好き嫌い
力が入らない。足が動かない。手が動かない。物が掴めない。先へ進めない。
私は今力尽きた。
「愛ちゃん?入るよ?」
玄関のドアがあく。男が入ってくる。
「うわあ!また倒れてる!ちょっと待て、コンビニで何か買ってくる」
一週間ぶりに会った彼は付き合って二週間になる優しい男性である。
ドアが再びあき、カサカサと中身を取り出す。
「ゼリーならすぐ食べられるよね」
口にゼリー飲料を流し込まれる。
こうなってはお馴染みの味。美味しくも不味くもない。
「どう?気分はよくなった?」
「うん」
「何日食べてないの?」
「5日」
彼ははぁ、とため息をついてキッチンへ向かう。何かを調理し始めた。
いい匂いが漂う。
さて、これで分かったように私は殆どご飯を食べない。何故なら食べられないから。
お腹が空かないので食べたいと思えない。そのまま放置して何日も食べずに生活してるといつの間にか倒れてしまう。
「できたよ」
彼はおじやを作ってくれた。
作業のようにご飯を口に運び、完食した。
「美味しかったよ」
お世辞を吐く。
「おそまつさま」
私は満腹を知らない。
夜、体重計に乗る。
身長150センチ。体重38キロ。
昨日との差、プラス0.5キロ。
特に異常無し。
明日は買い物に行こう。
夜、帰宅途中によく太ったサラリーマンとすれ違った。気分がいいのか口笛を吹いてる。
私はその男を追いかけた。
すると男の携帯が鳴った。
「はい。…ああ、お疲れ様!…今から飲むの?んー、じゃあ行ってしまおうかな。…食べ放題?いやー…さっき食べて来たけど…うん、行く行く。肉は別腹だよ!…え?太る?いいんだよ!じゃあ後で!」
男は早歩きで大通りを目指す。私も後を追った。
男は焼肉屋に入る。私もそこに入った。
男はグループに加わる。私はその近くのテーブルについた。
男はグループの中でも大柄でよく目立つ。
「ご注文は?」
「カルビとサンチュとご飯の小」
「かしこましました」
しばらくして品物がが届いた。
男のいる所は網いっぱいに肉を焼き、炎をあげている。
私も網に肉を乗せる。ジューッと音を立て、焼き色が付く。肉汁が滴る。肉の焼ける匂いが漂う。美味しそうだと思った。
ひっくり返し、少し放置する。
仕事の疲れで私は壁にもたれて眠ってしまった。
鼻を突く焦げた匂いに目が覚める。
焼いていた肉が全て黒く焦げていた。
あぁ、これでは食べられない。
「お客様、網をお取り替えしますか?あと、ご注文なされますか?よろしければ私がお焼きいたしますよ」
よい店員さんだ。
「すいません…結構です。ありがとうございます」
「そうですか、では匂いがきついので網をお取りしますね」
網が取られ、火が消える。
食べる気を無くしてさっきの男の七輪を見る。もう何も乗ってない。
私は荷物をまとめることにした。
レジに行くとさっきの男が支払いに来た。
男は私をみて少し嫌な顔をした。肉を焦がした匂いがそんなに嫌だったのか。
店を出てしばらく歩くとまたさっきの男にあった。やはり楽しそうだ。
再び後を追う。
路地に入り、人はいなくなる。男はふと電柱に寄りかかりその根元に吐いた。異臭が漂う。
あぁ、見苦しい。
私は近くの廃材置き場のような所から金属の棒を取った。
男はその何本か先の電柱にしゃがみ込んでまた吐く。
私はその後ろに回り、男の頭に棒を振り落とした。
男は吐瀉物の上に倒れこみ、血を流す。
異臭に血の匂いが混ざる。
あぁ、すっきりした。
今夜はご飯が食べられそうだ。
私は鉄の棒を放り投げ、携帯電話を取り出す。
「今から私の家に来ない?久しぶりに私がご飯を作るよ」
彼氏に電話をかけた。
「本当?じゃあ行くよ」
私は手袋をはめてナイフを取り出す。
「美味しいお肉料理作ってあげる」
私は人の肉しか食べられない。
行き詰まったときは放置が一番ですね。ごめんなさいただの言い訳です。気が向いたらまた書きます。頑張ります。