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2話…桜達の逃亡。

《ガラッ!》


パンドラ「はあ……はあ……!」


桜姫「……?あらあら、桜貴。どうしたの?そんなに息を切らして……顔を真っ青にさせて。

何かあったの?」


パンドラ「姉、さん……」


俺は、姉さんの手を取り、こう言った。


パンドラ「姉さん。今すぐ、ここから逃げ出そう。」


桜姫「逃げ出す?どうして?」


姉さんは、事態の急さ、悪さに気づかず、いつも通りのおっとりした口調で……優しい口調で、俺にそう尋ねる。


パンドラ「あいつらは……父様達は、俺ではなく、姉さんを売り飛ばそうとしているんだ!」


桜姫「私を?まさか。お父様達がそんなこと、するわけないわ。」


パンドラ「姉さん!俺が、嘘を吐いているように見えるか?」


桜姫「………」


パンドラ「姉さん……わかってくれ……。本当に、本当なんだ……。

あいつらが、俺を虐げるのなら……俺を追い出すのなら、俺を売るのなら、黙ってた……。

でも、その対象が姉さんなら、話は別なんだ……。

俺は、姉さんが売り飛ばされるなんて……そんなの、そんなの耐えられない……。

姉さんは、俺の唯一の希望なんだ……だから、俺の話を、信じてくれ……。」


桜姫「……本当、なのね……」


パンドラ「姉さ……。……!!」


姉さんが、やっと俺の話を信じてくれた。これで、ここから逃げ出せる。

……そう思って、顔を上げた時。


見たくなかった。

姉さんの、そんな表情(かお)


