4.出会いはすぐそこに
夜、繁華街を歩く。
客引き、セールスがしつこく話しかけてくる。都会のいつもの風景である。
「お兄さん、一人?そこにいいお店あるよ?可愛い子いるよ?どう?来ない?」
ただいま彼女募集中であるがそんな所へ行くほど俺は飢えていない。
ふと、路地に入って行く男女を見た。
このような言い方をすればカップルのように聴こえるがそのような関係でないのは一眼で分かる。
彼女は獲物を見つけたようだ。
その瞳はハンターのように獰猛でありながら氷のように冷ややかに燃えている。
一見人を殺せるような力を有していないような弱々しい外見だが、あれは手馴れている。
"その瞬間"を目視したい所だが邪魔はするものではないだろう。それはまた別の話で語られるであろう。
さて、駅まで来た所で俺は財布を無くしたことに気がつく。俺は仕方なく繁華街に戻ることにした。
見つけるなんて無理だろうな。いっそ警察に行くか。そんなことを思っていたらさっきの客引きに呼び止められた。
「ちょうどいい。お兄さん…俺の財布見なかった?」
「あぁ、それならうちの店で預かってるよ。ついてきな」
何と白々しい。
「君ラッキーだったね、うちじゃなかったら中身取られて捨てられてたよ」
俗な店に連れて来られた。
「これでしょ?」
黒い長財布を渡された。
「サンキュー、お兄さん…お店繁盛するといいね。所で中に入ってた一万円が見当たらないんだけど知らない?」
「そりゃ、前金を頂いたからね。なぁ、買っていかない?」
「やめてよ…俺は買う気なんて無いんだ。お兄さんそんな商売してると長く続かないよ?他をあたりな…それでお金返してよ」
「今日はノルマ達成してないんだよ。協力してくれないかい」
「なら…己が買えばいいよ」
「そんなの、俺の給料がなくなっちまう」
「でも…明日食うのに困ってないんだろう?」
「厳しいがね。だからどうだい?君だって嫌な思いはしないぜ?端金とちょっとしたプライドが削れるだけだ」
「まあ確かに端金だ…だけどそのプライドを削る位ならナンパするよ。じゃあね…お兄さん」
店を出て今度こそ駅に行く。
ホームに下りると人集りができていた。といっても数人だが。
その中心からフラフラした男が出てきた。
あぁ、なんだ。酔っ払いか。
ホームにアナウンスが響く。
「黄色い線の内側まで…お下がりください…」
男はフラフラと歩いたまま線路へ落ちた。
女性が緊急停止ボタンを押す。人々が駆け寄り、ホームから起きろと叫ぶ。
電車が音を立てて入ってくる。快速急行はかなりのスピードで侵入してくる。どう考えても間に合わない。
俺は迷わず線路に飛び降りた。倒れている男を線路下の隙間に放り込み、己もそこに滑り込む。
そしてすぐに大きなクラクションと共に通過していった。
「よかったな、おっさん」
振り返ってみると寝ていた男は拳銃を構えている。
「どういうことです?仮にも俺、あなたの命の恩人ですよ?」
「お前が勝手に助けたんだ。俺は頼んでない」
見事にはめられてしまったわけだ。
「目的はなに?おじさん…ただのサラリーマンじゃないよね」
「この前俺の後輩をいじめてくれたお礼だよ」
「後輩ってどの人かな…」
「知らなくていいさ…もう死ぬんだから」
響く銃声。肉が飛び散る。
「まったく、何処で恨みを買ったのか…」
男の獲物を奪い、俺は構えながら表へ出る。
案の定、ホームの人間も仕掛け人だったようで一斉に俺を攻撃してくる。
それを一人残らず撃ち殺してホームに上がった。
「終電の到着です…黄色い線の内側まで…」
誰も乗ってない電車に乗り込む。
各駅停車の終電はホームと同様、静かであった。
「この後始末はどうすんだろうね」
電車がホームを出て外を走る。俺は一番綺麗な椅子に座った。
隣の死体によりかかる。疲れた…。
ここで気をぬいてはいけないことは分かっている。
俺は目を閉じた。
響く銃声。弾丸は死体にヒットする。
俺はジャケットの内ポケットに銃をしまって腕を組んでうつむく。
カチャン…
額に銃口があたる。距離ゼロ。
引き金を引こうとしてるのはホームにいた女。
たしか撃ち殺したはずなのに…ね。
「さようなら」
防弾ジョッキを着ていても頭撃てば…生きていれないよね…?
それでも生きてたら、それは人間じゃないだろう。
ああ、イライラする。
弾丸はもうない。
女の武器を拝借する。
弾丸を多めに頂く。
これほど持ち歩いているとすると、どこかの組織などではなく個人の殺人鬼だろう。
駅を出て川原へむかう。
「君、どうしたの」
そこには白髪の男が立っていた。
よく見ると所々、赤や青のメッシュが入っている。
顔を良く見ると右側一帯に刺青がはいっている。
すごい格好だな…。
「血みどろ。怪我してるの?それとも…返り血?」
「…後者のほうだよ」
「そ」
「前見ろよカス!」
遠くで叫び声が聞こえた。
「君は?」
「俺も殺人鬼」
「……ほう」
「今後ともよろしく」
そういうと男は去っていった。
ksですがどうかよろしく。また更新しますので、見ていただける方がいましたらよろしくおねがいします。