第26話 実技試験(第1ラウンド)
訓練場の中央には人だかりが出来ており、レオに対する眼差しはいっそう強くなっていった。女騎士から兵に至るまで、彼女達は冷たい視線をレオに送っている。
(こんなに人がいっぱい……)
妬み、敵意、不審。この空間で自分は異物だと……、レオは痛いほどそれを感じてしまう。
レオは周囲の囁きが耳に入らないよう、心のなかで姉の言葉を反芻する。
『お姉ちゃんもレオの合格を信じてるよ』
その一言だけでレオは何倍も頑張れる。姉が信じてくれている。もうレオは一人ぼっちでは無い。支えてくれる家族がいる。支えたい家族がいる。
(俺は負けないよ。お姉ちゃん!)
人だかりを抜け、訓練場の中央に到着する。そこには銀髪の女騎士が静かに立っていた。レオにも覚えがある女性。昨日挨拶したシルビア中隊長だった。
「ようこそ、レオ殿。実技試験の相手は私だ」
シルビアの声は低く、威厳に満ちていた。周囲のざわめきは消え、レオは緊張を抑え挨拶をする。
「はい!宜しくお願いします」
彼女はレオの瞳をじっと見つめ、言葉を続ける。周囲の観衆にも聞こえるよう、声量を上げた。
「まず聞こう。君はこの騎士団にどうしても入りたいか?」
「はい!」
レオは即答した。姉と一緒に働きたい。姉の助けになりたい。その思いが自分の全てだ。
「ここは君にとっては敵国の騎士団。この視線の様に、皆君を怪しんでいる。それでも入りたいか?」
彼女はさらに追及する。シルビアは知りたいのだ。彼がこの騎士団に入るべき存在か、逆境に負けない強い意志があるかどうか。
そして、彼が自分の主君に仕えるほどの人物か、主君の救うことを出来る人物か……
「はい!それでも入りたいです!」
「その為ならどんな事も出来るか?」
レオに迷いはない。再び姉と離れるくらいなら死んだほうがマシだ。側にいたい、その為の障害は何であっても乗り越えてみせる。
「はい!どんな事もします!絶対に!」
その決意に満ちた返答に、シルビアの口角がわずかに上がる。主君が心を許したのも少し分かる気がした。
「宜しい。なら、その心意気見せて貰うぞ」
問答が終わり、待っていたかのように赤髪の女騎士が割り込んで来た。明るい声で微笑みながらレオに近づく。さっきまでの真剣な空気がどこへやら……
「はーい。審判は私、フィオナが務めます!レオ君よろしくね♪」
フィオナの明るく軽い調子にシルビアはジト目で睨む。だがフィオナの様子は変わらない。
「は、はいっ!フィオナさん!宜しくお願いします!」
「中隊長相手なんて、大変と思うけど!頑張ってね!では中隊長、ルール説明を!」
それ様子にレオは少し、緊張が解けた。フィオナから敵意や蔑みは感じなかったからだ。
シルビアはため息をつき、ルールの説明を始める。
「……、まぁ良い。模擬戦のルールは単純だ。倒れて10カウント立ち上がれなかったら負けだ。1ラウンド10分、ラウンド間の休憩は2分」
レオは頷く、エンブレイズでの模擬戦も同じようなルールだった。
「武器は木剣、防具は頭部と胸部のみ。ダウン中と顔面攻撃は禁止。実戦に近い形式だ。木剣が折れたら、次のラウンドまで交換出来ない。何か質問は?」
レオはフィオナに渡された木剣を握りしめる。
「ありません!」
「よし、フィオナ、進行を」
「はいっ!両者、準備をして!レオ君はこのサイズの防具で良いかな?」
「ありがとうございます!ぴったりです!」
レオはフィオナが持参した防具を受け取り、装着した。気持ちを落ち着かせ、フィールドの中に入る。
「両者、位置について!」
「良いか、レオ殿。私も手加減はしない。だから君の本気を見せてみろ」
