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第13話 朝の温もり

 柔らかな朝の光が2人が寝ている部屋に差し込み始める。レオは目を覚ますと、柔らかなベッドの中で姉の腕に抱きしめられて寝ている事に気がついた。

 優しい温もりが体を包み、懐かしい香りが鼻をくすぐる。昔と同じように、姉の胸に顔を埋め、彼女の心音を感じながら眠っていた。でも、13歳になった今、姉に抱き締められて寝ているなんて少し恥ずかしい、他人に知られたらまた笑われるだろう、それでも……


(お姉ちゃんとこうして寝れるなんて夢みたい。他人には言えないけど、お姉ちゃんが受け入れてくれるなら、俺はもっと甘えたい。お姉ちゃんからのスキンシップも、他人に何を言われても、もう拒まない……)


 失ったはずの姉との時間、孤独だった3年間を取り戻すような幸福感に心が満たされる。ただ騎士になって再会したのに、こんなに甘えていて良いのかと疑問も生じた。


(このまま起きるか、けど、まだお姉ちゃんに包まれていたい……)


 葛藤していると、ふと視線を感じて目を開ける。姉が優しげな眼差しで自分の顔を見ていた。レオは自分が甘えたような雰囲気を出していた事に気づき、顔を赤らめ慌てて体を起こそうとするが、姉にぎゅっと抱き締められる。 


「おはよう、レオ。よく眠れた?」


 アリシアの声は優しく、彼女の蒼い瞳がレオを優しく見つめていた。レオは照れながら姉の胸に顔を埋めたまま答える。

 

「う、うん。お姉ちゃん……おはよう。ごめん、俺ちょっと甘えちゃった」


 アリシアは微笑みながら、彼の頭を撫でる。自分に抱き締められ、恥ずかしさと、嬉しさに満ちた顔を見ると可愛らしく感じ、心が溶ろけそうになった。


(レオの姉アリアが彼を可愛がった理由がわかるな)


 こんなにも純粋で素直な少年を守りたくなるのは当然だ。アリシアはレオを抱きしめ直し、耳元で囁く。


「レオもまだ眠いでしょ。もう少しお姉ちゃんと寝てようか?朝食が来るまで、お姉ちゃんもこうしていたいな。ね?」

「う、うん。お姉ちゃん……ありがと」


 レオは照れて赤くなりながらも、姉の腕の中で体を預ける。再び彼が眠りに落ちると、アリシアは彼の安心しきった寝顔を見て微笑んでいた。レオの呼吸を胸で感じ、くすぐったくもあり、心地よくもある。


「本当に、可愛い弟だな……」


 偽の姉であるが、本物の家族のように思えてくる。実際、アリシアにとって、本当の家族より、レオに対する愛情の方が何倍も強くなっていた。


「惜しいな……、もしも私が君の本当の姉で、君が本当に私の弟だったら、どれほど良かっただろうな……」


 最初は彼の心を傷つけない為に偽の姉をしていた。だがいつの間にか、自分にとってもレオの姉をしている事が大きな心の支えになっていた。彼から向けられる家族愛にアリシアの心は満たされているし、もっと浸りたくなる。


(レオが側にいると、家族から家族とは思われない自分の寂しさが癒される)


 産まれの母を幼い頃に亡くし、腹違いの兄弟姉妹からは除け者だった。レオに感じたような家族愛など、今まで感じたことはない。

 アリシアはレオから伝わる温もりを感じ、出来るだけ長くこの関係が続くことを願いつつ、瞼を閉じた。

 

 二人はそのまま暫くの間、穏やかな時間を過ごした。朝日が強まり、部屋が段々と明るくなる。更に時間が経つと部屋のベルが鳴った。アリシアはレオへの抱擁を解き、起き上がると、


「んっ……お姉ちゃん……」


 レオの名残り惜しそうな寝言が聞こえ、アリシアは口元が緩む。

 ドアを開けると、宿のスタッフが朝食を運んで来ていた。アリシアはそれをテーブルに並べさせると、レオを優しく起こす。


「レオ、起きて、朝食だよ」


 レオは目を擦りながら起き上がり、テーブルに並ぶパンや果物、温かいスープを見て目を輝かせた。


「お姉ちゃん、美味しそうだね」


 2人はテーブルに向かい合い、軽食を食べ始める。まともな朝食も久しぶりだった。アリシアはレオの食欲旺盛な様子に笑顔がこぼれる。


「レオ、たくさん食べて。早く体力を戻さないとね」

「うん!お姉ちゃん。あっ、今日はどこに行くの?王都まではどのくらい?」


 姉との旅を楽しみにしているレオにも笑顔が浮かんでいた。


「今日は、凛川街まで向かうよ。馬で移動するから、夕方には着くはずだよ。王都は明後日には着くかな?」

「お姉ちゃん、馬を用意してたんだ!」

「そうだよ、食べ終わったら着替えて外に出ようか」


 食事を終えると、2人で寝間着から外着に着替る。アリシアは鎧などの重量物を役人に命じて王都まで別に運ばせた。軽装での移動の方が負担が少ない。


 宿の外に出ると、役人が馬を2頭連れて待っていた。上等な鞍が付き、馬体も立派だ。役人はアリシアに本日用の地図を渡し、道筋を説明する。アリシアは頷くと役人は頭を下げて去っていく。

