天の声さんが『やっちまえ』と仰るのでやっちゃいますね。
私には、気づいた時には味方がいた。
天の声さんだ。
天の声さんがいるから、私は生きていける。
だから天の声さんが『やっちまえ』と仰るなら。
私はやれることをやる。
私は幼い頃に母を亡くした。父は母の死を嘆くことはなく、すぐに継母と再婚した。
継母は最初は優しかったが、父との子供を妊娠すると私を邪魔者扱いした。
父も同じように、私を冷たく扱う。
やがて妹が生まれると、使用人たちも妹にばかり構うようになった。
そんなある日、ストレスからだろうか。
私はご飯を受け付けなくなり、徐々に痩せこけ、やがて意識を失った。
その時から、天の声が聞こえ始めたのだ。
『悪役令嬢がこんなに不遇だったなんて聞いてない!わ、私は、私だけは味方でいるから!』
そんな必死な声に、すごく励まされたのを覚えている。
その後私は、田舎に隠居している母方の祖父母に引き取られた。
大人が何か話し合っていたようだけれど、詳しくは知らない。
ただ…気付いたら祖父母から公爵家の娘として恥ずかしくない教育を受け、とても可愛がられることになった。
今までとの扱いの違いに戸惑ったけど、天の声さんは『なるほどね。大丈夫だよエリザベトちゃん!一緒に頑張ろうね』というのでそれを信頼してそのままそこで育った。
結果私は、美しく育った。見た目はもちろん、所作やら心までも美しいと言われる。
それは全部天の声さんのおかげ。
天の声さんが応援してくれるから教養を身につけるための厳しい教育にも耐えられた。
天の声さんが『優しくしてあげてね』というから使用人たちや平民たちに優しくできた。
天の声さんが毎日『今日も可愛いよ』と言ってくれるから、だからこそこの見た目が悪くならないよう気にかけることが出来た。
そんな私は使用人たちから可愛がられ、平民たちから慕われ、祖父母から愛されている。
そしてそんな私は、王太子殿下の婚約者に選ばれた。
ー…のだけど。
「お姉様ばっかり狡い狡い!どうして私じゃダメなの!?」
「そうは言われても…」
何故か遥か前に縁が切れたはずの妹らしき人物にダル絡みされている。
『うわぁ…ヒロインって姉が居ないところで育つとこうなるんだ…同一人物とは思えない…』
天の声さんも、言ってることはよくわからないが困惑している様子だ。
『まあ、意地悪な姉に虐められたりせずぬくぬくとあの両親の元で育てばそうなるのかなぁ…ドン引きー…』
なにやら天の声さんがドン引きしているので妹から早く離れたいのだが、さてどうするか。
「エリザベト、大丈夫?」
「王太子殿下」
「え、王太子殿下!あの、私」
「君には話しかけていない。エリザベト、行こう」
「はい、王太子殿下」
私は天の声さんのおかげで、王太子殿下とも良好だ。
天の声さんが逐一『シメオンはこれが好きだよね!』とお勧めのお土産を教えてくれるので、結果的にお茶会の席で話が盛り上がって仲良くなった。
だからある意味、本当に【狡い】のだとは思うのだが…。
「本当なら私の方が、王太子殿下に相応しいのに…」
妹はどうも、そんな私に憎悪を膨れ上がらせたらしい。
妹からの嫌がらせは噂話をあることないこと流されたりとか小動物の死体を送られたりとか割と面倒なことが多かったが、噂話は王太子殿下が否定してくれたし贈り物はそもそも私に届ける前に中身を確認されるようになった。
すると妹は今度は直接王太子殿下に無理矢理絡みに行くようになった。
私の悪口を直接吹き込んだらしい。
でも、王太子殿下は取り合わなかったようだ。
ところが妹は、その頃同時に聖女の力を発揮するようになった。
妹が聖女の力を発揮するようになると、さすがに教会が後ろ盾となったことで王太子殿下の対応も慎重になった。
はっきりと拒絶されないのをいいことにどんどん王太子殿下に近付いていく妹。
そしてしばらくすると、パーティーなどの公式な場でやれドレスを汚された、やれドレスを切り刻まれたなど私に虐められたと濡れ衣を着せてくるようになった。
いい加減うざいなぁと思い始めた頃、天の声さんが言った。
『これはもう埒が明かないわ。エリザベトちゃん、やっちまえ』
私は反撃に出ることにした。
といっても、特別なことをするわけではない。
教会に行って、聖女としての力を見せただけ。
聖者や聖女というのは、それぞれ神に愛され力を与えられた存在。
しかし我が国には神は複数存在するので、稀に姉妹で別々の神に愛され力を与えられることもあるのだ。
そして見事に聖女としての力を認められて、これで私も教会の後ろ盾を得た。
そうなると妹の扱いが教会内で持て余されることになった。
そして妹は聖女として【出家】することを勧められて、あの両親に育てられちゃんと教育を受けていない妹はそれを快諾して教会内に押し込められた。
問題が片付いた私は、特に何もなかったかのように前の生活に戻った。
元両親からは妹を返せとか絡まれたが、祖父母に相談したらそれもやがて無くなった。
こうして私は平穏を取り戻したのだ。
天の声さんの声はそれ以後も何度も私を助けてくれた。
結婚、出産、子育てなど、悩むことも多かったが天の声さんがヒントをくれたり、一緒に悩んでくれたので孤独ではなかった。
やがて私はおばあちゃんになったが、それでも天の声さんは時々助言をくれる。
だが、今日は違うらしい。
『エリザベトちゃん…エリザベトちゃんももうおばあちゃんだもんね…』
悲しげな声。
『いくらゲームとはいえ、エリザベトちゃんが小さな頃から見守ってきたから…ぐすっ』
ああ、私は今日…逝くのか。
『エリザベトちゃん、お疲れ様。ゆっくり休んでね』
…もしも、願いが叶うなら。
もう一度、今度は天の声さんのもっと近くで生きてみたいな、なんて。
神の国に行こうなんて、傲慢すぎるかな。
天の声さん。
私の神様。
一度でいいから、会ってみたかったな。
エリザベトちゃんの最期を見届けてからゲームを閉じる。
人気乙女ゲームの、別バージョンとして買ったのだがすごく当たりだった。
乙女ゲームより容量が重いから何かと思ったが、一生を見守れるなんて。
なんだか無性に感動してしまう。
「エリザベトちゃんは…幸せにしてあげられたかな…」
お腹をさする。
今私はお腹に子供がいる。
夫のおかげで妊娠期間とはいえこんなゆったりと過ごせるので、夫には感謝だ。
「お腹の赤ちゃんにも、こんな風に愛情が湧くのかな」
実は、今はまだお腹に赤ちゃんがいること自体ピンと来てないけど。
「大事にしてあげたいな」
お腹を撫でる。
なんとなく、ついさっきまでやっていたゲームが頭をよぎる。
幸せにしてあげたいな、と思った。
ということで如何でしたでしょうか。
天の声さん大活躍でしたね。
エリザベトちゃんは天の声さんがいたから孤独にならず幸せになれましたが、ヒロインは逆にダメダメになってしまいましたね。
少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
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