第2話 発覚してしまった嘘
ただ、そう簡単に上手くは行かないのかもしれません。
ようやく迎えた茶番劇を早く終われと眺めていたら、頭を押さえながら国王陛下が立ち上がりが口を挟まれました。
「待て。お前の婚約は国王として余が定めたものだ。貴族のバランスを考えてな。そのためフィアナには王妃教育を授けていたのだ」
国王陛下は先を考えられる人で、この発言もバカなことを言いだした王子を諭すような口調でされていますが、腸が煮えくり返っていらっしゃることでしょう。
「父上。それはあくまで平時のことです。今は魔王の脅威が忍びよってきているのです。この闇を照らす光となるための決意を感じて頂きたい」
国王陛下に対して不躾な視線を向けながら言葉だけはとても立派なことを王子が言い放ちます。これまで好き勝手やってきた方なので言葉の信頼感は全くありませんし、魔王の脅威など感じているとは思えません。
見てください、周囲の貴族たちのしらけ切った様子を。『きゃ~ヴィクトール様~』なんて壇上ではしゃいでいる聖女様は視界からも記憶からも消しておきます。
「しかし、王国は続くのだ。もし民に希望を与えるのであれば、そなたが聖女のパーティーに入ってもいいし、側室でも構わない。なぜ王妃候補を変える必要があるのだ」
頭に焼き付いた光景を改変しようと私が目を閉じている間にも、国王陛下の正論が続きます。
ただ、私が王妃になって、この王子と聖女の面倒を見るなんて、本気で勘弁してほしいのですが。
そんな私の苦悩を理解してくださったのか、お父様が割り込みました……
「お言葉ですが、陛下。すでに王子の口からはっきりと婚約破棄の申し出があったのです。我がオルベール家としては婚約破棄に了承いたします」
完全に目の光を失ったお父様が抑揚のない声で。
お父様は10日前に急に昔の愛人のブローチをもって現れた聖女レオノーラのことで思い詰められていました。しかし、私やお母様にはすまないと謝られ、言い訳は去れませんでしたが、何やら調べているようです……。
「待て、オルベール公爵。そなたは……」
「ありがとうございます。オルベール公爵。あなたには申し訳ないことをしてしまうが、民のため、世界のためなのだ。そしてあなたにとってもう1人の娘のためなのだ」
あろうことか国王陛下の発言を遮って王子がお父様に応えます。これで婚約破棄は成立するでしょう。大勢の貴族たちの前で。国王陛下はまずはこの茶番に対して私とお父様に謝った後で話をしていればまた違ったのでしょうが、動揺のせいか手順を間違えましたね。
「まさか……」
そして、国王陛下は玉座に座り込んでしまわれました。このような形でご自身の決めたことを覆されるなど権威に関わることです。きっと心の中で王子に罵声をあびせていることでしょうが、残念ながらもう覆りません。王子教育の失敗こそ悔やんでほしいですが、どうでしょうか……?
「中断されてしまったが、進めてよいかのぅ……では、聖女レオノーラ様はこちらへ」
王族・貴族たちのやりとりを黙って眺めていた神殿長が、聖女の就任式を続行させました。
「あとは、婚約は成立したということで、ヴィクトール王子もこちらへ」
儀式の予定にはなかったことですが、神殿長はゲームのシナリオ通り、まるで既に結婚した仲睦まじい夫婦の様に2人を密着させました。
◇
「すまなかった。まさかあの場であそこまでバカげたことを仕出かすとは……」
お父様が私とお母様に向かって跪いています。それほど堪えたのでしょう。
「あなた、もうやめてください。既に調査の結果は出ているのでしょう?」
お母様は感情のない声で問いました。
「あぁ……あれはやはり私の子ではない……」
「「えっ??」」
思わず驚きの声をあげてしまいましたが、それはお母様も一緒でした。
ここは、やはり自分の子だから諦めるように言われるのかと思いました。
レオノーラがオルベール公爵家の娘なのであれば、あとは改めて発表すれば婚約者を相手の家の中で変更しただけになります。
ゲームではこの辺りは語られませんでしたが、それによって私……フィアナは忘れられていくのだと思っていました。
「ですが、まさか公表できませんよね?」
一応、お父様に確認しておく。なにせ貴族の大半は白々しく思っていたとしても、民衆からすれば美しい聖女と逞しい王子の結婚です。日に日に影響を増している魔王に対抗するためにも、この結婚は歓迎されています。
「すまない……私に力がないばかりに……」
お父様は項垂れながら、どうしようもないと悔やまれています。お母様も涙を流されています。
しかし、レオノーラが異母姉というのが嘘なのであれば、これはちょっと許せませんね。
この手札は将来のために取っておきましょう。
それにしても、お兄様が領地に戻っている間で良かったですわ。
突然現れた異母兄妹ということだけでも荒れそうなのに、まさか嘘だなんて知ったらすぐにでも王宮に抗議に行ってしまいそうです。
「もう大丈夫ですわ、お父様、お母様。私は天に恵まれたこの魔法の力を活かしていきたいと思っていますので、王宮に未練はありませんわ」
「「フィアナ……」」
お父様とお母様は私を抱きしめてくれました。暖かいですね。
しばらくそうした後、お父様は少し迷いながら私に告げます。
「お前が夢を持っていたことは知っている。学院の先生からもとても優秀だとも聞いた。それで、フィアナ。お前はルーデガルドに行く気はあるか?」
ルーデガルドは確か最近ダンジョンが発見された場所……辺境伯領ですわね。
これも、ゲームのシナリオ通りなので、もちろん了解します。
「お父様、ありがとうございます。私は王子との婚約も破棄され、将来王妃になることもなくなったので、夢だった冒険者になってダンジョン攻略に励みますわ!」
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