていたのだ。
しばらくして、そのタイムカプセルを埋めたことも忘れかけていた頃、庭に何やら土まみれの箱が落ちていることに気がついた。よく見ると、自分が埋めたアルミの箱であった。もしかして、誰かに掘られて中の手紙を見られたのかもしれないと思い、急いで中を確認した。すると、茶色い小汚い封筒が1つ入っていた。明らかに、自分が入れたものではない。不思議に思い、それを自分の部屋に持って帰り、その封筒を開けてみた。すると、古びた茶色い便箋が1枚入っていた。そこにはこう書いてあった。
「こんにちは、僕は17才の男です。そちらが2013年というのは、ほんとうですか?こちらは、今1944年です。」
少女は驚いた。なんとなく意味はわかったが、それはどこかの小説に出てきそうなお話で、すぐに信じることは出来なかった。手紙の内容は、明らかに少女の書いた手紙を読んでいるような内容であった。もし、本当に1944年からの手紙だとしたらと考えて、少女はワクワクしていた。もちろん完全に信じたわけではなかったが、試しに返事を書いてみようと思った。
「はじめまして。1944年の人から手紙が来るなんて、ビックリです。」
少女は手紙を書くと、また同じアルミの箱に入れて庭に埋めた。
翌日、また庭にアルミの箱が落ちていた。少女はそれをすぐに拾い上げ、玄関に鞄を投げ捨て、急いで自分の部屋に入ってそれを開けた。そこには、また封筒があり、中には古びた茶色の便箋が入っていた。
「僕も未だに信じられません。でも、実際にこのようにやりとりが出来ているのだから、真実なのでしょう。そちらの世界では、1944年のことはどのように言い伝えられていますか?」
また返事が返ってきた。少女は確信した。自分は今、約70年も過去の人と文通をしていると。すぐに少女はパソコンを開いた。1944年頃、日本はどんな状況だったのかを調べようと思った。そして、調べた彼女の目に飛び込んできたのは
「太平洋戦争……」
その後も、2人のやりとりは続いた。お互いの話や、最近ハマっていることの話。お互いの時代では、どんなことが流行しているのか、など話題は尽きなかった。そのやりとりの中でいろいろなことがわかってきた。どうやら、ちょうど少女の家の庭が今あるあたりで、少年はアルミの箱が落ちているのを偶然見つけたのではないかということ。少女の家が今あるところは、昔はただの平野であったこと。今、少女の家から見える山が、昔も同じところに見えること。その山の裏には今も昔も一本だけ大きな桜の木があること。他にもたくさんの今と昔の違いや共通点がわかっていった。そんな風に長い間、手紙のやりとりを重ねるごとに、2人はお互いにだんだん惹かれ合っていった。このやりとりが、ずっと続けばいいと少女は思っていた。
しかし、ある日の手紙にこう書かれていた。
「今まで、ずっと言わなければならないと思っていたことがあります。僕は明後日、出陣します。つまり、あなたとの手紙のやりとりも、明日で最後になるかもしれません。ごめんなさい。」
少女は愕然とした。戦争なんて、教科書でしか見たことはなかった。どこか、他人事のような気がしていた。でも、それが急に身近な話題になったのだ。
「どうか行かないでください。生きのびて下さい。2013年の日本は平和です。医療も発展しています。あなたはまだ若い。生きのびれば、きっと私と出会える。」
少女は手紙を出して祈った。しかし、少女に結果は見えていた。それは歴史が物語っている。きっと出陣すれば、もう帰って来ることは無い。
翌日、最後の手紙が少女のもとに届いた。
「今までありがとう。あなたとのこの不思議なやりとりは、とても楽しかった。
僕は今まで勇気がなかった。この戦争で、自分たちは無駄に死んでいくだけなのではないかと怖かった。
でも、あなたからの手紙を読んで、僕たちの死は無駄ではないと思うことができた。
あなたと一目会ってみたかったけれど、ごめんなさい。僕は出陣します。
あなたの生きる未来のために。
あなたの生きる世界が、どうか平和でありますように。」
少女は涙した。古びた茶色い便箋に、大粒の涙がこぼれてにじんだ。
よく見ると、手紙はもう一枚入っていた。
「追伸 山の裏の桜の木の下に、あるものを埋めておきました。
いつか、あなたと共に開けられる日を夢見て。
あなたの時代に届きますように。」
少女は桜の木の下へ走った。少年が埋めたものを必死に探した。
そして、スコップがカツンと何かにあたった。
掘り出された箱は、ボロボロであった。
フタを開けると、そこには今まで少女が少年に送った手紙が
とてもあのアルミの箱には入りきらないような束になり、大事に大事に入っていた。
そしてその上に、古びた茶色い便箋が1枚。
「僕の一番大切なものを入れておきました。
あなたとの思い出を、壊したくはなかったから。」