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第20話 離宮へ

 王都の宿の一室で、アリシアはレオを抱きしめたまま、穏やかな時間を過ごしていた。秘策の影武者設定が受け入れられた今、レオと共に暮らせる未来への期待感が心を満たす。


(良かった……本当に良かった……。これでレオと一緒にいられる)

 

 対してレオは姉の任務を知り、誇らしく思う一方で、胸に一抹の不安が広がっていた。影武者とは危険を伴う仕事だ。姉が襲われるリスクを考えると、心臓がざわつく。

 

「ねぇ、お姉ちゃん……、影武者って危なくないの?王女様の代わりに狙われたり……、怪我をしたり……。もしお姉ちゃんに何かあったら、俺……」

 

 レオの声は震え、瞳に心配の色が浮かぶ。アリシアはそんな彼の純粋な思いやりに、胸が強く締め付けられるのを感じた。影武者の設定は嘘。本当の自分は王女アリシアだ。それなのにレオの心配は本物で、心を痛めていた。

 罪悪感が胸を刺すが、彼の純粋な思いやりがそれを優しく包みこんでくれるようだった。


「レオは本当に優しいね、ありがとう。心配してくれるの、嬉しいよ」


 アリシアは微笑みながら、レオの頭を優しく引き寄せた。彼の髪をかき上げると、額に軽くキスをする。偽りじゃない、ありったけの愛情を込めて……


(レオ……君のお陰で、私は本当の家族愛を知れたよ……)


 嘘の罪悪感に蓋をし、この嘘を本当にする決意を固める。唇を離し、暫くすると一瞬で彼の顔を赤くなり、慌てて始めた。


「お、お姉ちゃんっ!?え!今?何かやわらかいのが……」


 彼の動揺した様子が可愛らしく、アリシアはくすっと笑った。彼女は何事も無かったかのように穏やかに言葉を紡ぐ。


「少し危ない時もあるよ。でもお姉ちゃんは強いでしょ?心配しないで大丈夫だよ。レオが応援してくれるだけで、お姉ちゃんはもっと強くなれるよ。それに騎士団の仲間も守ってくれるからね」

 

 レオ顔を染めながらも少し安心ように頷いた。でも、それで満足は出来ない。


(お姉ちゃんの力になりたい……、お姉ちゃんを失いたくない……)


 頑張って危険な任務をしている姉を守りたい気持ちが湧き上がる。レオは拳を握りしめ、決意を込めて言った。

 

「うん、けど……俺もお姉ちゃんを守りたい!強くなって!お姉ちゃんが危なくないように!」


 レオの決意に満ちた声に、アリシアは嬉しくなった。偽りの関係だが、その中には確かに本物の絆がある。彼のお陰でどれほど自分が満たされるようになっただろうか……

 

「ふふ、ありがとう、レオ。お姉ちゃんもレオを守るからね。一緒に…ずっと……」


 レオは笑顔を見せて頷いた。だが、心配事はもう一つ残っている。

 

「うん!けど、外ではどうするの?お姉ちゃんと一緒にいられるの?」


 アリシアは抱擁を解き、優しく説明をする。影武者の嘘を活かし、準備をした設定を披露する。

 

「えぇ、表向きは、私に仕える騎士として扱うことなりそう。王女様を護衛する騎士みたいにね。だから外では姉弟として過ごせないけど、一緒に働けるよ。お姉ちゃんの側近としてね」


 レオの顔がぱっと明るくなる。姉と一緒に働けるなら、それ以上の幸福はない。


「それなら、お姉ちゃんと一緒に働けるって事?」

「そうだよ、表では姉弟として過ごせないけど、一緒に働けるよ。私がちゃんと推薦するからね」


 彼は興奮を抑えきれず、姉に抱きついた。自分が騎士として姉を支えることが出来る。

 

「わかった!お姉ちゃんと一緒にいられるなら俺頑張るよ!お姉ちゃんの護衛騎士になる!」


 アリシアは彼からの抱擁を優しく受け止め、背中を撫でる。でも少し申し訳なさを感じた。レオに嘘をつき、彼に目立つ役回りをさせてしまう……


「ありがとう、レオ。でも、レオが急に王女様に取り入った騎士のように見えて、周りから不審に思われるかも……、けど、私はレオと一緒にいたいから」


 レオは姉の言葉に胸が熱くなった。姉が自分を必要としてくれる。役に立てる。それが何より嬉しい。


「うん!俺も一緒にいたいよ!それに影武者をしてるお姉ちゃんを守りたいし、お姉ちゃんを手伝いたい!」

「ありがとう、レオ。ごめんね。お姉ちゃんのせいで変な役回りをさせちゃうけど……」


 レオは首を振り、力強く言った。


「そんなことないよ!お姉ちゃんと働けるのすごくうれし!!俺、お姉ちゃんの足を引っ張らないように頑張るから!」

「お姉ちゃんもレオと働けるの嬉しいよ」

 

