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ーー遠い昔、過去の話なんだけど……俺会ったことがあるんだ。妖精にーー


「帰りなさい、少年。ここは君みたいな者が来るべきところじゃない」


俺がまだ幼稚園児だった年頃、夏休みに家族で森にピクニックへ出かけた時の話。


森で両親とはぐれてしまい、迷子になった俺に聞こえた最初のセリフがそれだった。


「誰?」


「私はネージュ。強いていうならば……妖精さ」


「よう……せい?」


「それと……お前達、この子供に手を出すな」


自身をネージュとか妖精とか名乗った青年は、何故か俺の背後を睨みつけ“何か”に圧をかけている。


すると後ろから奇妙な物音と不気味な気配を感じた俺は、幼児ということもありガタガタ震えていた。


「生意気ナ奴メ。ソイツヲ早クヨコセ」


「ほぅ、この私をエクトス・ティファレトにして色欲の妖精と知っての無礼ということか?」


「ナッ!?貴様マサカ……アノ兄弟ノ第六位カッ!?」


「消え去るがいい、邪神。今ならまだ見逃してやろう」


ネージュの正体を知った途端、ソイツらは甲高い悲鳴を上げながら消えていった。


「ふぅ、危なかった。それより、大丈夫か?少年。安心したまえッ!!私が助けにきたッ!!君を責任もって送り届けようッ!!」


「妖精さん、ありがとうッ!!僕は鳥川異丸トリカワ・イマルです」


「こら、ダメじゃないか少年。人ならざる者に名前をフルネームで名乗っては」


「何で?」


「支配されるからだ」


「しはい?」


この時まだ幼かった俺は、ネージュが言った“支配”の意味を知らなかった。


「難しすぎたか。そうだな、生きてるのに人形のようにされてしまうことだよ」


「うわっ、嫌だな」


「ならば気をつけることだ。いいか、どんなに相手が優しいヤツでも教えてはダメだ。わかったね?」


「うん、覚えた」


「よし、もうすぐ日が暮れる。少年、私が背負ってこう。背中に乗ってくれ」


この後幼い俺をおんぶしたネージュは、森を抜け街に着くなり俺をゆっくり降ろした。


すると母さんの声が聞こえ、俺を見つけ次第強く抱きついてきた。


「もう、みんなに心配かけてッ!!けど、アナタが無事でよかったッ!!」


「ごめんなさいッ!!お母さん」


ーーこれが、俺の人生で初めて会った最初の人外だったーー




「懐かし。にしても何であの日の記憶、今更夢に出てくんだ?」


久々に夢を見たからか、俺はいつもより朝早く目が覚めた。


アワリティアに誘われ、ここで過ごし始めてすでに今日で3日目になる。


ここでの暮らしは楽しいし、ツラいことも嫌なことも起きなかった。


なのに、何故か俺は違和感を感じてしまう。


まるでこの場所がドラネルに読み聞かせた絵本に登場する、『ヘンゼルとグレーテル』の“お菓子の家”みたいな気がして。




その頃、異丸が入院中の病室では大変な騒ぎになっていた。


「先生ッ!!意識レベルがッ!!」


「いったい、何がどうなってるんだッ!?」


「返してよッ!!私の子供を、返してッ!!」


「落ち着けッ!!後は医者に任せよ。な?」


病室にある異丸の身体は昏睡状態寸前になっており、医者や看護師が手を尽くしているというのに回復するどころか悪化する一方であった。


この絶望的な状況に彼の母は泣き崩れ、彼の父は妻を宥めるも何も出来ない自分への不甲斐なさに内心苛立っていた。


するとそこへある人物が現れ、医者と看護師に声をかけた。


「どうしたんだい?いったい何が起きた?」


「染井様ッ!?貴方のようなお方が何故ここにッ!?」


「話は後でね。それより、ジブンの問いに答えてくれ」


「実は3日前にこの病院へ搬送され入院中の少年の意識が、先ほどから何をしても戻らないのですッ!!」


「そうか……どれ、ジブンが看てみようか」


「お願いします」


医者と看護師に染井と呼ばれた青年は、ベッドに近寄り異丸の様態を観察する。


