高校生勇者のテンプレ対策 ~魔王討伐後にハメられるのは想定内です~
王宮の大広間で大勢の人々が主役の登場を今か今かと待ちわびていた。
勇者の凱旋――。
今から4年前に王都を旅立った勇者一行が、とうとう魔王を打ち倒したのだ。
勇者タカヒロ、戦士タケシ、聖女サヤカ。
彼等3人の戦いぶりは、彼等が救った数多くの街や村の人々の声を介して王都まで聞こえた。
勇者の女神の加護を纏った剣の一振りは、実体がない霊体の魔物や硬い岩や鉄で出来た魔物すら切り裂くことが出来た。
力自慢の戦士の一撃は重く、どんな相手であろうとも押し負けることはなかった。
聖女は聖なる力でアンデットを屠り、傷付いた仲間たちを何度も癒やした。
辛く厳しい道のりを乗り越え、彼らは困難を成し遂げたのだ。
彼らはその名からも分かるように、この世界の人間ではない。はるか昔の伝承に従い、召喚の儀式を持って呼び出した者たち。彼ら3人はいずれもニホンという国の出身だという。
全員が元の世界ではコウコウセイという職業だった。
黒目黒髪の容姿も、異文化を抵抗なく生活に取り入れる柔軟さも、四則演算を難なくこなす学力も、彼らの国では当たり前だと聞いた。
中でも驚いたのは、王族など一部の者だけに秘匿されている召喚の儀式が、彼らの世界の平民が読む小説や絵物語で数多く描かれていることだった。
もっともそのおかげで召喚したばかりの勇者たちがパニックを起こすこともなかったし、国の窮状を理解してもらうのも早かった。
勇者らの処遇。
国王にとってそれは最大の課題のひとつであった。彼らを召喚したのは王国の存亡を賭けた最終手段であり、その成果は計り知れない。
だが国王にとって、魔王を討ち果たした勇者一行はもはや用済みであり、同時に王権を脅かしかねない危険極まりない存在でもある。
かと言って、簡単に処分できる相手ではないだろう。だが、何重にも罠を巡らせ、万全の対応を用意しておけば容易いはずだ。食事や飲み物には遅効性の毒を仕込み、周囲には精鋭騎士団を伏せ、さらにはいざという時のための禁呪まで用意させた。
(所詮は何も知らないガキどもなのだ。われらが温かく迎えてやれば、疑いもせず簡単に騙されるであろう)
国王は内心でそう冷笑しながら、祝宴の準備を整えていた。
大広間の扉が開かれると、騎士たちが整列しファンファーレが高らかに鳴り響いた。人々は熱狂し、目を輝かせながらその瞬間を迎えた。
「勇者タカヒロ、その仲間たちよ!」
先導する侍従の声が響き渡ると、3人の姿が堂々と現れた。タカヒロの背中には輝く剣が、タケシの肩には力強い大剣が、サヤカの手には聖なる杖が握られている。
集まった人々は歓声を上げ、感謝の声を惜しみなく送った。
「よくぞ戻られた、勇者よ!」
国王が王座から立ち上がり、彼らを出迎えた。
「お前たちの功績は、この王国の歴史に永遠に刻まれるであろう!」
タカヒロが一歩前に進み出ると、深々と頭を下げた。
「陛下、我々は人々の信頼と期待に応えるため、全力を尽くして参りました。しかし、この勝利は我々だけの力ではなく、皆さまの支えがあったからこそ実現したものです」
その言葉に、集まった全員が心を打たれた。そして国王は満場の歓声を背に、口を開いた。
「勇者タカヒロ、そしてその仲間たちよ。よくぞ魔王を討ち果たし世界に光を取り戻してくれた。汝らの流した血と汗そして不屈の闘志に、王として一人の人間として、心からのねぎらいと感謝を捧げよう」
国王の声には至上の歓喜と深い安堵が満ちていた。大広間の貴族たちからも、それに呼応するように惜しみない拍手が送られる。
しかし、タカヒロは表情を崩さず、静かに頭を上げた。
「恐悦至極に存じます、陛下。ですが、私たちはただ、この世界の平和のために戦ったまでにすぎません。不条理に脅かされる人々を救いたかった、それだけでございます」
