第8話 新たな出発
レオはアリシアの腕の中で、懐かしい姉の温もりに包まれている。彼女は昔と変わらず格好よく、美しく、優しかった。レオの胸に喜びが溢れる。
「お姉ちゃん……本当に生きていたんだ」
姉はレオにとって全てだった。産まれたときからずっと側にいて、笑顔で守ってくれた存在。彼女が死んだと聞いたあの日から、レオの心はぽっかりと空いたままだった。だから、こうして姉と再会をした今、もう二度と離れたくないと強く願った。
(やっと、お姉ちゃんと一緒に仕事が出来る。騎士を目指した時の夢を叶えられるんだ!)
レオは心の中でそう叫び、自然と顔が緩む。アリシアは彼を受け止めながら、怪我の様子を確認する。
「レオ、怪我は痛くない?オルテリアに着いたらちゃんとした治療をしないとね」
「今、俺たちはオルテリアに向かってるの?」
レオが驚いたように尋ねると、アリシアは一瞬目を伏せ、穏やかに頷いた。
「あぁ......実は、そうなんだ」
「お姉ちゃんはオルテリアに仕えてるの?」
レオの純粋な質問に、アリシアは一瞬言葉を詰まらせる。彼女はただの騎士ではなく、オルテリアの王女であり姫騎士だった。だがその事実を隠しながら彼の姉として自然に振る舞う。
「そうだよ。レオもオルテリアに来る?」
「うん!お姉ちゃんと一緒に騎士として働けるの?」
レオの声に期待が溢れていた。その様子にアリシアの胸が温かくなる。
「もちろんだよ。レオは立派な騎士なってくれたからね。どんな風に過ごしたい?」
レオの目が輝き、満面の笑顔で答えた。
「それは、お姉ちゃんを守る騎士だよ!一緒に戦って、昔みたいにいつも一緒にいるんだ!」
それがレオの小さい頃からの夢だった。騎士を目指したきっかけも、姉のように強くなりたいという憧れからだった。一時期はいつもくっついてくる姉から自立をしたくて少し姉離れをしようと思ったこともある。だが、姉がいなくなってから初めて自覚した。大切なものは失ってからでないとその価値に気づかないと。
「ふふ、いつも一緒か……、お姉ちゃんも一緒にいたいよ。レオの望むだけね」
「じゃあ、お姉ちゃんと一緒の部隊にいて、一緒の任務をして、一緒に寝て、一緒に起きて、一緒に暮らしながら過ごすの!」
その願いにアリシアは心から嬉しくなる。彼女はレオの頭を優しく撫でてながら微笑んだ。
「そうだね。じゃあ一緒に暮らそうか、お姉ちゃんもレオと過ごすの楽しみだよ」
「昔みたいに一緒にいれるの?」
「もちろん、お姉ちゃんはずっとレオの側にいるからね。だから……もう死んでも良いなんて思わないで。わかった?」
アリシアの声は少し震え、真剣な眼差しでレオを見つめる。レオは目を丸くして、明るく頷く。
「うん!俺はもう死にたいって思わないよ!だってお姉ちゃんが生きていたから!ずっ~と一緒だよ!」
「あぁ……ずっと一緒にいるよ」
アリシアはそう呟き、彼の笑顔を心を奪われた。嘘をついている罪悪感があったが、レオの幸せそうな顔を見てると、その痛みは少しずつ薄れていった。
――――
その後、アリシアはレオが眠ってる時に獲った魚を焼き始めた。二人で食事を済ませると、彼女はレオの体力回復を願いつつ、今後の事を考えていた。
(薬はもう無くなった。出来れば人里を見つけて、薬を手に入れたい)
寝てる間に回復魔法をかけたが、鎮痛効果はあるものの、アリシア自身が治療に関しては専門では無いので、銃創への効果は未知数だった。
それに加え川に流されてしまったので、現在の詳細な位置が不明で、状況は厳しかった。
「お姉ちゃん、もう俺は動けるよ」
レオは姉が心配そうに自分を見ていることを感じ、安心させようと元気そうに振る舞う。
「そう?無理はしないでね。辛くなったら、おんぶしてあげるから」
「お、おんぶは恥ずかしいよ!」
レオの顔が赤くなると、彼女はくすっと笑った。
「ふふ、じゃあ抱っこにしようか?」
「だっこも……恥ずかしいから!」
彼の慌てた様子が可愛らしく、アリシアは優しく頷いた。
「わかったよ。じゃあ出発しようか」
――――
洞窟を出て暫く進むとレオがふと足を止めた。道端に咲く一輪の花に目をとめ、嬉しそうに笑う。
「お姉ちゃん、ほら!お姉ちゃんの好きな花だよ」
彼が指差した先には鮮やかな青いバラが咲いていた。レオの記憶では姉アリアの好みのはずだった。
「……レオ、よく気がついたね」
アリシアは驚きを隠せなかった。彼女自身も幼い頃、この青いバラを密かに気に入っていた。このバラが好きなことは誰にも言ったことは無かったし、誰にも気づかれる事も無かった。
「うん!お姉ちゃんとの思い出は覚えているからね」
レオが嬉しそうにしている中、アリシアは内心で驚きを深めた。
(レオの姉アリアとここまで共通点があるとはな……)
アリシアはアリアとの不思議な共鳴を感じつつ、レオの手を優しく握った。
「ありがとう。レオ」
彼女はその花を一輪摘み、彼には微笑みかけた。
「さあ、行こう」
二人は手を繋ぎ、オルテリアを目指して歩き始めた。青いバラが風に揺れ、二人の間で鮮やかに咲いていた。
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