表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒衣の孤影  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/112

第19話 城内のざわめき

 森を抜け、小田原の城下へ戻った頃には、日が傾き始めていた。

 喉の痛みはまだ残っている。

 黒い陣羽織の槍が触れた場所が、じんじんと熱を帯びていた。


 だが、戻らねばならない。

 大道寺政繁に報告するために。


 城下の空気は、朝よりもさらに重くなっていた。

 兵の数が増え、街道には検問が設けられ、

 人々は怯えたように家の中へ急いでいる。


 ──黒い陣羽織の噂が、すでに広まっている。


 私は大道寺の屋敷へ向かった。

 門番が私を見るなり、すぐに通した。

 政繁が待っているのだろう。


 部屋に入ると、大道寺政繁は地図の前に立っていた。

 その顔には、疲れと苛立ちが混じっている。


「宗易殿。

 戻られましたか」


「はい」


「……その喉の傷。

 敵と接触したのですね」


「黒い陣羽織の連中に囲まれました。

 頭領らしき男もいました」


 大道寺の目が鋭くなった。


「詳しく聞かせてください」


 私は廃寺での出来事を、順を追って話した。

 黒い陣羽織の人数、動き、言葉、

 そして──“三日後に北門を揺らす”という計画。


 大道寺は黙って聞いていたが、

 私が話し終えると、深く息を吐いた。


「……やはり、ただの浪人ではない」


 政繁は地図の一点を指差した。


「宗易殿。

 あなたが聞いた“北門”という言葉──

 ここです」


 地図には、北条の城下を守る要所が記されていた。

 北門は、城下の中でも最も防備が薄い場所だ。


「北門を揺らせば、城下は混乱します。

 その混乱に乗じて、何かを仕掛けるつもりでしょう」


「何を」


 大道寺は答えず、代わりに別の地図を広げた。


「宗易殿。

 黒い陣羽織の連中は、

 “ある者”のために動いていると見ています」


 私は地図を覗き込んだ。


 そこには、北条領の外──

 東国の広い範囲が描かれていた。


「このあたりの村が、

 次々と襲われています。

 だが、略奪の跡は少ない。

 むしろ、村人を“動かしている”」


「動かす……?」


「ええ。

 村人を追い出し、

 別の場所へ集めている形跡がある」


 私は息を呑んだ。


「兵を……作っているのか」


「その可能性が高い」


 大道寺は地図を指でなぞった。


「北条に敵対する勢力が、

 東国の荒れを利用して兵を集めている。

 黒い陣羽織は、その“手足”だ」


 私は静かに言った。


「……黒幕がいる」


「います。

 そして、その者は北条だけでなく、

 東国全体を揺るがすつもりでしょう」


 大道寺は私の目を見た。


「宗易殿。

 あなたに頼みたいことがあります」


「何でしょう」


「黒い陣羽織の“頭”──

 その男の正体を探ってほしい」


 私は頷いた。


「廃寺で見た男ですね」


「ええ。

 北条の兵では追えません。

 彼らは、我らの目を避ける術を心得ている」


 大道寺は続けた。


「ですが──

 あなたなら追える。

 あなたは、我らとは違う“目”を持っている」


 私は黙った。


 宗易として歩き始めてから、

 私は“見届ける者”だった。


 だが今、

 私は“追う者”になろうとしている。


「……わかりました」


 大道寺は深く頭を下げた。


「宗易殿。

 あなたは、北条の家臣ではない。

 だが、我らはあなたを信じます」


 私は立ち上がった。


「黒い陣羽織の頭を追います。

 そして、その背後にいる者も」


 大道寺は言った。


「宗易殿。

 どうか、気をつけて。

 あなたが追う相手は──

 “ただの敵”ではありません」


 私は屋敷を出た。

 夕暮れの空は赤く染まり、

 小田原の城壁が影を落としていた。


 ──影は、敵の名を知りに行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