「おお、なんという高潔な魂か!」
国王は満足そうに頷き、左右の給仕に目配せをした。
「では、まずは言葉よりも何よりも魔王討伐という偉業を祝おうではないか! 勇者たちよ、長旅の疲れを癒やす極上の美酒だ。皆の者、乾杯の用意を!」
恭しく差し出された黄金の杯。その中には偽装された猛毒が並々と注がれている。国王や貴族たちが杯を掲げる中、タカヒロたちはその杯をじっと見つめ、一切口をつけようとはしなかった。
「……どうした、勇者よ?」
国王の目が不審そうに細められる。
タカヒロたちは冷ややかな笑みを浮かべ、手にした杯を無造作にテーブルへと戻した。細かな気泡が踊る液体が微かな音を立てている。
国王は気をとり直し、祝宴の乾杯を促した。しかし、タカヒロたちは盃に手を出さなかった。
「陛下、私たちはこの国の酒がどうも体質に合わないようでして。陛下のお慈悲で、この祝杯を、先ほどから私を熱い眼差しで見つめてくださっているあちらの令嬢方に振る舞ってもよろしいでしょうか?」
国王は内心で焦った。毒入りの杯を貴族に配るわけにはいかない。
「何を言う! 勇者の乾杯こそが今日の祝宴の華だ。そのようなことを言わず、最初の祝杯だけでも飲んでみせよ!」
国王は芝居がかったように両手を広げて、勇者に語りかけた。
「魔王は滅び、もはや我が国に憂いは一考だにない! 新しい時代の始まりなのだ!
その方らを称える祝杯なのだ!
祝杯を飲んだあとには褒美を取らせよう!
……富か?
……あるいは地位か?
さあ! 飲み干すがよい!」
タカヒロは呆れたように小さく首を振り、落胆と憐れみが入り混じった残念そうなため息を漏らした。
「……いいえ、陛下。陛下からは何ももらうつもりがないのです。褒美も、もちろん、祝杯も」
「……何だと?」
国王の動きが止まり、居並ぶ重臣たちが一斉に目を見開いた。功を上げた者が祝杯を拒絶し、さらに褒美を断るなど前代未聞だったからだ。
驚愕する重臣たちを余所に、タカヒロは淡々と言い放つ。
「その代わり――、私たちへの謝罪を求めます」
「……なっ、何と言った!?」
「そしてもうひとつ。褒美ではなく――、原状回復を求めます」
国王だけでなく宰相も重臣たちも心底から戸惑い、驚愕した。世界を救った勇者の口から、およそ似つかわしくない言葉が出たからだ。
「しゃ、謝罪と原状回復だと!? 主が何を言っているのか分からぬ! 分からぬが――、そもそも原状回復とは一体何を言っているのだ!?」
国王の狼狽した声に、タカヒロは冷ややかな眼差しを向けた。
「決まっているでしょう。私たちを『元の世界、元の日常へ戻すこと』です。
……あなた方が狂わせた私たちの人生を、まっさらな状態に戻していただく。
ある日突然、気がつけば私たちは家族や友人、目指していた未来、そのすべてを強引に奪われこの世界に召喚されたのです。
私たちの、平穏で普通だった生活を丸ごと奪い、兵器として利用した。奪われたものは返してもらう。
それを、原状回復といいます。
犯罪者に褒美は求めません。求めるのは、あくまで原状回復です」
「犯、犯罪者だと……っ!? 万死に値する不敬だぞ!」
「黙れ、異界の小童が! 誰に向かってそのような口を利いている!」
タカヒロのあまりに苛烈な言葉に、大広間の空気が一変した。重臣たちが激昂して顔を真っ赤にし、国王もまた、かつてない侮辱に激しい怒りと動揺を見せて身を乗り出した。
「犯罪……だと!?」
国王は怒りに震えながらも、同時にその要求の根底にある致命的な事実に気づき、勇者たちを嘲るように笑った。
「確かに同意もなく呼び出したことには、一王として、一人の人間として一考の申し訳なさは感じておる……! だが、召喚の儀式は一方通行なのだ!
