表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/15

第7話 偽りの絆と本物の愛

 レオが眠りに落ちると、洞窟の中は深い静寂に包まれた。アリシアは彼を起こさすよう、そっと横に座り直し、レオの寝顔を見つめている。彼女は彼の額に手を伸ばし熱が無いこと確かめた後、静かに手を引いた。その瞬間、心の中で様々な感情が渦巻き始めた。


「私は彼を騙している……」


 偽りの姉を演じている罪悪感が、彼女の胸を締め付けた。レオはアリシアを姉のアリアだと信じ、純粋な喜びを向けてくれている。その笑顔が、冷たい刃のように彼女の心に突き刺さっていた。


(レオは私を救ってくれた……)


 レオが自分を助けるために銃弾を受け、命を救ってくれたことを思い出すたびに恩義と感謝が胸を熱くする。でも、それだけではなかった。レオはアリシアの孤独な心を癒していた。彼女はレオに捕らわれた時、もう生きる事への執着が消えていた。誰にも愛されなかったし、愛されることすら、もう望んでなかった。だから彼女は彼の刃を受け入れようとしたのだ。


(私にこんな感情が湧くなんてな……冷たい人間だと思ってたのに……。誰かに必要とされるだけでこんなに心が満たされるとは……)

 

 彼の純粋さに触れることで芽生えた家族のような愛情が彼女に温もりを与えていた。そして、レオから家族のように慕われる事で彼女の孤独感が溶けていく。


(けど……、私は本当に正しいことをしてるのだろうか……)

 

 同時に恐怖を感じていた。もしレオに自分が姉ではなく、敵国の姫であることがバレたら、彼は自分を拒絶するかもしれない。


(その時は、私はまた孤独に……)


 想像するだけで自分の心が壊れそうになる。レオが自分から離れていく姿。それでも、彼の為になるなら偽りの姉として側にいたいという願望があった。


(せめてレオが立ち直るか、レオが思い出すまでは……)


 自分を姉だと誤認してからの彼は今までの寂しそうな雰囲気や辛そうな表情が消え、喜びに溢れ明るくなっていた。その変化がアリシアには嬉しくもあり、切なくもあった。


「ごめんね、レオ……」


 アリシアは小さく呟き、眠るレオの頬をそっと撫でる。彼女の心は彼の心の傷を癒すために姉の代わりをしようとする決意と、偽りの姉を演じる罪悪感の狭間で揺れていた。



 ――――――


 昼頃、レオが目を覚ました。彼はぼんやりと辺りを見渡し、アリシアの姿を捉えた瞬間、笑顔が溢れる。


「お姉ちゃん!」


 その一言に、アリシアの心臓が跳ねる。一瞬息を呑み、レオが自分をどう認識しているのか不安がよぎった。アリシアとして見てるのか、もしくは姉のアリアとして見ているのか。

 だが、彼の喜びに溢れた笑顔を見た瞬間、迷いは無くなった。


「おはよう、レオ。よく眠れた?」


 彼女は動揺を隠し、穏やかに言う。レオは身を起こし、怪我の痛みも忘れ勢いよくアリシアに抱きついた。


「やっぱりお姉ちゃんなんだ!生きていたのは夢じゃなかったんだ!」


 レオの声は喜びに満ち溢れ、頬には滂沱の涙が流れた。アリシアは彼を抱き締め返し、優しく背中を撫でる。彼からの愛が伝わり、アリシアの胸も熱くなった。しかし、覚悟は出来ていたとはいえ、レオの記憶の中に、『アリシア』という存在が消えた事に僅かな喪失感が湧く。


「そうだよ、レオ。お姉ちゃんだよ」


 レオは彼女に抱きついたまま、涙を流し続けた。アリシアはまるで本物の姉のように大切に彼をなで続ける。その自然な仕草に、レオの抑えきれなかった感情が溢れ出す。

 

「お姉ちゃん死んだって聞いてから、ずっと寂しかった。辛かった。でもお姉ちゃんみたいな立派な騎士になろうと思ったんだ」

「立派な騎士になってくれたね。レオ」


 レオの口からは姉を失ってから溜まり続けていた感情が口から次々とこぼれてくる。

 

「でもね、本当は……早く死にたかった。お姉ちゃんは自害は怒るだろうから、敵の立派な騎士と戦って死のうと思っていた。死んだらまたお姉ちゃんと会えるのかなって……」


 その言葉に、アリシアの胸が締め付けられた。彼の孤独と絶望が痛いほど伝わってくる。この少年がここまでの闇を抱えていたことを知り、涙が流れそうになった。


「レオ、もうそんな事は考えないで。わた……お姉ちゃんがいるから……もう一人にしないから……絶対……」

「ありがとう.……、お姉ちゃんも泣いてるの?」


 レオに指摘され、アリシア自身も気づかなかった涙が溢れる。彼が痛まぬよう深く抱き締めた。

彼には今の顔は見せたくない。自分が忘れらた事の悲しさ以上に目の前の少年の心を癒したい想いが強かった。

 

「ん?あれ?ちょっと目に砂が入ったんだ。気にしないで」

「お姉ちゃん大丈夫?」


 レオの純粋な心配に、彼女は自分の体を彼に密着させ、出来る限りの愛情を込めて抱き締める。


(大丈夫だ。私は演じられる……、何もおかしくはない……私は大丈夫……、だってレオが言ってくれたんだから、お姉ちゃんにそっくりだと……)


 アリシアは様々な感情が交錯していたが、決意を固めた。もう迷わない。

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃんは大丈夫だからね」

 

 (私が彼に愛を注ごう。アリアの代わりに私が彼を前に歩ませよう。たとえ偽りの関係でも彼は私の恩人だ……)

 

「お姉ちゃん大好きだよ」


 レオの言葉にアリシアは微笑みながら、ぎゅっと彼の頬に自分の頬をすり合わせる。


「お姉ちゃんもだよ。レオ」


 (この関係は偽りだ。けど、この感情は本物だよ。レオ)


 偽りの姉を演じる決意と、彼と共に生きる決意。その二つを胸にアリシアはレオを抱き締め続けた。 

閲覧ありがとうございます!

気に入っていただけたら、評価や感想を送って貰えると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