第6話 シナリオの終焉とその先の未来
『私ですか?そうですね、失礼したようです。私はレムネフィア……あなたたちが魔王と呼ぶ存在です』
その言葉が響くと、惨事に慌ただしくなっていた玉座の間が一瞬で静かになりました。
崩れ落ちた天上から覗く空はなんと真黒に染まっています……。
「なっなっなっ……」
「にっ、にげろ!?」
「どけ!」
「死にたくない……」
そしてこの場に生き残った皆が理解したのか、全員が出入り口に向かって逃げ出しました。
王子様、聖女様の安否を気にしているものが誰もいません……いえ、騎士団の一部は違いますね。
魔王を警戒しながら救助を開始していますが、一旦逃げさせた方がよさそうです。
ラザゼル侯爵の長男である騎士団長だけは全力で逃げ去ったようですが。
「まさか聖女サマの結婚式に来て、魔王と遭遇するとはな……」
そして、皆さまお待ちかね……ようやく私たちの出番ですね。
まずは、天井の崩壊などいともたやすく回避しながら周辺にいた交友のある貴族たちを救った彼……クラウス・ルーデガルド辺境伯です。
両手にそれぞれ大剣を持って、悠然と歩いています。
……少し悔しいことにカッコいいですわ。
「そうですね。こんなシナリオだったとは知りませんでしたので、私も驚いています」
そして、私……フィアナ・オルベールです。
優雅に悠然と歩み出たつもりですが、少しは絵になりましたでしょうか?
ゲームのシナリオは最後、結婚式が始まる前に終わってしまうのですよね。
エンディングでは結婚式の冒頭場面や、別の場所で私がダンジョンに籠っている姿、魔王が進軍している姿などが描かれるものの、無事結婚できましためでたしめでたしで終わってしまうのです。
それは何を意味するのかずっと考えていましたが、今のこの状況からするとシナリオの強制力はなくなったのでしょう。
結果として……え~と、王子様と聖女は死んでしまったのでしょうか?
あっ、あそこで騎士たちが助け出しているのは国王陛下ですね。
少しホッとしました。
ちなみに、お父様とお母様は欠席です。
『ほう、これはこれはなかなか戦えそうなものもいるではないか。来たかいがあったよ』
魔王は手の指を組んでゴキゴキ鳴らしながらゆっくりと歩いて近寄ってきます。
「フィアナ、戦いながら様子を見るぞ!」
辺境伯はそう言いながら剣を構えて走り出します。
「プロテクト、クイック、ブースト!」
私は辺境伯と自分に支援魔法をかけます。正攻法で戦うと見せかけるのです……
『ふん、ちょろちょろと小賢しい……ダークフォール!!!』
ひっかかりました。
魔王も様子見でしょうが、なかなか強力な魔法を唱えてきました。中空に表れた真黒い魔力の玉が辺境伯と私に向かってきますので、私は最近覚えた魔法を合わせます。
「リバースリフレクト!!!」
『なに!?ぐぁっ』
私が唱えた魔法は属性を反転させて打ち返す魔法です。
以前から研究してきた古代魔法ですが、ようやく覚えたのです。
その魔法は魔王が放った真黒い魔力の玉を、純白の魔力の玉に変えて跳ね返します。
聖属性に変換した攻撃は魔王を吹っ飛ばしました。大ダメージです。
『反転反射だと?人間風情が』
そう言って起き上がりながら自らを回復させているようです。
『では、これならどうだ! ディメンションウェーブ!!!』
次に放ってきたのはより強力な無属性の魔法でした。
ですが、関係ありません。
無属性は無属性で跳ね返るだけです。
「リバースリフレクト!」
『なにぉおおぉぉおおお!!!』
再び吹っ飛んでいく魔王。そこへ……
「セイクリッドスラッシュ!」
『ぐぅ……』
「セイントストライク!!」
『ぎゃぁ!!!』
辺境伯が飛び込んで手にした2本の大剣でそれぞれ聖属性の斬撃を繰り出し、なんと魔王の左腕を切り落としました。
『貴様ら、許さんぞ!!!?』
その瞬間、魔王から凄まじい魔力が放たれます。
これは不味いですね。
衝撃で辺境伯は距離を取られてしまいました。
狙いは……えぇ、私ですね。であれば、次の魔法はこれです。
『ダークエクリプス!!!』
「ヴォイドステップ」
魔王が唱えたそれは空間内で逃げ場をなくし、その空間を闇の魔力で破壊し尽くすという、凄まじく強力な魔法でした。
もし喰らっていれば、ですが……
私は別次元に一瞬退避して躱します。
そしてカウンターで聖属性魔法を……
<ふむ。手を貸してやろうかのぅ……人の子よ>
えっ?