送り返す術など我が国の歴史のどこにも記されておらぬ! 元の世界に帰還などできる訳がなかろう。
お主たちは、この世界で生きて行くしかないのだ」
「できる訳がない? なら、そもそも召喚などするべきではなかった。自分たちの世界のことは、自分たちで解決するのが道理でしょう」
タカヒロの目は冷たく据わっていた。
「冷静に考えてみてください。ある日突然、本人の同意なく強制的に見知らぬ世界へ連行する行為――、どう言い繕っても誘拐です。
そのうえ、命の危険がある魔王討伐を強要した。従わなければ生きていけないという状況の中で、選択権なんてあるはずもない。強要、脅迫と言われるのを否定できますか?」
「何を馬鹿なことをッ!」
「では、お聞きします。
もし、王子や王女、あるいは陛下ご自身が異世界に召喚され、『世界の平和のために命を懸けて戦え』と強要された場合、あなたは仕方がないと納得できるのでしょうか?」
「くっ……それは……!?」
「そうそう、それから。
陛下が飲むように勧めたこの祝杯。
わたしたちはこの国の酒は体質に合わないと申しました。なにせ、毒を喜んで飲み干せるような身体ではありませんから。
陛下……。この祝杯、飲んでみることができますか?」
タカヒロは手元に戻した祝杯をかざし、鋭い眼光で国王を見据えた。あまりにも確信に満ちた言葉に、大広間の空気が一瞬で凍り付く。
「なっ、何を申す……!」
タカヒロは冷徹な足取りで王座へと近づき、先ほどテーブルに戻した毒入りの杯を手に取った。そして、怯える国王の目の前にそれを差し出し、有無を言わせぬ圧力を放つ。
「陛下、もうよいではありませんか!」
国王が言葉に詰まったその時――、傍らに控えていた騎士団長が、顔を真っ赤にして一歩前に出た。そして国王へと向き直り、自信に満ちた力強い声で告げた。
「これ以上の問答は無用かと。
毒入りの杯が看破されたのは残念ですが、我が騎士団が控えております。もともとこの化け物どもは、我が騎士団が処分する手はず。 準備は整っております。
今ここで、その化け物どもを排除いたしましょう!」
「う、うむ……そうだな。団長、任せる!」
国王が歪んだ顔で頷くと、騎士団長は勝ち誇った笑みを浮かべて勇者たちを指差した。
「黙れ、不届き者めが! 陛下に対して何たる不敬! 恩を仇で返すような逆賊どもめ、手筈通りに片付けるぞ! 出あえッ!」
騎士団長が叫ぶと同時に、大広間の扉が乱暴に開かれ、武装した精鋭騎士団が一斉になだれ込んできた。勇者たちを処分するための伏兵だった。
「化け物どもを、国家反逆の徒を討て!」
百名を超える騎士たちが武器を構えて突撃する。しかし、勇者たちの表情に焦りはなかった。
「タケシ、サヤカ」
「おう、任せろ!」
「はい!」
サヤカが杖を掲げると、瞬時に眩い聖なる障壁が展開され、騎士たちの突撃を完璧に防ぐ。
「なっ、近づくことが出来ない!?」
ただの一人も勇者たちに近づくことすらできず、困惑する騎士たちの前に、タケシが巨大な大剣を軽々と担いで立ちはだかった。
「お前らさ、俺たちは魔王相手に戦ってきたんだぞ? 本当に分かってねえんだな」
タケシが大剣をただ一振り、横に薙いだ。
凄まじい質量兵器と化した衝撃波が発生し、前衛の重装騎士十数人が、まるで突風に煽られた木の葉のようにまとめて大広間の壁まで吹き飛ばされ、轟音を立てて崩れ落ちた。
「ひ、剣を振るう暇すら……っ!」
「化け物め、魔法撃て! 魔法で――」
後方の魔導騎士たちの呪文が完成する前に、タカヒロの身体がブレた。女神の加護を纏った彼の剣が閃光となり、空間を切り裂く。
放たれた不可視の斬撃は、魔道騎士たちの武器や盾を、まるで薄いガラスを割るかのように容易く両断した。
わずか数十秒。
百名を超える王国の精鋭たちは、ただの一人も勇者たちに触れることすらできず、全員が完全に制圧された。
「ば、バカな……我が国の精鋭が、こうも容易く……」
騎士団長が驚愕に震え、腰を抜かす。
タカヒロは思い出したかのように歩を進めると、騎士団長の前で剣を一閃させた。
ゴトッ、と鈍い音を立てて、騎士団長の首が床へと落ちた。あまりの圧倒的な力に、大広間は静まり返った。
怯えた国王は、隣の宰相に目配せを送った。
(おい、あれを出すのだ! あれを使え!)
