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第29話 実技試験(決着)

 木屑が飛び散り、確かな手応えと共に、シルビアの剣を両断した感覚を伝える。この模擬戦での初めての成功。レオは思わず喜びの声を上げた。 


「やった……!」


 観衆が息を呑み。シルビアは自分の剣が折れた事に驚き、僅かに目を見開く。


「ふっ、私の剣を折るとはな。なかなかやるじゃないか」


 今まではシルビアのリーチが勝っていた。レオより腕が長く、間合いをコントロールすればシルビアの攻撃は当たるがレオの攻撃は届かない。

 だがこの瞬間からその関係は逆転した。


「えぇ!ヤバい!」

「すごいね!あの子、中隊長の剣を折ったよ!」

「信じられないよ!彼は13歳なんでしょ!」


 会場も熱気に包まれるが、レオも喜んでばかりは居られない。今までのシルビアの攻撃でダメージは蓄積し、あと何分立っていられるかは分からない。このチャンスを生かし、必死に剣を振るう。


「いきます!!」


 彼女に突き進み。胴体をめがけて、斬撃を叩き込む。空が暗くなり、ぽたりと雨が降ってきた。


「くっ、貴様の本気はそんなものか!」


 シルビアも短くなった剣で防ごうとするが、レオの剣を完全には止められず、攻撃を受けてしまう。


「はっ!ハァ!!!」

「そんな攻撃じゃ甘いぞ!全力を見せてみろ!」


 彼女をダウンさせる事を目指して、必死の連撃を繰り出す。剣は当たるが、彼女は短くなった剣を上手く動かし、衝撃を分散させる。


(倒さないと!!当たってくれ!)


 汗と雨が混ざり、互いの剣が滑り合う、雨にも体力を奪われる中、レオは勝利を目指して剣を振るう。


(俺は何が何でも!合格をするんだ!!お姉ちゃんと共にいるために!)


 残りの力を剣に込めた。渾身の一撃も防がれたと誰もが感じた。血や雨で濡れて滑りの良くなった剣はシルビアの剣を滑り、彼女の兜へと吸い込まれる。


「ぐっ!」


 鈍い衝撃音が響き、レオの木剣も割れると共に、さすがのシルビアも膝をついた。


「中隊長!ダウン!ワン!ツー!スリー!」


 カウントが響くと共にレオの体に疲労感が満ち溢れる。呼吸は乱れ、鼓動が煩いほど大きい。


「すごい!中隊長が膝をついたよ!」

「あの少年やるね!」


 会場からレオの戦いへの称賛の声が漏れ聞こえた。だがシルビアはすぐに立ちがある


「レオ殿、今のは素晴らしい一撃だったぞ!」

「はぁ……、はぁ……」


 レオは自分の折れた剣を見る。もうリーチのアドバンテージは無い。お互いに短い剣。腕の長さで再びシルビアがリーチを制している。


(くそっ!もう体力なんて……)


 わずかに残った体力でさえ先ほどの攻撃で使い切った。もう剣を握るのもやっとである。


「諦めるのか?」


 シルビアは折れた剣をレオに突き差し、問いかける。


(違う!命ある限り食らいついてやる!俺が勝つんだ!)


 姉を思い浮かべ、折れそうな心に鞭を振るう。


「ぐっ……、諦めないです!俺は……、この事では絶対に諦めない!」

「よし!行くぞ!」


 シルビアは折れた剣を捨て、拳をレオに叩き込む。レオも必死で拳で反撃する。


(ダメだ。もう立てない……)


 足元がふらつき、倒れたら再び立ち上がる事は出来ないだろう。


「俺は………、絶対に……、合格をする……んだ……」


 多くの拳を受け、気を失いそうになりながら、捨て身のタックルで引き分けを狙う。倒れかかるようにシルビアに突っ込み、体重を彼女の体にかける。


「何っ……!」


 それにはシルビアも驚きの声を上げた。彼女にとって、この実技試験で初めて想定外の出来事だ。


「うおおおお!!」


 彼女が受け身を取れないよう、足を絡ませるようにして、全体重をぶつける。


「ぐっ!」


 シルビアに衝撃が行くように倒れたが、シルビアも完全に抱きつく直前の彼の腹部に拳を叩き込む。内臓が潰れるような鈍い衝撃音が会場をこだました。


「ごはっ……」


 レオの全体重が乗った状態でシルビアは下敷きになるように地面に倒れた。


「がはっ……」


 2人分の体重が彼女の肺を圧迫し、思わずうめき声がこぼれる。


「両者ダァァウゥゥン!!ワァァァァン!!トゥゥゥ!!スゥゥリィィィ!!」


 息を整えたシルビアはレオをどかして立ち上がる。彼はもう動くことは出来なさそうだった。


「ナァァァイン!!テェェンッ!!ノックアウトッ!!勝者、シルビア中隊長!」


 息を整えているシルビアの元へ、ちょうど書類を抱えた女官が駆け寄る


「中隊長!筆記の採点結果です!ご確認ください」

「ふむ。なかなかだな」


 そして彼女は改めて観衆を眺める。レオの心からの渇望が周囲に伝わり、最初の空気が嘘のように変わっていた。


(団員の空気も良い感じだ。彼が入団しても大丈夫だろう。)


 剣を交えて、彼女としても、レオという人間を分かる事が出来た。少なくても主君に害をなす人物では無い。

概ねシルビアの予定通りに事は進んでいた。


(これで殿下が望みには近づけただろう)


 シルビアは佇まいを整えると全員に宣言するように声を張る。


「レオ・グリムソードの試験を結果を発表する!筆記は良!実技は優!合格とする!この瞬間から、彼は我々の一員だ!異議があるものはいるか!!」


 僅かに顔しかめる団員はいるが、殆どの者は拍手と歓声で歓迎をした。


「ほら、レオ殿。いや、レオ。君も今から我々の仲間だ。皆に挨拶をしてくれ。……おーい」


 未だに立ち上がらないレオの肩を揺すりながら、シルビアは首を傾げる。


「中隊長、レオ君……気絶してますよ?」

「そうか……、彼は全力を出し切ったんだな」

「中隊長が大人げない攻撃をするからですね。本当にドン引きです」


 フィオナがボソッとシルビアを非難すると彼女はバツが悪そうに笑う。


「続きは後にするか。フィオナ、レオを急いで治療所に運ぶぞ」

「はーい」


 雲の間から日が差し込み、空に虹がかかる。観衆の拍手が更に大きくなる中、入団試験は無事に幕を閉じた。

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