「チャンスだ!合わせろフィアナ!!」
「あっ……はい」
<唱えよ。ホーリージャッジメントと……>
どなたかはわかりますが、わかりたくないですが、私の勘違いであってほしいですが、それは聖属性の極大魔法ではなかったでしょうか?
「うぉおぉぉおおお!ホーリークロス!!!」
「行きます!ホーリージャッジメント!!!」
『な……』
そして私たちの聖属性の攻撃によって、魔王は小さい呟きだけを残して消えていきました……。
空はうって変わって澄み切ったきれいな青色に輝いています。
「うっ……」
「陛下!!」
きれいな空を眺めていると、国王陛下が目を覚ましました。
落下してきた天井の真下にいたのですが、騎士たちが守ったようです。
「陛下、助けが遅れたこと、謝罪いたしますわ」
「フィアナ・オルベールか……まさか魔王を倒すとは……しかも、その翼は……聖女だったのか……」
言われて初めて気がつきましたが、私の背には白いきれいな翼が……あっ、消えていきますね。
<普段出しておく必要はない。必要になったら使え>
またあの声が響きます。
まるで楽器のような美しい音色ですが……周囲の反応を見ている限り、みんな聞こえていますね。
「戦っているときにも聞こえたな……聖女だったのか、フィアナ?」
辺境伯まで……。
「たとえそうだとしても、私は私です。なにか変わりますか?」
もしこれでみんなに跪かれたりしたらそれは寂しい気がします。私は辺境伯と一緒にダンジョンに向かうのが楽しいのですから。
どう考えても強くなったのでこれでさらに下に潜れるはずです……。
「ヴィクトールも聖女も死んでしまったようだ……」
国王陛下の声は悲痛です。
申し訳ないことにあの王子と聖女が死んだと聞いてもあまり感慨はないのですが……というか、王子は学院の授業をさぼっていたのでしょうか?多少なりとも魔法の素養はあったのですから天井崩落くらい防げそうなものですが……。まぁ、今さらの話ですね。きっとサボって誰かとの逢瀬を楽しんでいたのでしょう。
「なので、余は王位継承者に王位を譲る……」
なにがなのでなのでしょうか。全くつながりませんし、この流れはまずい気がするのです。
なぜかというと、私の母は国王陛下の従兄妹……つまり、低いながら私にも王位継承権があるのです。
そして、継承権を持つものの中で誰を選ぶかは現国王次第なのです……。
「わかりました。私は辺境伯と一緒にダンジョン攻略をしながら新たな国王さまに貢献したいと思います。では、失礼を……」
強引に辺境伯の手を取って去ろうとしましたが……
「待つのじゃ。次の国王はそなただ。王妃としての教育も受けているし、仕事ぶりも完ぺきだった。まったく心配がない。それに聖女であり、魔王を倒したのだ。これ以上のものはいない」
ダメでした……泣きそうです。私の憧れのダンジョン攻略の日々が遠のいていきます。
「うむ。よかったな、フィアナ……いや、フィアナ次期女王様。では、俺はこれで。今後はダンジョン攻略でフィアナ様に貢献したいと思います。では、失礼を……」
「待ちなさい」
聞き覚えのある言い回しで1人だけ逃げようとしたクラウス様の頭をがっちりと掴んだ私から逃げれると思っているのですか?
「陛下。私はこの方と一緒にダン……」
「ふむ、すでに王配も決めておるか。めでたいのぅ。今回の事件はまことにむごいことで残念なことであったが、次代を担う聖なる女王と王配が誕生したのじゃ。今は祝おうではないか」
崩れ落ちる私と辺境伯……。
聖女の力で歴史をさかのぼって次の国王を現国王が決められるとかいう前例を作った方を殴り飛ばしてきたいです。
「よいではないか。辺境伯には政務を行う魔法契約を交わした相手があることだし、権威も権力も戦力も最上級なのだから、自由にやればよい。皆支えるだろうしのう」
そうして私は凛々しい辺境伯改め王配クラウス様と一緒に、国民に愛され、たまに神様と会話したりダンジョンを攻略をしたり子どもたちを前国王や両親に見せたりながら、忙しく、楽しい生活を送りました。
読んでいただいてありがとうございます!
皆様!ぜひブックマークに追加、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価(☆を★にしてもらえたら泣いて喜びます。面白くなければ1つ、面白ければ5つ)等、応援よろしくお願いいたします。