 

 一方、レオは姉の手際の良さに目を丸くしていた。


「お姉ちゃんすごいね!荷物も運ばれるし、馬も立派だよ!」

「まぁ、今の仕事の伝手で色々と出来るんだ」

「やっぱりお姉ちゃんは偉くなったんだ!」


 その言葉にアリシアは微笑みながらごまかす。王女の権威を使ってるのに、自分が努力して偉くなったように思われるのは少し居心地が悪かった。


「じゃあ、レオ。ちゃんと馬の扱いが上手くなったか見てあげるよ。お姉ちゃんについてこられるかな?」

「ちゃんと騎士になれたんだから大丈夫だよ!見てて、お姉ちゃん!」

「そうだったね。あっ、でも左肩に負担をかけたらダメだからね?」

「うん、わかった!」


 2人は馬に乗り、並んで出発した。アリシアは地図をときおり確認する。休憩場所や食事場所も記されていた。書き込みが多く、迷うことが無いように配慮がされており、安心して馬を進めることが出来た。


 途中、馬を疾走させたり、川や山の景色を眺めたり、まるで旅行のように二人は楽しむ。

 レオは姉との旅に心を躍らせた。アリシアも心から笑顔を見せるようになっている。もう姉を演じているのではない。自然に姉として振る舞うことが出来た。


「お姉ちゃん、風が気持ちいいね!景色も綺麗だよ!」

「あぁ……そうだね」

「お姉ちゃんと一緒だと楽しいし、最高だよ!」

「お姉ちゃんもレオと一緒にいると楽しいよ!」

 

 二人は馬を走らせ、笑い声を上げながら進んだ。昼前、少し大きめの村により、食堂で軽食を取った。役人が手配した替え馬も準備されており、馬を交換する。レオは再び姉の手際の良さを感じ、誇らしくなった


「やっぱり、俺のお姉ちゃんは世界一すごいよ!」

「ふふ、ありがとう。レオも最高の弟だよ」


 昼頃に二人は新しい馬で出発すると、夕方前にまた集落で馬を替える。

 そうして日が沈む前に運河近くの街、凛川街にたどり着いた。アリシアは城門に入る前にレオに前回の街と同じ指示をする。


「レオ、また目を閉じて、耳栓を付けておいて、お姉ちゃんが手続きするから手を離さないでね」

 

 レオは素直に従い、アリシアの手を握りしめる。蒼門街の役人が来ており、問題なく街に入ることが出来た。

 街の役人から地図を受け取り、少し進んだ所でレオの耳栓をとる。


「レオ、もう目を開けて大丈夫だよ」


 耳栓を外され、目を開けると、蒼門街よりも発展した街がそこにあった。市場には新鮮な魚介類も並んでおり、商人たちの活気も違う。運河には荷物を積んだ船が並んでおり、船乗りの動きも慌ただしい。


「お姉ちゃん!運河がみえる!船がいっぱい!」


 アリシアは微笑み、レオの興奮を優しく受け止める。凛川街はオルテリアの水運の要所で、人口も5万人を超えいた。


「そうだね。この街は王都に繋がる運河が通っているからね。明日は船に乗るよ」

「そうなんだ!楽しみ!」

「じゃあ、レオ。ご飯を食べに行こうか。美味しい所を予約してもらったから」


 二人は役人が手配したレストランに向かう。街一番の高級店が朝から王族をもてなすために準備をしていた。

 広い個室に大きなテーブル、最高級の食材を使い熟練の料理人が作る料理が運ばれてくる。手の込んだ肉料理から、魚料理、見たことのない果物で作られたデザートの数々。

 昨日よりも更に豪華な料理にレオの目が見開いた。


「お、お姉ちゃん!これどうしたの?奮発しすぎでしょ!」


 レオは姉の財布を心配して、口でそう言うが、既に口元からよだれが出ているし、料理から目を離せなくなっている。

 

「ふふ、そうかな?レオも成長期だからね。良い物を食べないといけないよ?」


 そう言われるとレオも早く姉の身長に追いつきたい思いがある。並んで鏡に写ると頭一つ分、姉よりまだ小さい。早く大きくなりたかった。


「ほら、料理冷めちゃうよ。お姉ちゃんはレオが元気に食べる姿が見たいな」

「う、うん、わかった」


 そうしてレオは食べ始めると、あまりの美味しさにフォークを動かす手が止まらない。


「お姉ちゃん!すごいよ!肉が口の中で溶けるよ!」

「そうでしょ、栄養満点なんだから、いっぱい食べてね」


 アリシアも微笑みながら、一緒に食べ始める。料理のランクは彼女が普段口にしている物と変わらないが、レオと一緒に食べると何倍も美味しく感じた。

 



 

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