幸せな二人
「お、にい、ちゃん……」
ナツは魘されながら目が覚めた。
魘された割りにはスッキリと目が覚めた。
「おはよう、ナツ」
起きるのを待ち構えていたヨシュアは笑顔と共にほっぺにキスを落とした。
「おにいちゃん? ……だあれ?」
「ん? 誰だか分からない?」
ナツはヨシュアの顔をじっと見ながら首を傾げた。
「あ! おにいちゃんにソックリ!」
「そうだよ。おにいちゃんだよ」
「ほんとうに!? おにいちゃん大きくなったの? すごい!」
「ふふふ、スゴイでしょ? ナツのこと早くお嫁さんにしたかったから頑張って大きくなったんだよ」
「うーっ! おにいちゃんだけズルイ!」
「大丈夫だよ。ナツもすぐに大きくなるから……ほら、朝ご飯食べる前に顔洗おうか」
そう言いながらヨシュアは洗面器に水差しからお湯を注いだ。
「うん!」
元気に返事をしてパシャパシャと顔を洗うナツを満足そうに見つめるヨシュア。
薬はバッチリ利いたようだ。
***
おにいちゃんがいなくなった。
ナツは毎日畑に来てヨシュアが来るのを待っていた。畑に来ないと分かると、村中探し回った。
おにいちゃんがいない。
おにいちゃんの住んでいた家に行っても、やっぱりいない。
置いていかれたんだ。
おにいちゃんのお嫁さんになるって約束したのに……
*
「おにいちゃん、いなくなっちゃったと思った」
「ごめんね。でも、ちゃんとナツの事迎えに来たでしょ?」
「うん。あのね、後でお花摘みしたり、お外で遊ぼうよ」
ナツが覚えているのはナツが5歳の頃のヨシュアの記憶だけ。
あの頃だけを思い出して、他の記憶は消え失せた。
一番幸せだった頃に遡ったナツ。
「ちゃんとご飯食べたらね」
「食べてるよ!」
ほんとうに朝食を美味しそうに食べるナツ。
「美味しい?」
「うん! おにいちゃんのご飯、とっても美味しい……あのね、あのね……」
ジュースを飲み終えると、急にナツはモジモジし始めた。
「ん? どうしたの?」
「あのね、夕方になったら、私、お家に帰らなくちゃいけないの?」
「お家に帰りたいの?」
そう聞くと、ションボリするナツ。
「あのね、お家が分からないの……」
「じゃあ、僕の家に一緒に住もうね」
「おにいちゃんのお家に? いっしょ!?」
「うん。お嫁さんは一緒に住む決まりなんだよ」
ヨシュアがにっこり微笑むとナツもモサモサのアフロを揺すりながら笑った。
大好きなおにいちゃんと交わした約束もちゃんと覚えている。
「ナツは僕のお嫁さん」
「うん! わたし、おにいちゃんのお嫁さん」
二人が幸せならそれで良い。
お読み下さいまして誠にありがとうございます。
納得いかない方もいらっしゃると思いますが、本編終了と相成ります。
どうでも良い番外編がいくつかありますので、お付き合い頂ければ幸いであります。