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【閑話・過去編】レオ(9歳)お姉ちゃんを『姉貴』と呼んでみる(前編)

 エンブレイズ王国の首都にあるグリムソード家の小さな家。レオ・グリムソードは興奮を抑えきれずにいる。10歳の誕生日を来月に控えた今日、手元に届いたのは王立騎士学校からの合格通知書だった。


「やった!俺、騎士学校に合格したんだ!」


 レオは通知書を何度も読み返す。最年少の10歳で入学できるのは、姉のアリアと同じ快挙だった。アリアは何歳も年上の同期生が多くいるにも関わらず、13歳で騎士学校を首席で卒業し、15歳の今では小隊長として活躍している。


「お姉ちゃんと同じ道だ。お姉ちゃんも喜んでくれるかな」

 

 レオにとっては姉は憧れの存在。幼い頃に両親を亡くしてからは、姉は騎士として働きながら自分を育ててくれた。強くて、美しくて、優しくて、何でも出来るお姉ちゃん。そんな姉が昔から大好きだった。

 だからレオもいつか姉のように強くなり、肩を並べて戦いたいと思っていた。合格はその夢への第一歩だ。

 ふと、鏡に映る自分を見ると、少しだけ大人びた気がする。

 

「ふふん。俺も大人に近づけたかな?」


 最近、周りの友達が自分の姉を『お姉ちゃん』じゃなく『姉さん』や『姉上』と呼んでいるのを耳にした。大人っぽい男の人達は姉の事を『姉貴』と呼んでいるらしい。レオはずっと『お姉ちゃん』と呼んでいたが、騎士学校に合格した今、少し大人ぶってみたくなる。


「そうだ!今日はお姉ちゃんが遠征から帰ってくる日だ。帰って来たら『姉貴』って呼んでみよう!もしかしたら大人っぽくて頼れる弟だって思ってくれるかも……」


 姉に頼られる大人の騎士。なんと格好いいだろうか。きっと姉の事を守れるようになる日も近い。姉もレオが立派になったと思ってくれるに違いない。


「あ、姉貴っ!おかえり!」


 レオは鏡に向かって練習をした。少し恥ずかしいが、大人っぽく感じる。レオは部屋を片付け、姉の好きな紅茶を用意して待った。


「早く帰ってこないかな〜」


 大好きな姉との1ヶ月ぶりの再会だ。レオの心は喜びでいっぱいだ。待ち遠しくてたまらない。


 一方、その頃、アリア・グリムソードは馬を走らせ、胸いっぱいの思いで家路を急いでいた。15歳の彼女は、金色の髪を風に靡かせながら鞭を振るう。

 今回の遠征は1ヶ月にも及ぶ盗賊団の討伐任務だった。無事に成功したものの、心の中はいつも弟レオの事を考えていた。レオはまだ9歳だ。一人で留守番をして辛くなかっただろうか?何かトラブルは起きてないか?怪我はしていないか?泣いてないか?


(レオ……、大丈夫かな?1ヶ月も留守にしちゃって)


 考え出すと、一人ぼっちで寂しくしているはずのレオへの心配が尽きない。脳裏に浮かぶのは自分がいなく、ベッドの上でしくしくと泣いているレオの姿。数年前、アリアが初めて遠征した際、レオは寂しそうに泣いていた。あの時の記憶がアリアの心を疼かせる。


(早くぎゅーって抱きしめてあげないと、可哀想……。沢山甘やかしてあげるからね!お土産も用意したから!)


 鞍に括りつけた袋には、レオへのお土産が入っている。遠征先で寄った街で見つけたペンダントと、レオの合格のお祝いとして選んだ短剣。レオが騎士学校に合格したという報せは昨夜、アリアの元にも届いていた。


(お姉ちゃんと同じ、最年少合格なんて!流石私のレオ!)


 優秀で可愛い弟を持つ事が出来て、アリアは誇らしい気持ちでいっぱいになる。唯一の家族で自分を『お姉ちゃん、お姉ちゃんっ』って慕ってくれるレオはまるで自分の分身のように可愛い存在だ。そんなレオは世界で一番大切な人。目に入れても痛くない、可愛くて愛しい弟だ。


(レオは本当に可愛いんだから!いつも「お姉ちゃんっ!」って駆け寄ってくると、私に甘えてくれる。レオがいると、どんな疲れも吹き飛ぶよ)


 レオにとってアリアは唯一の家族。それはアリアにとっても同様だった。レオの存在がアリアの騎士としての原動力だ。早く家に着いて、レオを抱きしめてあげたい。これはレオの為でもあるが、アリアにとっても活力の源だった。

  

(レオっ……!お姉ちゃんがすぐに帰るからね!あと少し待っててね!)


 夕暮れ時、アリアは漸く家の前に到着した。馬を繋ぎ、玄関のドアを開ける。いつも通り、すぐにレオの足音が聞こえ、レオが飛び出してきた。きっと「お姉ちゃんっ!おかえりっ」って抱きついて来るだろう。そう思いアリアは彼を抱き止める準備をしようとする。


「ただいま、レオ!」


 アリアは笑顔で両手を広げ、レオが抱き付くのを待った。だが、次の瞬間、レオの言葉に体が凍りついた。


「あ、姉貴!おかえり!」

「……え?」


 アリアの思考が止まった。彼女の耳に届いたのは、いうもの「お姉ちゃん」ではなく、「姉貴」 という言葉。目の前のレオがいつも通り、笑顔で駆け寄ってきているのに現実感がなかった。


(ん?これはなんだろう。まるで違う世界のみたい。世間では昨今、馬車に轢かれて違う世界に行く話が流行っているみたいだけど、私は轢かれた覚えはない……)

 

 きっと聞き間違えだろう。そうに違いない。アリアは冷静に判断をして、レオに微笑みかける。だが現実は無情だった。


「姉貴!遠征お疲れ様!」


 聞き間違えとは思えないはっきりとした言葉にアリアの思考は再び凍ってしまった。

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