表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒衣の孤影  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/156

第80話 最終布陣

 関ヶ原の霧を見届け、

 私は急ぎ駿府へ戻った。


 冬の街道は冷たく、

 風は鋭く、

 空はどこまでも重かった。


 ──戦の形は整った。


 その確信を胸に、

 私は駿府城へ入った。


 城内は異様なほど静かだった。

 だが、その静けさは“嵐の前”の静けさだった。


 家康の居室へ通されると、

 彼は地図の前に座っていた。


 その目は、

 すでに“決戦”を見据えている。


「戻ったか、天海」


「はい。

 関ヶ原の地形を見てまいりました」


 家康は目を細めた。


「どうだった」


「……裏切りの舞台です」


 家康は微かに笑った。


「やはりな」


 私は続けた。


「霧が溜まりやすく、

 視界が奪われ、

 山上からの動きが読めません。

 小早川秀秋の“揺らぎ”が、

 最も効果を発揮する地です」


 家康は頷いた。


「秀秋は、まだ決めておらぬな」


「はい。

 ですが──

 “勝つ側につく”覚悟はできています」


「ならばよい」


 家康は地図を指で叩いた。


「天海。

 わしは、ここで決戦を行う」


 その指先が示したのは──

 関ヶ原。


「……決戦を」


「そうだ。

 西国の兵が京へ向かうには、

 必ず美濃を通る。

 ならば、そこで迎え撃つ」


 家康の声は低く、

 だが揺るぎなかった。


「天海。

 お前の報告で、

 “最終布陣”が決まった」


 私は息を呑んだ。


「最終布陣……」


「そうだ」


 家康は地図を広げた。


「井伊直政を先鋒に。

 榊原康政をその後ろに。

 本多忠勝は中央を固め、

 福島正則は東から回り込む」


 その布陣は、

 まるで“時代の軍勢”が形を持ったようだった。


「そして──

 小早川秀秋は南宮山に置く」


 私は目を細めた。


「……裏切りの位置」


「そうだ。

 秀秋は、戦が始まれば動く。

 だが、動く方向は“わしが決める”」


 家康の目は鋭かった。


「天海。

 お前は影として動け。

 秀秋の心を読み、

 裏切りの瞬間を見極めよ」


 私は深く頭を下げた。


「承知しました」


 家康は続けた。


「戦は兵の数では決まらぬ。

 “揺らぐ者”と“裏切る者”で決まる」


 その言葉は、

 まるで未来を断言するようだった。


 その時、

 駿府城の外から急ぎの足音が響いた。


 使者が駆け込み、

 家康の前に膝をついた。


「上方より急報!

 石田三成、宇喜多秀家、

 毛利輝元らが兵を挙げました!」


 家康の目が鋭く光った。


「……来たか」


 使者は続けた。


「三成軍、

 大坂城へ集結中とのこと!」


 家康は立ち上がった。


「天海。

 戦が始まった」


 私は静かに言った。


「三成殿は、

 “理想のため”に動いています」


「ならば、

 わしは“時代のため”に動く」


 家康は甲冑の袖を締めた。


「天海。

 お前は先に美濃へ向かえ。

 関ヶ原の霧を見張れ。

 裏切りの気配を逃すな」


 私は胸に手を当てた。


「承知しました」


 家康は満足げに頷いた。


「天海。

 戦はまだ始まったばかりだ。

 だが──

 “決戦の形”は整った」


 私は居室を出た。


 冬の空は重く、

 風は冷たい。


 だが、

 その向こうに、

 確かに“決戦の影”が見えた。


 ──次は、関ヶ原へ戻る番だ。


 私は馬を走らせた。


 戦の中心が、

 ついに動き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