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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

小説

ミクロダスト

作者: ちりあくた

「えいっ、潰れろっ。」


 ここは日本のK県。ある少年は右手を構え、宙に浮かぶ小さな粒のような物体を勢いよく叩き落とした。それは床に叩きつけられ、ガラス片のように砕け散る。彼はその上を飛び越えると、「ちりとり、ちりとり」と廊下をかけていった。


 この小さな物体はミクロダストと呼ばれ、数ヶ月前から突然、関東地方の一部に浮かび始めた。大きな害はないが、潰れた瞬間に破片や奇妙な液体が飛び、人々からは不気味に思われていた。


 ある日、ニュースで発表があった。ミクロダストはなるべく叩き潰さぬように、と。どうやら研究者たちの報告を聞いた政府の決断らしいが、その根拠は判然としなかった。国民には不安が広がり、日に日に批判の声は大きくなった。


 ある官僚が自宅で一言、呟く。


「ああ言われても、僕たちに大きな理由はない。ただ、この手であれを壊すのは、真相を知る身としては見たくないんだ」


 また一つ、ミクロダストが窓に当たり、砕けた。官僚はそれを見て、静かに涙を流した。


 話はK県に戻る。先ほどミクロダストを叩き落とした少年は、ほうきとちりとりでその破片を掃除していた。鼻歌を歌いながら、リズムに合わせてサッサッとほうきを動かす。すると少年は、破片の他にも少しだけ、水が溜まっているのに気がついた。


「……どんな味なんだろう」


 彼には昔から、なんでも口に入れてしまう癖があった。そうして、床にある液体を人差し指にほんの少しつけると、自らの舌へ運んだ。


「少し、しょっぱい……?」


 少年が首を傾げた、次の瞬間。


 地面が、大きく動いた。動いたというよりは、下へ下へと尋常じゃないほど強く、押し付けられるような感覚だった。少年は一瞬で床に強く叩きつけられ、頭から血を流し、死亡した。その後、一秒もしないうちに地面が割れた。少年の死体は、どこまでも続くような真っ黒い穴へ落ちていく。


 同じことが、地球上の多くの人々に起こっていた。また、ある者は宙へ尋常じゃないスピードで浮き上がり、ある者はこの世のものとは思えない暴風に吹き飛ばされた。


 地球は一瞬で粉微塵になった。


 最後に、どんな巨人でも出せないほど大きく低い声が、人々の耳をつんざいた。その声は、無邪気な日本語だった。


「えいっ、潰れろっ。」

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