 アリシアは彼が自分から離れないように願いながらレオをしっかりと抱きしめ、頬を寄せた。レオの温もりがが心を満たす。


「お姉ちゃん、2人きりの時はちゃんと姉弟として過ごせる?」


 アリシアは微笑み、離宮の設定を説明する。準備した空間で二人が一緒に過ごせるように。

 

「もちろん。離宮ではちゃんとプライベートな部屋を用意したから、誰もいない空間で2人っきりだよ。だからレオが満足するまで甘えてもいいよ」

 

 レオは赤くなり、恥ずかしそうに頬を染めたが、喜びが顔に広がる。姉に甘えられる時間があるなら、外での呼び方が変わっても我慢できる。

 

「うん、わかった。お姉ちゃんありがと……」


 アリシアはレオの頭を撫で、ぎゅっと愛を込めて抱きしめる。秘策が全てうまくいった瞬間だった。

 やがて、アリシアは抱擁を緩めて、レオに向き直る。


「じゃあ、レオ。お姉ちゃんの職場に行こうか。馬車で向かうよ」

「うん!わかった!」

 

 2人は宿を出て、外で待つ馬車に向かった。2人きりの車内で、レオは楽しそうに尋ねる。


「お姉ちゃんの部隊はどんな人たちなの?ちゃんと挨拶しないと!」


 アリシアは楽しそうに自分の騎士団を説明する。

 

「お姉ちゃんの部隊は雷鷹騎士団だよ。皆強い騎士たちだけど、優しい人ばかりだよ。きっと仲良くなれるよ」


 レオの目が輝く、姉の部隊に入る事が小さい頃の夢だった。

 

「カッコいい名前だね!楽しみだよ!一番はお姉ちゃんと一緒にいられるからだけど!ちゃんとお姉ちゃんの護衛するからね!」

「ふふ、頼もしいね。ありがとう、レオ」

「あっ、そう言えば本物のアリシア殿下にも挨拶するの? 王女様ってどんな人なの?」


 レオの質問に、アリシアは少し息を詰まらせた。動揺を隠し、影武者の設定が崩れないよう、自然に答える。

 

「……あぁ、王女様は今は離宮から離れているの。お姉ちゃんと王女様の顔は瓜二つでね。同じ場所にいないようにしてるよ。二人が同時にいたら皆が混乱しちゃうからね」

「そうなんだ!お姉ちゃんと瓜二つなら王女様もきっと良い人なのかな?」


 アリシアは彼の無邪気な言葉に胸が痛む。彼に本物の自分を知られない悲しみと、嘘をつく罪悪感がよぎるが、彼の笑顔がそれを吹き飛ばす。


「ふふ、そうかもね。王女様もきっとレオを気に入るよ」

 

 馬車が離宮に到着する。広大な門が開き、庭園と白い石造りの本館が奥に見えた。

 

「ここが、お姉ちゃんの職場?すごい……城みたい……」

 

 アリシアは頷き、レオの手を握って微笑みかける。

 

「そうだよ、レオ。ここで一緒に新しい生活を始めようね」


 家臣たちの視線が集まる中、馬車は本館へと近づく。騎士たちが一斉に頭を下げた。


「殿下おかえりなさいませ」

 

 馬車から降りるとレオは緊張し、アリシアの袖を握りしめた。多くの視線を浴び、体が硬くなる。アリシアは小声で囁いた。

 

「外では『殿下』ね。レオ、挨拶して」


 レオは深呼吸をし、声を張った。姉の前で、失敗する訳にはいかない。胸を張り、騎士として振る舞う。


「は、はじめまして……、レオ・グリムソードです。殿下に仕えます。宜しくお願いします!」


 シルビアとフィオナは少し驚いた様子で、互いに目配せをした。主君の『特別な騎士』がこんな少年だと思っていなかった。だが主君の命令通り、シルビアが代表して進み出る。

 

「ようこそ、レオ殿。私は騎兵第1中隊長シルビアだ。殿下に仕える者として、共に励もう」

「はい!宜しくお願いします!」


 レオは少し安心し、アリシアに微笑む。アリシアも彼に微笑み返し、本館へと足を進めた。青天の中、2人の物語は新しい章を迎えようとしている。離宮の庭園で、春の花々が優しく揺れ、二人の未来を祝福しているように輝いていた。


 第1章完

 

閲覧ありがとうございます!

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続き第2章は1週間ほどお待ち下さい

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