0話…プロローグ。
……嗚呼、私は一体誰だっただろうか。
最近……いや、割ともう昔から、よくわからなくなる。
あの建物と共に、私は……【俺】は死んだ。
ここにいる私は、今の私は、ただの未練がましい亡霊でしかない。
故に私は、数多の思念を自らに取り込み、新しい自分を作り上げた。
もしかしたらそれは、一種の自己防衛からかもしれないが……それももう、よくわからない。
過去、姉さんを連れ逃げ出したあの日の私は、【俺】はもう死んだ。
それを姉さんが知ってしまえば、哀しむだろうか。……哀しむな。
姉さんが哀しむところは見たくない。だから私は、何でもないふりをする。その作業にも、もう慣れた。
自分自身を騙すのにすら、もう慣れたことなのだ。
……普通の人からしたら、それは哀しいことなのだそうだが、どこが哀しいのか、私にはわからない。
はは、私にはわからないことだらけだな。
まあ、それも仕方ないだおう…。こんな人生を辿れば、誰だってそうなる。
私の人生は、一体何だったのだろうな。
産まれ落ちたと思えば、必要のない命だと虐げられ
私の命よりも大事な姉が売られそうになり、それを阻止する為に一緒に逃げ出し
その責任感と罪悪感から。人殺しや人体実験を受け
師匠に引き取られ、身売りと共に邪魔者を消していき
私にいちゃもんをつけながらも、戦闘のことを指南してくれた、もしかしたら友とも呼べたかもしれない者が出来
だけどそんな幸せな時も長くは続かず、その友が私の為に死に
後ろ盾が少なくなり、師匠の元を離れ放浪の旅に出たが、その師匠がいた屋敷も燃やされ、師匠達も死んでしまい……
私に遺されたのは、姉1人だった。
姉さんさえいてくれれば、それでいいと思っていた。
だけど……
私は、心のどこかで、彼らを愛してしまっていたのかもしれない。
だからこそ、彼らを亡くして、こんなに虚しくなったのかもしれない。
……もし、もしも願いが叶うのならば
姉さんがいて。師匠の鬼子母神がいて。私をライバルだといちゃもんをつける輝夜姫がいて。
そしてイノセントイーヴルの皆がいた、あの時に、あの頃に、戻れないだろうか__。
パンドラ「……?」
と、私の掌に、雫が零れた。
雨が降り始めたのだろうか。
そう思った私の目に映った、窓に反射した自分の顔。
それに私は、驚いた。
何と私は、泣いていた。
はは、こんなの久しぶりだな…。だが、何故泣いているのだろうか。
……わからない。わからないよ。
誰か、教えてくれ。
これは、どういう感情なんだ…?