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Blood Night  作者: 深月佳
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美しさを求めて

今日、一枚の絵が完成した。

黒髪に着物の、襟足が美しい女性の絵。

紺色の着物は血のように赤い牡丹の模様。白い肌に赤い唇。涼しげな目に通った鼻。スラリとした顎のライン、首筋、凛とした立ち姿。申し分無い。美しい絵の筈である。

というのも、僕は目が全く見えない。17の時、僕は妹に目を潰された。

彼女は殺人嗜好のある癖で、自他問わず大体常に返り血を浴びていた。それが捕まらないのは殺さない程度をわきまえていたからだ。

そして相手を選び、相応の処理をし、上手く立ち回っていた。ところが些細な喧嘩で妹は俺に愛用のナイフを向け、切りかかった。いつもはなんとか避ける所を不意をくらってまぶたごと目を切られた。そして俺は光を失った。

見えないのに画家をしているのは、画家が小さい頃からの夢だったからである。

俺は妹のお陰で赤色の美しさを知った。だから俺はこの感動を伝えたい。

だから多分妹より血に対する欲求は強い。だからと言って自らの手を解放的に汚すわけにはいかない。見えるようになるまではそういったことが露見しては困る。ちなみに妹は今精神病棟に監禁中である。

そして何枚描いても俺の目が光を取り戻す兆しはない。

そうなると気晴らしに夜歩きに出かける。

目を隠す為にゴーグルをつけ、適当な服に杖を持っていく。

しばらく歩き、川沿いを歩く。すると肩がぶつかった。バランスを崩し、河原の方へ転がった。

「前みろよ、カス!」

やんちゃな餓鬼だろうか、しかしまずいことに杖を失った。あたりを探ってもそれらしき感触はない。俺は誰かに助けてもらえないとここから動けない。

「そこの君!」

さっきとは違う男性の声。

「ああ?」

「大丈夫ですか?」

手を引っ張られる。立ち上がることができた。

左手に触りなれた杖があたる。

「ありがとうございます…」

「謝りなさい」

「見えなかったんだよ」

「大丈夫です…私は…」

「彼は目が不自由なんだ。そうでなくてもぶつかったら謝るのが人として当然であろう。君はそんな当たり前のこともできないのか」

「ちっ、悪かったよ」

足音がする。青年は去ったようだ。

「運が良かったですね。朝までこのままだったら大変でしたね」

「本当です。本当にありがとうございました」

「いえいえ」

男性は去って行った。俺は家とは逆に歩く。もう少し散歩をしたい。

橋の上。杖が何かにあたった。ヒールの音がしていたから、もしかしたら女性の足に杖をぶつけてしまったかもしれない。俺の夜の散歩は普通の人にとって邪魔であるかもしれない。

「ごめんなさい」

「こちらこそ、気が付かなくて。申し訳ありません」

凛とした声が響いた。

俺の闇の中で桜が舞う。同時に血しぶきが舞う。

あぁ、美しい。

「では失礼…」


うちに帰ると人かがいた。

「独特な絵を描かれるんですね」

「美しいでしょう?」

「芸術に詳しいわけではないので…でも、とてもきれいです」

「そうですか…でも芸術は、その人に訴えるものが伝わればいいのです」

「ちなみにこの絵は…?」

「あなたは何と思いますか?」

「とても美しい女性ですね。きっと片思いをしておられるのでしょうか」

「そうですか…」

「はずれましたよね…」

「いえ、はずれなんてありませんから」

「不思議ですね。伝えることはなんでもいいんですか?」

「何かが伝わればいいんです。人になにも影響を与えられない作品なんで、ただのシミです」

「そう…」


翌日も、橋の上で涼んでいた。

「お兄さん、何が見える?」

「はい?」

「その瞳で何が見える?」

少女の声。

「私は目が見えません…だから何も見えません」

「ふーん。とっくに見えるものだと思ってた」

「どういうことですか?」

「それはあなたが一番わかってるものだと思っていた」

「…どういうことです?」

「奇跡でも起きなければ貴方の目は光を取り戻せない」

「知ってますよ」

「じゃああなたは何のために人を殺すのですか?」

「そこに美しさを求めるから」

「求めずとも、貴方は美しいわ」

「え…?」

響く足音。

俺のほほをつたう雫。

そよぐ夜風。

全身で感じる世界は確かに美しい。

とてもあたたかい。

杖に隠した刃物で腕を数センチ切ってみる。

痛みと共に噴出す血液。

あたたかい。

おひさしぶりです。いつぶり!?

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