第24話 裏門の影
裏門の戦いが終わり、夜が深まった。
黒い陣羽織の隊は撤退し、北条の兵たちは傷の手当てに追われている。
だが、私は落ち着かなかった。
──葛山十兵衛が動くなら、これで終わるはずがない。
大道寺政繁が裏門の状況を確認しながら言った。
「宗易殿。
あなたの判断で裏門は守られた。
だが……気になることがある」
「何でしょう」
「敵の死体が少なすぎる」
私は息を呑んだ。
「確かに……」
「北門と裏門、合わせて三十はいたはずだ。
だが、倒れているのは十にも満たない」
政繁は低く続けた。
「つまり──
“まだどこかに潜んでいる”」
そのとき、裏門の外から兵が駆け込んできた。
「政繁様!
城下の南で火の手が!」
政繁の顔が険しくなる。
「南……?
なぜ南だ。
葛山は北から来たはずだ」
私はすぐに気づいた。
「……南は、城下の倉がある場所です」
政繁が息を呑む。
「まさか……兵糧を狙ったのか!」
葛山十兵衛の狙いが見えた。
北門で揺らし、
裏門で突破を狙い、
その混乱の裏で──
**南の兵糧を焼く。**
私は政繁に言った。
「行きましょう。
葛山の本命は南です」
「宗易殿、急ぐぞ!」
私たちは南へ走った。
城下の南は、倉が並ぶ区域だ。
火の手が上がり、兵たちが必死に桶で水を運んでいる。
炎の前に、黒い影が数名立っていた。
黒い陣羽織。
裏門の隊とは違う、別働隊だ。
その中心に──
見覚えのある男がいた。
廃寺で私を追った、あの側近とは別の男。
背が高く、槍を軽々と扱う。
政繁が叫ぶ。
「お前たち、ここで何をしている!」
男は振り返り、薄く笑った。
「北条の兵糧は、いただいていく」
私は前に出た。
「葛山十兵衛の命か」
「さあな。
俺たちは“あの方”のために動いているだけだ」
まただ。
葛山の背後にいる“あの方”。
男が槍を構えた。
「宗易。
葛山様はお前を気に入っている。
だが、ここで死ぬならそれまでだ」
私は刀を抜いた。
「死ぬ気はない。
お前たちの好きにはさせない」
男が突っ込んできた。
槍の穂先が火の光を反射し、
一直線に喉を狙ってくる。
私は身を沈め、槍の柄を叩いた。
男は体勢を崩さず、すぐに次の突きを繰り出す。
速い。
葛山の側近たちは、皆動きが鋭い。
私は槍の軌道を読み、
男の懐へ踏み込んだ。
刀の柄で男の手首を打つ。
槍が落ちる。
男が後退しながら笑った。
「……やはり、お前はただの旅人じゃない」
「お前たちこそ、ただの浪人ではない」
「当然だ。
俺たちは“選ばれた者”だ」
その言葉に、私は違和感を覚えた。
選ばれた者──
葛山の組織は、ただの寄せ集めではない。
男が短刀を抜き、再び襲いかかる。
私は刀で受け、火花が散る。
政繁が後ろから叫ぶ。
「宗易殿、時間がない!
倉が燃え尽きる!」
私は男の腕を払い、
足を払って地面に倒した。
男は苦しげに笑った。
「……葛山様は、もう動いている。
お前が追いつけると思うなよ」
男は短刀を自らの喉に当てた。
「待て!」
だが、遅かった。
男は自害した。
政繁が駆け寄る。
「宗易殿、倉は守れた。
だが……敵は逃げた」
私は燃え残る倉を見つめた。
葛山十兵衛は、
北門でも裏門でもなく、
**兵糧を狙っていた。**
そして、
その背後には“あの方”がいる。
政繁が言った。
「宗易殿。
葛山は、あなたを試しているのかもしれない」
「試す……?」
「ええ。
あなたがどこまで追ってくるか。
どこまで読めるか。
どこまで生き残るか」
私は静かに息を吸った。
「……ならば、応えましょう」
政繁が頷く。
「次は、葛山本人が動くはずだ」
炎の残り火が、夜空を赤く染めていた。
──影は、さらに深い影を呼ぶ。




