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第22話 騎士団会議

 朝の食事を終え、アリシアはレオの入団手続き書類を手に立ち上がった。最後に書類を一通り確認すると、レオに優しく微笑みかける。


「レオ、お姉ちゃんはこれから会議に行ってくるね。昨日みたいにゆっくりしてて」

「うん!お姉ちゃん、会議頑張って!」

 

 レオは元気に頷き、姉の背中を見送る。部屋のドア閉まる音が響くと、彼の胸に少し寂しさが広がった。広くて豪華な部屋だが、その分、姉が居ないと心細くなる。だが、頬を叩いてすぐに気持ちを切り替えた。


「よし!頑張ろう!」


 レオは書庫に向かうと、昨日の勉強の続きをする。姉の隣に立つ為にもゆっくりはしてられない。本を開き、地図や法律書、風習やマナーを学ぶ。エンブレイズ王国もオルテリア王国も民族は同じだ。その為、ある程度共通している事は多いが、法律や軍制などは色々と異なる。


(お姉ちゃんの足を引っ張らないように……、俺が支えられるようにならないと……)


 立派に王女様の影武者をしている姉の側にいる為。誰もが認める騎士にならないといけない。失敗して、姉に恥をかかせる訳にはいかない。早く覚えて、姉が喜ぶ姿を見たかった。目標があると自然に時間は過ぎていく。


 ――――――――――


 一方、アリシアは会議室に入った。部屋には既に主要幹部が集まっている。騎兵第1中隊長シルビア、同中隊第2小隊長フィオナ、第4小隊長のエレナ。そして歩兵第1中隊長エヴァと女官長クラリス。

 皆がアリシアの入室に気付くと、一斉に立ち上がり頭を下げた。


「おはようございます。殿下」

 

 アリシアは席に座り、皆に着席を促した。少し深呼吸して気持ちを落ち着かせると、すぐに本題を切り出す。


「皆、おはよう。今日、私からはレオ・グリムソードの入団について話がある。昨日言った通り、彼を雷鷹騎士団に迎い入れたい。入団申請書類は出来ている。この会議で受理しようと思う」


 書類をテーブルに置くと、部屋に静寂が広がった。幹部達の視線が一斉にアリシアに集中する。最初に口を開いたのはシルビアだった。ポニーテールに結んだ銀髪が静かに揺れ、真剣な表情で主君に向き合う。


「殿下、入団試験はどのようにお考えで?」

「私の推薦だ。必要無いと思うが」


 シルビアは眉を少し寄せ、すぐに反論した。

 

「殿下、それは……。レオ殿はエンブレイズの騎士です。しかも男性。王都駐在の騎士団員は女性中心です。剣の腕も不明ですし、素性も定かではありません。無試験はなりません!」


 彼女が真剣な表情で反対を表明すると、フィオナも頷いた。


「そうですよ、殿下!悪い子には見えないですけど、皆が納得しないと思いますよ!せめて、ちゃんと試験はするべきです」


 他の者も2人に同調する。だが、アリシアは早くレオの希望を叶えてあげたい。自分の隣に立つべく、昨日も勉強をしていた。それに応えたい。


「レオの剣の腕は確かだ。恩人だし、私は彼を騎士に値すると思う」


 彼女が言葉を続けても、誰も賛成してくれない。アリシアの心が少し痛む。シルビアが改めて告げた。


「それでも、試験は必要です。この団の為にも。レオ殿の為にも……、皆が納得出来る形にすべきです」


 会議室の空気が重くなる中、突然ドアが開き、息を切らせた女騎士が飛び込んで来た。水色の髪を靡かせ、アリシアを見るなり涙を浮かばせる。


「殿下!ご無事でっ!!」


 彼女は騎兵第1中隊第3小隊長のソフィア。クロスフェル平原の戦いにアリシアと共に参戦していた騎士である。


「ソフィア……、心配かけたね。捜索してくれてありがとう」


 ソフィアは膝をつきながら、主君との再会を喜んだ。彼女は戦いの中盤、アリシアの命令で負傷者などを連れて後方に下がっていた。戦闘後、アリシアが戻って来ていない事を知ると50人ほどを率いて必死に主君を捜索していたのだ。王都への帰還が遅れたのもそのためだった。


「殿下のために働くのが私の約目です。本当に良かった……。生きておられる事を信じておりました……」

「ソフィアありがとう。無事なのは君たちのお陰でもあるよ」


 ソフィアは涙を流しながら、主君の無事を喜ぶが、すぐに議題を知る。敵国の騎士レオの入団を聞くと態度を一変させた。


「殿下が戦場で消息不明になってから、我々は必死に捜索していました!それなのに、帰還したら敵国の騎士を入団させるなど……私は絶対に嫌です!」


 ソフィアの叫び声が響く。彼女自身、エンブレイズとの戦闘で仲間を失ったり、多くの部下が負傷している。そんな敵国の人間を自分達の騎士団に入れたくはない。


「ソフィア、頼む。落ち着いて聞いてくれ、レオは私の恩人で……」

「殿下!そんな男は一刻も早く追い出して下さい!私は絶対に認めません!」


 レオの入団はアリシアが心から望みだった。にも関わらず、忠誠心が厚いはずの家臣達全員に反対されてしまった。一人くらい味方になって欲しかった。理解して欲しかった。彼女は自分が情けなく感じた。


「確かにソフィアの言うことに一理あります」


 エヴァが静かに言うと、ソフィアの意見に他の幹部が賛同しそうになっている。シルビアはアリシアが悲しさを抑えているのに気付いた。

 

(殿下っ……。)

 

 その様子を見て、シルビアは無理矢理纏めようとする。自分の主君の珍しいわがままだ。普段から我慢ばかりしているお人だ。シルビア自身、アリシアが5歳くらいの頃から側に仕えている。主君の希望は叶えたいが、団の規律も両立しないといけない。


「殿下、私がその敵国の男を……」


 ソフィアが再び声を上げようとするが、シルビアが厳しい声で制した。

 

「ソフィアっ!黙れ!」

「ちゅ、中隊長?」


 まずはソフィアを静かにさせる。このままでレオを追い出すかどうかが議題になってしまう。シルビアはアリシアに体を向け、当初の議題に軌道修正をした。


「殿下、本日試験を実施しましょう。実力を示せば皆が納得します。筆記と模擬戦でいかがでしょうか?」

「わかった……。シルビアに任せる」


 アリシアは渋々頷くと、そのまま会議室を出る。皆を納得させる事が出来なかった事が情けない。レオを追い出されそうになった事が辛い。レオに負担をかけてしまう事が申し訳ない。


(レオ、ごめんね。お姉ちゃんダメだったよ)


 自分の事を慕ってくれる彼の為に少しでも楽で、少しでも良い方法にしてあげたかった。王女として権限を使って彼を喜ばせたかった。その試みが失敗した今、アリシアの胸の中に大きな無力感が生じていた。




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