魔獣騒ぎ2
王都に行ったヨシュアは死に物狂いで勉強をした。
王国一の魔術師である父、ロータス・コンスタンの許ナツを迎えに行く事だけを目標にして修行に勉強に励んだ。
10年後、漸く一人立ちの目処が付いたヨシュアは真っ先にナツを迎えに来た。
10年振りの村だが、特にコレと言った懐かしさも郷愁も感じない。
ナツ、ナツ、ナツ、ナツ……
ナツに会える。
ナツの声が聞ける。
ナツに触れる。
ナツに……
「あ、ナツ……! とアイツ……村長の息子か?」
そこで見た物は、ミシェルと仲良くしけこむナツの姿。
こっそり後を付いて覗いてみれば、自分がしようと思っていたアレやコレ。
ソレをミシェルが……
怒りと嫉妬で目が眩んだヨシュアには、ナツが嫌がっているようには見えなかった。
***
「ちゃんと反省したかな?」
一晩ブサイクの姿で反省しただろうから呪いを解いてナツと一緒に王都へ帰ろう。
そして、約束通りお嫁さんにする。
だが、迎えに行って目にしたのは惨事。
魔獣と間違えられたナツが村人に袋叩きにされている。
「ぼ、僕のナツが……ゆ、許さん!」
自分でやった事の結果だが、そんなの知った事ではない。
「貴様ら全員、超ブサイクになってしまえー!」
*
村人はお互いの姿が醜くなった事で大騒ぎになった。
お互いに指を指して「魔獣だー!」とか「ブサイクだー!」と叫んでいる。
「わーっはっはっはっは! 僕のナツに手を出した報いだ! 一生その姿で暮らすが良い!」
その姿を見て大笑いしているヨシュアは、いつの間にかナツが逃げた事に気付いていない。
「よし、じゃ。ナツを回収して……あれ? いない?」
大騒ぎする村人の中にナツはいない。
「まさか……逃げた?」
ヨシュアの顔から表情が失せた。
「僕から、逃げた……?」
*
怒りながらも血痕を辿るとナツは直ぐに見付かった。
ナツはボロボロになって息も絶え絶えだ。
「やっと見付けた……僕から逃げられると思ったのか、ナ、ツ……」
意識不明のナツは返事をしない。
そこで漸くヨシュアは頭が冷えてきた。
「ああ……ナツ、ナツ。うぅ……こんな、こんな」
返事の代わりにか細い息だけが聞こえてくる。
こんな事になった原因に思至ったヨシュアは一瞬青くなった。
「……な、なんてヒドイ奴らなんだ。こんなに痛めつけて……」
とりあえず、責任転嫁をしてから応急処置を施し、そっと抱えると村を後にした。
***
「う、うぅ……」
「気が付いたの? 大丈夫? ナツ」
「ん……こ、こは……? イタッ!」
起き上がろうと体を起こしたらあちこちに激痛が走った。
「動いちゃダメだよ。酷い怪我なんだから……」
「怪我……? な、何、で……?」
痛みに顔を引き攣らせながら警戒するナツ。
「……さぁ。僕には分からないけど……とにかく意識が戻って良かった」
にっこりと優しそうな微笑を浮かべるヨシュアにナツの警戒心はすっかり失せ、ナツも微笑を返した。
*
ナツを連れ帰って半月もする頃、ナツは出て行くと言い出した。
「殆ど覚えていないのにどこに行くの? 何で?」
「仕事、しなくちゃ、いけないんです……」
「ここにいれば仕事しなくて良いんだよ? 気にしなくて良いのに」
「でも、でも……仕事、働かなくちゃ、いけないんです……」
まだ体は痛むのだろうに、働くと言ってきかない。
ヨシュアはそんなナツの態度に苛立ちを覚えた。
「そんなにここにいるのが嫌なんだ……分かった」
冷たい声でそれだけ言うと部屋から出て行くヨシュアをナツは小さくなって見つめた。
*
「ここから出て行けるわけなんてないのに……」
ブサイクのままでいれば良い。
足も治してやらない。
もう、ナツはここにいるしかないんだ。