第14話 酔いしれて
凛川街の高級レストランで、二人は豪華な食事を楽しんでいた。食べ終えた皿は素早く片付けられ、代わりに新しい料理が運ばれてくる。
アリシアはフォークを優雅に動かしながら、レオの喜ぶ顔を眺めていた。彼は次々と目の前にくる美食に目を輝かせ、頬を緩ませている。
「お姉ちゃん、このスープも最高だよ!具に味が染み込んでいるし、スープの中にも肉が入ってる!」
レオの興奮した声が響き、アリシアはくすっと笑った。13歳の少年が、こんなにも無邪気に楽しむ姿は彼女の心を温かく満たす。
「ふふ、レオが喜んでくれると、お姉ちゃんも嬉しいよ。デザートも来るから楽しみにしててね」
彼女はそう言いながら、グラスに注がれた赤ワインを軽く傾ける。18歳になってから、時々酒を嗜むようになっていた。戦場での緊張を解すため、王宮の宴、ある時は側室の娘として感じる孤独な心を癒すためにも飲んだりもする。今日のように心地良い気分で飲むのは初めてだ。レオの笑顔が酒の味をより美味しくしている。
レオの視線が彼女のグラスに向けられる。彼は不思議そうに首を傾け、フォークを止めた。
「お姉ちゃん、お酒飲んでるの?えっ、いつから?」
アリシアはグラスを置いて頷く。レオの反応から、アリアは3年前、酒を飲んでなかった事を推測し、アリシアは自然に返答する。
「ふふ。最近だよ。お姉ちゃんも18歳だし、大人として少し飲むようになったの。レオも飲んでみたいの?」
彼の表情が好奇心でいっぱいになり、すぐに頷く。
「すごい!大人だね!俺も飲んでみたいよ!騎士になったんだから、俺も大人の味を知りたい!」
レオは飲酒の経験は無いが、姉が飲んでいる物を一緒に味わってみたくてたまらなかった。
だがアリシアの彼の年齢を思い浮かべる。13歳の彼の反応は愛おしいが、酒はまだ早い。
「レオは騎士になったけど、まだ13歳でしょ。お姉ちゃんも18歳になってから飲み始めたんだよ。せめてお姉ちゃんと同じくらいの身長になったらね。その時は二人で一緒に飲もう?」
レオは少し不満げに口を尖らせたが、すぐに目を輝かせる。姉との約束はとても楽しみだ。
「うん!約束だよ!お姉ちゃんより背が高くなったら、一緒に飲む!楽しみ!」
「そうだね。お姉ちゃんも楽しみにしてるよ。ちゃんと一番美味しいお酒を選んであげるからね」
アリシアはそう言いながら、心の中で思った。この関係が続くなら、その時もレオが自分を「アリア」ではないと気づかず、『お姉ちゃん』と呼んでくれたら良いと。
(もしも私の正体がバレたとしても、レオが側で今と同じ眼差しで私を見てくれたら良いな……)
酒のせいか、そんな願いが強く胸に湧く。
会話が弾むにつれ、アリシアは思ったより酒を飲んでしまっていた。頬が少し赤らみ、気分が軽くなる。レオの親愛に満ちた笑顔が、彼女の心を更に満たしていた。
「お姉ちゃん、顔赤いよ?大丈夫?」
「ふふ、少し飲んだだけだよ。ほらレオ、もっと食べて、この肉も美味しいでしょ。オルテリアの特産牛だよ」
二人は笑いながら食事を続ける。アリシアはレオの笑顔を肴に更にグラスを傾けていた。『家族』の存在を彼らを優しい温もりを与えている。
――――――
夕食を終え、二人は手をつなぎながら宿に向かった。街の灯りが運河を照らし、夜の賑わいが遠くに聞こえる。宿に着くと、昨日と同じように、役人が用意した部屋は別々だった。アリシアは先に宿に入り受付に指示をする。
「私の部屋に二人で泊まる。ベッドは一つのままで構わない」
アリシアは鍵を受け取ると、外に待機していたレオを呼び入れ、部屋へと向かう。部屋は昨夜より少し豪華で浴室も広い。風呂には柑橘も浮かび、爽やかな香りが広がっていた。
「お姉ちゃん、この宿もすごいね!昨日よりも広いよ!お風呂からいい匂いがするし!」
レオは部屋を見て目を輝かせると、アリシアは微笑みながら、彼を引き寄せる。酔いのおかげか、いつもより大胆な気分になっていた。
「そうだね、レオ。じゃあ、まずはお風呂で汗を流そうか。一緒に入ろう」
レオは頬を赤らめ、昨日と同じように緊張するが、姉と一緒の時間は嬉しい。
「う、うん。お姉ちゃん」
姉のほろ酔い気味の笑顔がいつもに増して魅力的で、少し目をそらしてしまうが、必死に動揺を隠す。
二人で脱衣所に入り、服を脱ぎ始める。酔っているせいかアリシアはレオの側で服を脱ぐのに躊躇いが無かった。
(ふふ、レオは可愛いな。一緒に風呂に入るのは嬉しそうだが、私から必死に目をそらそうとしてる)
アリシアは自分が脱ぎ始めてから、赤面して顔を背けてるレオを見て微笑んでしまう。彼の緊張が見え、明らかに口数も少なくなっていた。
「じゃあ、レオ。入ろう」
「う、うん。お姉ちゃん」
レオは姉に手を引かれて、浴室に向かう。酔ってる姉を見ると、昨日より艶っぽく感じた。目を合わせるのも少し恥ずかしい。
昨夜とは違う緊張感に包まれながら、レオは浴室へと足を踏み入れた。
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