「そういうことか。辻先生、ここはジブンに任せてください。貴方の担当分野では難しい」


「しかし……わかりました、染井様を信じます」


「君のご理解及びご協力、感謝するよ」


「あの、先生。この方はいったい?」


先ほどまで泣き叫んでばかりだった母は、突然現れ医者に意見する謎の青年に困惑し訊ねてきた。


すると彼は母に対し柔和な笑みを浮かべ自己紹介をする。


「初めましてご婦人。ジブンは染井心羅ソメイ・シンラと申します。普段は万象救済教という寺院で教祖をしております」


「なッ!?“万象救済教”だってッ!?」


『万象救済教』とはここ近年勢力をつけてきた新興宗教で、メディアや週刊誌からは“カルト教団の類い”と書かれてることで有名な宗教団体だ。


そして彼こと染井心羅は、自身はそこの教祖だというのだ。


「お願いです、この子を助けてください……神様ッ!!」


「なッ!?正気かお前ッ!?」


土下座して彼に泣きながらすがる妻を見て、夫は慌てて止めようとする。


するとそんな二人を見た心羅は、微笑みながら彼女に手を差し伸べる。


「可哀想に、ジブンが救ってあげよう。実は知り合いで“この分野”に詳しい者がいてね。彼に協力してほしいと、今から連絡を入れてくるとしようか」


「あ、ありがとうございますッ!!」


「多少時間がかかると思うから、しばらくの間君らは休みをとりなさい。休むことも大事なことだよ」


「はい、ありがとうございます。教祖様」


「いい子だ。辻先生、ジブンは連絡したい相手が出来たので……今日はこれで失礼するよ」


「わかりました」


そう言うと心羅は病室を後にし、そこから離れた場所でガラケーを取り出すと“ある人物”を呼び出すために連絡する。


「久しぶりだね、兄さん。ちょっと、話したいことがあるんだけど……」




月が映えるほど深い闇の夜、静かな病棟の廊下を歩く誰かの靴の音が響いている。


そして靴の音が止まった先には、異丸の病室があった。


静かに戸を開けて病室に現れた侵入者に月明かりが差し込み、その者の姿が露となる。


肩甲骨まで伸ばされた美しく長い金髪と端正な顔立ちに映える茶色い瞳、上下紺色のスーツ姿という美青年だ。


「バニティーに呼び出されてきてみれば、こんな形で君と再会することになるなんて……」


そう、彼こそがかつて異丸を邪神の脅威から助け、街へと送り届けた妖精のネージュであった。


「バニティーの仮説は正しかったようだ。間違いない、彼は『夢幻支配』の影響をモロに受けてしまっている」


『夢幻支配』は彼の兄弟である十番目が所有する魔法もしくは特殊スキルのこと。


眠っているもしくは気絶している者の夢を、好きなように変えて支配できるという凶悪なチカラ。


この影響を受けてしまうと、自力で脱け出すことはかなり難しい。


「チャンスは今しかないッ!!やれるやれないかじゃないッ!!やるんだよッ!!私が彼を助けたいんだろッ!!」


一瞬躊躇った自身の頬を両手で叩き、声を出して鼓舞するネージュ。


そして異丸の手を握ると、ネージュは瞼を閉じて全神経を集中させる。


(必ずあるはずだッ!!入り口に当たる場所が……これかッ!?見つけたッ!!)


彼の夢になんとか侵入し、夢幻支配の結界を自身の魔力で破壊するネージュ。


そして結界が破られ影響から、夢幻支配の術者にダメージが跳ね返った。


「かはっ!!誰かが、僕の魔法を……破ったッ!?」


ダメージを受けて吐血した術者は、なんとあのドラネルだった。


ちょうど新しい絵本を取りに図書室へと向かって歩いてる最中に倒れたので、異丸は彼の部屋で待機しており傍にいなかった。


「この魔力……兄弟のッ!?それも、上位クラスのッ!?助けて……お母さん」


そう言いながらドラネルは、そのまま意識を失い倒れていった。

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