コンスタン家の面々
「さ、今日は僕の家に行く日だよ」
ヨシュアはナツにフード付きマントを羽織らせて、フードを被せた。
「お兄ちゃんの、お家?」
ナツはヨシュアの家に行くと告げられて不思議そうな顔をした。
ここはお兄ちゃんの家じゃないのだろうか?
「そうだよ。お花摘みできるよ」
「行く!」
こうして、ヨシュアの家に向うことになった。
2頭立ての馬車を呼び寄せ、それに乗るとナツは怖がってヨシュアにしがみ付いた。
なぜか外が怖くて堪らないのだ。
「大丈夫だよ。すぐに着くからね」
ヨシュアはそんなナツを宥めながら楽しいひと時を満喫した。
*
「お帰りなさい、兄さん」
ヨシュアがコンスタン家の屋敷に到着すると、五人の弟達が迎えに出ていた。
ナツはびっくりしてヨシュアの陰から彼等を見ている。
「ナツ、紹介するね。僕の弟達だよ。え、と。とりあえず、似ている二人が双子で似ている三人が三つ子ね」
全員似ているからそれでも良いが、ヨシュアの杜撰な紹介にめげずに一人が手を差し出してきた。
「初めまして、ナツさんですね? 兄からお話は聞いてます」
「ナ、ナツです……初めまして……」
「ナツさんは恥ずかしがり屋さんなんですね」
モジモジと俯いて小さな声で返事をするナツ。
そうしていると、屋敷から母と父が出てきた。
「お帰りなさい、ヨシュア! ナッちゃん連れて来たのね?」
母は嬉しそうに顔を綻ばせてヨシュアとナツの傍に寄ってきた。
「まぁまぁ! 良く来てくれたわね、ナッちゃん。覚えてるかしら?」
「あ、あの。かぼちゃのスープのお母さんですか……?」
ナツはかぼちゃのスープをいつも作ってくれた優しいお母さんを思い出した。
「ええ、そうよ! さぁ、お顔見せて頂戴ナッちゃん……ナッちゃ、ん?」
母はナツのフードを下すとブルブルと震えだした。
「ヨ、ヨシュア! すぐ、元に戻しなさい!」
「何をですか?」
「ナッちゃんの髪に決まってるでしょう! ナッちゃんはこんなアフロじゃありませんでした!」
それ以上に先ず元に戻すべきところは多々あるが、とりあえず母はアフロが気になった。
「こら、ミランダ。妊婦がそんなに大声出すんじゃないよ。やぁ初めまして、お父さんですよ」
「は、初めまして……ナツです……」
父がニッコリと胡散臭い挨拶をすると、ナツは益々小さくなってヨシュアの後ろにすっかり隠れてしまった。
「恥ずかしがり屋さんだねぇ」
ナツはそんな父をスルーしてキョロキョロしながら、ヨシュアの服を引っ張った。
「ん、どうしたの?」
「お花摘み……」
コンスタン家の庭は貴族の屋敷らしく広くて、様々な花が植えられている。
「先にお名前書いてからだよ。そしたら一緒にお花摘みしようね」
「……ん、分かりました」
*
屋敷の応接室に入ると、鼻眼鏡の男が書類を持って待っていた。
「こちらがコンスタン家の控え、こちらが司法局の登録用になります」
男は種類を二通出してヨシュアに渡した。
ヨシュアは二通とも署名をしてから、ナツにそれを見せた。
「さ、ナツ。このおじさんにナツのお名前書いてみせてごらん」
「お名前?」
「そうだよ。一生懸命練習して上手に書けるようになったでしょう?」
「……うん」
「ほら、ここに書くんだよ。そうしたら、皆が「上手だね」って褒めてくれるよ」
「うん!」
ナツは嬉しそうに二枚の書類の指定された場所に、それは上手に名前を書いた。
それが終わると、ヨシュアは親指にインクを付けて両方に拇印を押した。
「ほら、お兄ちゃんみたいに親指にインクを付けてペッタンしてご覧? ペッタン、ペッタン、わぁ、楽しいなぁ!」
「私も、やる! ペッタン、ペッタン!」
それからヨシュアと一緒に楽しそうに拇印を押した。
何故か鼻眼鏡の男は冷や汗を流して、母は父に取り押さえられて口を塞がれている。
だが、ナツはそんなこと全然気付かない。
「うわぁ、ナツさんとても上手に書けましたね!」
「可愛いらしい字ですね」
「ああ、とても上手だね」
「げ、芸術的ですね……」
鼻眼鏡の男も冷や汗を流しつつ、空気を読んで褒めた。
それから男は一通の書類を丁寧に丸めると筒にしまった。
「では、ヨシュア・コンスタン様とナツさんの婚姻契約は結ばれました」
とさ。