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新しく出来た癖に気付くのも相当だよ

作者: 桃井夏流

初めて書いた現代物を少し修正していました。

 私、朝倉寧々には頭良し、性格良し、顔良しのパーフェクトな彼氏様が居る。


 私が三ヶ月拝み倒してようやく頷いて貰った、多分まだ半ば片想いの彼氏様なのである。

 そんな彼氏様が私に初めてしたお願いが、一緒の大学に通いたいだったのだ。これが舞い上がらずに居られますか?否!私はとても舞い上がっている。平々凡々な頭の私が日々参考書と睨み合い、毎日毎日机の上で勉強。たい焼きくんなら既に泳ぎだしているところだろう。だがしかし。私の愛は重たいので、今日も痛む頭を抱えながら勉強しているのである。


「寧々、そんな癖、あった?」

「……ん?何?」

「その頭押さえてるの。どうした?最近よくしてる」


頭が痛むのだと言えば、優しい政露くんは心配してくれるだろう。今日は勉強を止めようと言うかもしれない。でも私だけでは進まないところがある。政露くんと一緒に勉強したいのだ。


「政露くんはそんなに私の事見てくれてるのね!寧々は嬉しい!」

「はいはい、そうだね、寧々は俺が好きだからね」

「うん!私は政露くんが好きだよ」

「で、どうしたの?」

「ここ、分かんない」

「そうじゃないんだけど…どこ」


あぁ、ここは、と言いながらさらさらと私のノートに書き込まれる字の綺麗なこと。私の彼氏様は字まで素敵なのだ!


「政露くんは字まで私に刺さる」

「ぷっ、何、刺さるって。楽しいね、寧々は」


政露くんが私の頭を撫でてくれる。此処は放課後の図書室で、あまり人も居ない。私は頭痛も酷い事だし、と自分に言い訳をしながら政露くんの袖を引いた。


「どうした?」

「えっとね、ちょっとだけ、いちゃいちゃしたい」

「…………此処で?」

「ちょっとだけ。だめ?」

「……寧々の言う、いちゃいちゃの定義って何?」

「うんと、その…手を、繋いだり。ごめん、やっぱりいい。こんなとこじゃ政露くん恥ずかしいもんね」


嫌がられる前に引いた。私は自信が無い。政露くんに好かれている自信が、あんまり無い。だって、三ヶ月分のごめんなさいが私に残ってる。調子にのるなよって言ってる。


「今日はもう帰ろう。ごめんね」

「………いいけど、帰るなら一緒に帰ろうよ」

「今日は、やめとく。バチなのだ」

「え。何バチって」

「政露くんはなんも悪くないよ。私のワガママへのバチだから。また明日ね!」

「ちょっと寧々」


好きだよ。って口の中で呟いて、バイバイする。

あんまりしつこくしたら嫌われちゃう。私は三ヶ月もしつこくしたから、本当は、今更じゃんね。



頭、いたい、なぁ。




翌朝起きても、頭は痛いままだった。なんなら酷くなっていってる気がする。


私はとりあえず家にあった常備薬の中から頭痛の薬を飲んで学校に向かう。



「おはよねねち!どうした?顔色悪いよ?」

「はよ、るりち。ちょっと頭痛が酷くてね」

「え、大丈夫?保健室行く?」

「授業あるから頑張るー」

「ねねちの献身は拍手ものだねー。私なら速攻諦めてる」

「諦められるなら三ヶ月前に諦めてるよ」

「あ、ねねち、旦那」

「何その素敵な響き。でもこの顔は見せられぬ。私ちょっと先に行く!」

「え!?ちょっとちょっと」


るりちを置いて走り出す。政露くんは優しいから、私が頭が痛いと言えばきっと諦めてしまう。

一緒の高校行くなんて夢みたいな事、諦めてほしくない。



走ったら余計に頭が痛む。


あぁ、もう、限界なのかな。


私、これ以上頑張れないのかな。


嫌だな。頑張りたいな。諦めたくないよ。



政露くんと同じ夢を持っていたいよ。



「寧々!!」


政露くんがうずくまっていた私の顔を覗き込む。


「大丈夫か!?」


心配そうな政露くんの顔に、涙が勝手に溢れた。


「痛むのか?笹原から聞いた、頭痛いんだろ?保健室行こう?」


「やだ…諦めたくない」


「…何を?とりあえず保健室……」


「政露くんがせっかく、言ってくれた、たった一つの恋の形だもん。やだ、行かない、教室行く」


頭が痛くて、何か余計な事まで喋っちゃった気がする。政露くんがびっくりしてる。


私が立ち上がろうとすると、政露くんが私を抱え上げた。お姫様抱っこである。政露くんは体力もある。


じゃない!