「はい!」
相対する中、レオは冷静に分析する。シルビアの身長は姉と同じくらいで自分より頭一つ分大きい。リーチも体格もレオが劣る。佇まいで歴戦の騎士だとわかった。攻める隙が見つからない。
「構え!ファイトッ!」
会場が静まり返る。最初の一歩どう動くか、判断が出来ない。先に動きたのはシルビアだった。
「来ないのか?なら此方から行くぞ!」
瞬きの間に迫ったシルビア。彼女の顔を間近に感じた時、レオは腹部への強い衝撃と共に後ろに吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
レオは地面に転がり、腹部に激痛が走る。この光景に沸き立つ観衆。
「よっ!中隊長!」
「一撃必殺じゃん!」
「ワーーン!!ツゥゥゥ!……」
倒れ込んだレオの頭上からカウントが届く。胃液が込みあげ逆流しそうな感覚。衝撃で上手く声が出せない。だが、立つ、立ち上がらないといけない。
(勝たないと……、お姉ちゃんの為にも…)
剣を支えに、何とか立ち上がる。
「セェブン!……大丈夫?」
「だ、大丈夫です。続行して下さい」
観衆がどよめく。シルビアの攻撃をモロに食らって立つとは思ってはなかったからだ。だがシルビアは驚かない。主君が認めた人物が耐えられないとは思ってないからだ。
「なんだよ、さっさとヤラレちゃえば良いのに」
「中隊長!トドメをさしちゃって下さい!」
再び両者は向かい、レオは木剣に力を込める。
「再開、ファイトッ!」
シルビアの剣が襲ってくるが、今度は何とか剣を合わせられた。だが守るのに精一杯で攻撃する余裕はない。一撃がまるで騎兵の突撃のように重い。
「くっ!」
防ぎ切れなかった攻撃が肩に当たり、激痛が走る。倒れそうになる。けど、倒れる訳にはいかない。
(絶対にお姉ちゃんの隣に立つんだ!)
彼女は自分より強い。けど、そんなのは何だ。姉は王女様の影武者をしている。
(お姉ちゃんを守る為には、強い人達と戦えないといけない!)
影武者は襲われる事が多い。自分より強い暗殺者、それに大人数かもしれない。その刃から姉を守らないといけない。だから……レオはこの試練を乗り越えないといけない。
「やっちゃえ!中隊長!」
「そいつをぶちのめせ!」
剣を合わせ、攻撃の隙を探す。だが、どうしても彼女の剣を全て防ぎ切れない。剣に集中して足元が疎かになる。
「ぐぅ!」
脇腹に蹴りを食らい。うめき声と共に転がり込んでしまう。激痛で油汗がにじむ。再びカウントが頭上から響いた。
(痛い……苦しい……辛い……、お姉ちゃん……)
無意識に自分の目が姉を探してしまう。助けを求めそうになってしまう。だが、姉はこの場にはいない。
(違う!勝つっ!俺は勝てる!お姉ちゃんの弟だ!)
痛みを堪え、何とか立ち上がる。
「そうでなければな……」
その様子にシルビアは納得するが少し驚く。彼が自分より10歳も年下の少年だとは思えないほどだ。
(流石、殿下が望む人物ではあるな。殿下も良い拾い物をされた)
今入れた一撃一撃が、普通の騎士なら立ち上がれないようなダメージだ。主君を騙す悪人だったら、ここまで耐えられるはずがない。
「え、まだ立てるの?」
「嘘、モロに食らってたよね?」
観衆の騎士たち、彼女達もレオの姿に息を飲んでいた。罵声が減り、驚きの声が広がる、
「レオ君、続けられる?」
「大丈夫です!続行を!」
息を整え、レオは立ち向かう。ちょうどシルビアと剣を合わせた時、漸く第1ラウンドの終了の鐘が鳴った。
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