秘密の食卓
「今日の夕食は何にしよう?」
「はい! カボチャのスープとパンです!」
「それも良いけど、魚のムニエル。キャベツたっぷりのシチューはどうかな?」
「はい! 大好きです!」
キッチンで歌いながら夕食の支度をするラブラブ新婚?夫婦。
ナツはアフロをモサモサと揺らしながらご機嫌だ。
そんなナツを幸せそうに眺めるヨシュア。
「あのね、おにいちゃん?」
「なんだい、ナツ?」
「おにいちゃんのご飯は、どうして美味しいの?」
「うふふ、どうしてかなー? ヒミツだよ」
ニッコリと笑うヨシュアにナツは顔を綻ばせた。
「ヒミツなの? ん……あ、分かった!」
「ん……? 分かったの?」
辺りを伺うようにキョロキョロするナツに目を細めるヨシュア。
――まさか、バレたか……?
「さ、ナツ。テーブル拭いておいで」
まさかと思うが、布巾をナツに渡すヨシュア。
ナツは元気に返事をするとテーブルを拭きにヒョコヒョコと歩いて行った。
「まさか、気付いてないよな……」
ヨシュアは料理した魚を皿に載せると、透明の液体が入った小瓶を取り出して中の『怪しげな』液体を振り掛けた。
*
「おにいちゃん、お魚、とっても美味しい!」
「そう。沢山食べてね」
ヨシュアは魚を解して骨を取り除いて甲斐甲斐しくナツの食事の世話をしている。
「あのね、おにいちゃん。私ね、分かったよ」
「何が分かったの?」
「おにいちゃんのご飯がどうして美味しいのか分かったの!」
「へぇ……何でなのかなぁ?」
身を解すヨシュアの手がピタリと止まった。そんな彼の声には何だか声に剣呑な雰囲気も混ざっている。
「うん。あのね、ヒミツだから美味しいんだよ!」
「……うん。そうだよ! やっぱりナツには分かっちゃったかぁ……ヒミツにしてたのになぁ」
ヨシュアはニヤッと笑いながら神業の如く魚の身を解した。
「でも、私分かったもん。ヒミツだから美味しいんだって!」
「う~ん。そっかぁ。バレちゃったかぁ……はい、あーん」
「あーん!」
ナツは目を細めて美味しそうにもぐもぐと食べている。
「じゃぁ、ナツ」
「なぁに、おにいちゃん?」
「このことは、ナツと僕のヒミツだよ」
「うん! ヒミツ!」
こうして、食事の秘密は永久にヒミツになった。