↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
PR

いつまで

作者: 猫又妖介
掲載日:2026/06/07

妖怪は、現代にもいる。

至る所に、身近に。


近頃のことである。

私は、「いつまで、いつまで」という、なんとも気味の悪い声を聞くのである。気を病みがちで、仕事で何度も心を病んでいる私からすれば、幻聴など、ままあることである。しかし、病院に行っても異常はなく、聞こえなくなる気配もない。調べれば、「以津真天」という妖怪がいるそうだ。

人の顔を持つ怪鳥で、死体を供養しないと、「いつまで、いつまで」と鳴き続けるのだとか。

嫌な予感がした。私の中にいるであろう虫も、騒いでいる気がする。気がつけば、私の眼前には、寂れたアパートが、鎮座している。どこか頼りなく、ほんのそよかな風で音を立てるこのアパートは、元々、私の友人が住んでいたアパートである。

1週間ほど前、住んでいた友人は自殺した。

借金、取り立て、周りからも見放され、生きられなくなったのだと思う。

一人私かに、寂しく死んでいった。

大家も、隣人も、親にさえも知られずに。

しかし、私は知っている。何故なら、私が最初に発見したからだ。1週間ほど前のこと、友人の部屋を訪ねた。声をかけても返事がなく、合鍵を使って部屋に入った。

見当たらない。友人の姿が。いつもなら、声をかければ出てくるはずだ。人を無視するような奴でもない。

色々探すうち、風呂場に行き着いた。

誘われたかのように、足が進んだ。

その戸は軽かった。中にいるモノが、早く自分を見つけて欲しいと願っているのかと思うほどに。

死んでいた。水を溜めた風呂桶の中に顔を沈めて。

私は走った。この死を知らせるためではない。

私は泣いた。悼みの涙などではない。

私は逃げ出したのだ。友が死んだという現実から。目の前に広がっていた惨状から。

そこには、私の意気地の無さと、私の保身性が露呈されていた。

友が死んでから、2度目の訪問である。

さて、どうなっているのか。妖怪の巣窟にでもなってしまっているのかと、怯えている気持ちと、殺されたいという期待が入り混じるその手で、私は玄関の扉に手をかけた。

部屋の中には何もいない。ただ、風呂場に、蛆の湧いた死体が、在るだけである。

私は酷く落胆した。いや、私は何を考えているのだ。殺されなくて落胆したのか?

友の死体を見ても、吐き気を催さないどころか、悼みも哀れみも抱かないのか?

私は、狂ってしまったのか?考えれば考えるほど、私は私を迫害する。考えれば考えるほど、私は酷く落ち着いていく。

その時聞こえた、「いつまで」という声。

目の前の死体が、首を持ち上げ問うてくる。

「いつまで、いつまで」

これは、幻覚なのだろうか。

私は元々、妖怪や神など信じてはいない。

信じてどれだけ祈ろうが、救われたことなど一度もない。

それなのに、どうして神など信じられようか。いつしかそれに類するものも信じなくなった。

あんなもの、どれだけ信じようと同じだ。

そんなことを考えているのに、心の中では妖怪に殺されることを期待している。

そんな自分に、吐き気を催す。

都合のいい考えの私が、酷く醜い。

幻聴が聞こえ始めるまでは考えてもいなかったのに、ふと思い出してここを訪れた。

そんな都合の良さが醜い。

その時、ふと私の足を何かが掴んだ。

見なくともわかる。友人であろう。

見れば、友人が私の足を掴んでいる。

やっぱりな。そんな感想しか出てこなかった。

足を引かれた。頭を打った。目の前がぼやける。ようやく死ねると思えば、楽なものだ。

結局は、人は自分勝手で、独りよがりで、

ちぐはぐなものなのだろう。とも思った。

きっと私も、以津真天になれる。

友と一緒に。

初作品です。

温かい目で読んでいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。