第20話 山中の集会
大道寺政繁の屋敷を出たあと、私はすぐに北門の外へ向かった。
黒い陣羽織の連中が三日後に動くというなら、
その前に“頭”の居場所を突き止める必要がある。
北門から北へ伸びる山道は、昼でも薄暗い。
木々が密集し、風の音すら吸い込まれるようだった。
私は足跡を探した。
黒い陣羽織の連中は、廃寺から北へ逃げた。
その方向に、わずかに踏み固められた獣道がある。
──ここだ。
私はその道に入り、慎重に進んだ。
しばらく行くと、山の斜面に小さな洞窟が見えた。
入口は草で隠されているが、
人の手が入った形跡がある。
洞窟の奥から、低い声が聞こえた。
「……明日の夜、全員を集めろ」
私は岩陰に身を潜めた。
「北条の城下は混乱している。
今なら、どこへでも入り込める」
別の声が答えた。
「頭領、例の“東の殿”はどう動く」
「動く必要はない。
我らが揺らせば、勝手に道が開く」
私は息を呑んだ。
──やはり、背後に“誰か”がいる。
そのとき、洞窟の奥から足音が近づいた。
「見張りを交代する。
外を確認してこい」
まずい。
私は岩陰から離れ、斜面を滑り降りた。
草がざわめき、土が崩れる。
「誰だ!」
怒号が響いた。
私は走った。
だが、背後から二人の黒陣羽織が追ってくる。
槍の穂先が木の幹に突き刺さり、
木片が飛び散る。
私は斜面を転がり、
木の根に手をかけて体勢を立て直した。
「逃がすな!」
追手の足音が迫る。
私は深く息を吸い、
斜面の下に見える一本の倒木へ向かって走った。
倒木の下には、
小さな沢が流れている。
私は倒木を飛び越え、
沢へ飛び込んだ。
冷たい水が全身を打つ。
だが、これで足跡は消える。
沢の中を進み、
岩陰に身を潜めた。
追手が倒木の上に現れた。
「……見失ったか」
「沢に落ちたな。
だが、流れが速い。
死んだかもしれん」
「ならいい。
戻るぞ。
頭領に報告だ」
足音が遠ざかる。
私はしばらく動けなかった。
冷たい水が喉の傷に染み、
息が荒くなる。
だが──
胸の奥には、確かな手応えがあった。
洞窟の中にいた男たちの声。
その言葉。
そして、頭領の存在。
──敵の“巣”を見つけた。
私は沢から這い上がり、
濡れた衣を絞った。
洞窟の位置を頭に叩き込み、
小田原へ戻る道を探した。
だが、戻る途中で、
私はあるものを見つけた。
木の根元に、
黒い布切れが落ちている。
拾い上げると、
それは黒い陣羽織の袖の一部だった。
だが──
その裏に、
小さな印が縫い込まれていた。
丸に三つの点。
私は息を呑んだ。
──これは、軍勢を動かす“印”だ。
ただの浪人集団ではない。
組織され、統率され、
明確な指揮系統を持っている。
私は布を懐にしまい、
小田原へ向かって歩き出した。
宗易としての旅は、
もう後戻りできない。
──影は、敵の“組織”を知った。