姉さんは、さっき俺が顔を真っ青にさせて入ってきたと言ったが、それにも負けない程、姉さんも顔を真っ青にさせていた。

そして何より……


深く、絶望していた。


それもそうだろう。

姉さんは、信じていたんだ。あんな奴らを。


俺からすれば、あんな奴らでも、姉さんからすれば、大好きな両親だった。

なのに、そんな両親から裏切られたのだ。

絶望もするだろう。


いや……そんな、俺が推し量れる程のものじゃない。

その絶望は……想像を絶するものの筈だ。


桜姫「私……どうしたら……」


パンドラ「姉さん……。

……大丈夫。俺が、姉さんを守るから……。

だから、ここから逃げ出そう。」


桜姫「桜貴……本、当……?」


パンドラ「本当さ。俺は、姉さんを守る為なら……どんなことだってする。

たとえ悪に染まろうとも……姉さんを、守り抜いて見せる。

だから……俺を信じて、俺の手を取って……ここから、逃げ出そう。」


桜姫「……ありがとう……!」


姉さんは、泣きながら俺の胸に飛び込んだ。

大きな声で枚たらバレると、姉さんもわかっているのだろう。

だから、姉さんは声を押し殺しながら泣いた。

それを俺は、ただ黙って、背を撫でることしか出来なかった。


どんな言葉も、今じゃただの気休めにしかならない。

それなら、黙っているしかない。


子供の俺らが、上手く逃げ出せるかもわからない。

逃げ出せても、その後ちゃんと生活していけるかもわからない。

全てが、未知の領域だ。


だが……それでも、諦めるわけにはいかない。

俺だけのことなら、諦めている。

でもこれは、俺だけのことじゃない。俺の大事な……唯一の希望である姉さんのことなんだ。

だから……諦めるわけにはいかない。


どんなことをしてでも、絶対に、姉さんを逃さなきゃいけない。

たとえそれで、俺が命を落としたとしても。

たとえそれで、俺が悪に染まったとしても。


絶対に姉さんを、救ってみせる。


___________________________________


深夜。

誰もが寝静まった頃。

俺らはついに、行動に出た。


姉さんは女子だから、逃げ出すにしても荷物がいる筈だが

あまり荷物を持って行くと、逃げ出すのに手間取ると理解していたのだろう。

姉さんは荷物を殆ど持たず、出て行くと決心した。


俺はそれを心配したが、姉さんは大丈夫とだけ言って、俺を納得させた。


誰もが寝静まっていると言っても、表玄関や裏口から出るのは、危険な気がした。

私の直感だ。

きっと、どちらにも門番なる者が配置されていることだろう。

あいつらのことだ。それくらいの用心深さは、持っている筈。


だから俺達は、縄を使い塀から逃げ出すことにした。

幸い、塀もそんなに高くはなく、この身軽さなら問題はないと判断した。


まずは縄を塀の傍の木に括り付け、木に登る。

そこから塀に飛び移り、まずは俺が塀から外側に飛び降りる。

流石に姉さんに飛び降りさせるわけにはいかないので、俺が足場となり普通に降り立たせる。


……無事、外側に出ることに成功。

あとはここから、何処に向かうかだが……

とりあえず、西側に向かうことにした。

何となくだが……そちらに向かった方がいい気がした。これも、私の直感だ。


頼れる者はいない。

これからは、俺達だけで生きていかなければならない。


仕事はどうしようか。

仕事をしなければ、金は手に入らない。金が手に入らなければ、食うにも困ってしまう。


……まあ、兎に角今は追手が来ないうちに、西側へと向かい、適当に旅をするしかないか。

金はある程度、盗んできたしな。


パンドラ「姉さん、大丈夫か?眠くない?足は痛くない?」


桜姫「大丈夫ですよ。

それに眠くても、船に乗ってしまえばその間に、少しは眠れるでしょう?

桜貴も、船に乗ったら少しは寝るのですよ。」


パンドラ「わかったよ。

さあ、急ごう。追手が来ないうちに。

……あいつらに、気づかれないうちに。」


桜姫「ええ……」


姉さんは、昼間は俺の話を信じ、絶望し泣いたものだが、矢張り信じきれないのだろう。

時間が経った今では、半信半疑のような表情をしていた。


だが、俺は今まで姉さんに嘘を吐いたことはないし、姉さんも俺が姉さんに嘘を吐く理由がないことも知っている。

だから、ついてきてくれた。


俺はそれに応える為に、これから姉さんを守っていかなければならない。

あの日……産まれた時。両親である筈のあいつらにさえ、要らない命だと蔑まれた俺を、唯一優しく、愛おしそうに抱き上げてくれた姉さん。

その時誓ったように、これからは俺が、姉さんを守っていくんだ。


やっとその誓いが、果たされようとしている。

いや、こんな状況になって果たされるなど、本当にクソでしかないが、それでも……

やっと俺でも、姉さんを助けられる。

こんな私でも、誰かを守れる。愛しい人を守れる。


それに誇らしさを覚え、俺はさらに誓った。

必ず姉さんを、守り抜いて見せると。


パンドラ「……姉さん。1つ聞いていい?」


桜姫「なぁに?」


パンドラ「姉さんは……何で、俺を愛してくれたんだ?」


桜姫「何で、って……」


パンドラ「あいつらは……親なのに、俺を要らないと言っていた。愛していないのは、明白だった。

なのに、何で姉さんは……俺を愛してくれたんだ?」


桜姫「……そんなの、簡単ですよ。」


姉さんの手を引き、暗い夜道を辿りながら、俺はそんな質問を投げかけた。

姉さんは、優しい声色で、こう答えた。


桜姫「貴方が、私の初めての弟であり、愛すべき家族だったからですよ。」


月明かりしかなかったから、あまりよく見えなかったが、その時の姉さんの表情は、優しく、慈しみに満ち溢れていたが、どこか哀しそうに、笑っていた。

どうして……哀しさが混じっているのか、俺にはわからなかった。


桜姫「それに、桜貴は嘘を吐かないですし、あの人達のように……裏切ったりしませんからね。」


姉さんも、今まであいつらのことをちゃんと『お父様』『お母様』と呼んでいたが、裏切られてから、『あの人達』と赤の他人のように呼ぶようになった。


姉さんをそれほどまで歪ませるくらい……あいつらは、本当に醜い人間だった。

たとえ売られる運命がなく、姉さんがあのままあの家に入られても

あいつらがあんな醜い人間のままであったら、姉さんは苦労していたかもしれない。


そう考えたら、逃げ出す選択をしてよかったと思えた。


パンドラ「……そうか。」


俺は、そう返すのがやっとだった。

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