「政露くん、下ろして。皆見てるよ」

「いいよ見させておけば」

「でも」

「寧々より大事な事じゃないだろ」


政露くんは、私を大事にしてくれてる。だから怒ってる、分かる。けど、怖いと思う私が居る。


「嫌いにならないで」

「ならないよ」

「ごめんなさい、頑張れなくて」

「寧々は頑張ってただろう。そんな事言うなよ」

「だって」

「今は、ちょっといちゃいちゃする時間だよ。良い子にしてて」


私の政露くんは、格好良すぎるのではないか。心臓がきゅんと死にしてしまう。




「緊張型頭痛かもしれないね」

「緊張型頭痛…?」

「同じ姿勢を取り続けたりしなかった?デスクワークの人とかがよく悩まされる頭痛なんだけど…ストレスが原因の場合もある」

「ストレス……」

「違うよ?政露くんのせいじゃないよ、そんなんじゃない!」

「まぁ青春は他所でやってな?此処では静かに」

「…すみません」

「とりあえず病院行って診てもらうのが一番だな。顔色も悪い。親御さん御在宅か?」

「………お母さんなら居ると思います」

「了解。電話かけてくるから大人しく寝ておきなさい」

「よろしくお願いします先生」

「ふはっ、よく出来た旦那だな、朝倉。信濃、朝倉を任せて良いか、悪い事はするなよ?」

「しませんよ」

「悪い悪い、じゃ、行ってくるわ」



扉が閉まると、政露くんはベッドの隣の椅子に座った。


「…ごめんね、授業」

「謝りすぎ。気にしてないよ。そんなことは」


ふぅっと政露くんが深く息を吐いた。


「心配した。最近の癖は頭痛のせいだったんだな、気付けなくて悪かった」

「そんな…私が黙ってただけで、政露くんは悪くないよ」

「言い出せなかった原因を作ったのは俺だから。ねぇ寧々。嫌いになんかならないよ、なんでそう思ったの?」


それは私が自信が無いからだ。だけどそれを政露くんに言うのはどうなんだろう。違う気がする。


「聞かせて寧々。一人で抱えないで。寂しいよ」


ズルいなぁ。そんな言い方されたら、黙っててあげられないよ。


「…私の方が、ずっと、ずっと、政露くんを好きだから」

「…なんでわかるの?」

「だって私、三ヶ月もふられた」

「あれか…あれは、違うよ。俺が素直になれなかっただけで。俺は割と最初から寧々の事可愛いと思ってたし」

「…うそだ」


可愛いなんて滅多に聞いた事ないもん。

私が弱ってるから優しい政露くんはそんな嘘吐くんだ。


「本当。俺、姉が居るんだ。その姉がその頃ふられたばっかりで。毎日めそめそしてるから、そう言うの嫌だなって思って。正直女性自体が苦手になってたんだ」

「……なのに私、三ヶ月もしつこくしたよ」

「うん、最初は確かに他の女の子と同じで、ごめんなさいだけだったんだけど。でも毎日寧々がめげずに好きって言いに来るから、可愛いなって思うようになった。これは本当だから」


「でも」


政露くんが私の頭を労る様に撫でてくれる。


「無理をして欲しかった訳じゃない。同じ大学に通えなくても、別れたりしないよ」


また私の目から涙が溢れる。布団で顔を隠すと、清潔なシーツの香りに、また胸がぎゅっとした。


「頑張る寧々も好きだけど、自分に優しく出来る寧々は、きっともっと好きだよ。早く言えなくてごめんね」


「う、うぅぅ〜、かっこいいぃ〜」


「それは良かった。寧々の自慢の彼氏で居たいからね」


「私だって、自慢の彼女になりたいもん…!」


「もう自慢の彼女だよ。でも寧々の可愛いところは俺だけが知ってれば良いなとも思う」


「殺される!」


「失礼な」



きっと政露くんはもう私に諦めて欲しいと思っている。心配症なのだ。でも、私は諦めが悪い方なので。とても悪い方なので、ギリギリまで、頑張ってみようと思う。




「おはよう寧々」

「おはよう政露くん」



私は彼から貰った初めての恋の形を、叶えてみせたのだ。正直かなり危なかったから、今も毎日必死なんだけど、政露くんのおかげでなんとか乗り越えている。



「行こうか」

「うん!」



こうして手を繋いで、また何か起きたら、乗り越えて行くんだ。



現代物は、難しいですね。ちょっと良いなと思っていただけたら幸いです。

いつも読んで下さってありがとうございます。

タイトルは政露くんの寧々への三ヶ月分の告白へのお返事です。

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