宰相は引き攣った笑みを浮かべ、懐から禍々しい魔力を放つ一本の巻物を取り出した。それこそが、王国に伝わる絶対的な切り札。
「クハハハ! 確かに力は凄まじい。
だが、お主らは我が国が呼び出した操り人形にすぎんのだ!
この巻物には汝らの『名前』が刻まれている! これを開けば、汝らの魂は巻物の呪縛に縛られ、未来永劫、我が国の奴隷となるのだ!」
宰相は勝ち誇った顔で、巻物を勇者たちへと突きつけた。
その言葉に対し、タカヒロ、タケシ、サヤカの3人は顔を見合わせ、同時にクスリと笑った。
「へえ。……じゃあ、やってみろよ」
タカヒロが冷たく煽る。その余裕に一瞬怯みながらも、宰相は叫ぶように呪文を唱えた。
「『呪縛の鎖よ、我が命に従い、異界の魂を縛り上げよ――タカヒロ、タケシ、サヤカ!』」
巻物が赤黒い光を放ち、激しく振動する。
……しかし。
数秒が経過しても、何も起こらなかった。
光は霧散し、巻物はただの古びた紙切れとなって沈黙した。
「な……な、何故だ!? 三人の『名前』を刻んだはず! なぜ縛れん!?」
何度も巻物を見つめ直す宰相と、ガタガタと震え出す国王。
タカヒロは呆れたように溜息をついた。
「あのさ、俺たちの世界では召喚の話も小説になっているって言ったよな?
名前を知られることで隷属の契約を結ばされるなんて話、あっちの世界の物語じゃ『常識中の常識』なんだよ」
「……あ」
っと、宰相の口から間抜けた声が漏れる。
「だからさ、偽名だよ、偽名。
そもそも誘拐されたって認識なんだから、警戒して当たり前だろ?」
タカヒロの言葉に、国王と宰相は完全に理解した。最初から、自分たちの企みなどすべて見抜かれていたのだ。
「さて……」
タカヒロが静かに女神の剣を抜き、カツン、カツンと靴音を響かせながら王座へと歩みを進める。その眼光は、冷酷で、一切の慈悲はなかった。
「謝罪もなく、原状回復の交渉は決裂。そればかりか、王国のために魔王を倒した俺たちを殺そうと、毒を飲まそうとしたり、騎士が襲っていたり、呪術で縛ろうとしたり……もう、いいよな」
「ひ、ひいいぃっ! 待て、待て! 剣を収めよ、タカヒロ!」
死の恐怖に直面した国王は、なりふり構わず叫び、王座から転げ落ちて床を這いずり回った。
「ま、待て! 実は、元の世界に戻る術を知っている! そうだ、隠していたのだ! 剣を置け! それを教えてやる! 帰れなくなっても良いのか!?」
必死の形相で命乞いをする国王。その姿を、タカヒロは冷ややかな眼差しで見下ろした。値踏みするような視線のまま、歩みを止めることなく静かに首を横に振る。
「……それは遅すぎるんだよ」
「な、何だと……!?」
タカヒロは剣の切っ先をガタガタと震える国王の喉元へと向け、冷徹に突き放した。
「もし、あんたが本当に元の世界への帰還方法を知っているなら、毒や騎士、呪術なんか使わない。だってさ、帰還方法を知っているなら安全に、確実に、俺たちに恩を売りつつ排除できるのだから。
だからあんたは、何も知らないってことだ」
「あ、あ、あ……」
国王は、絶望に顔を歪めた。これ以上、どんな言い訳も、どんな命乞いも通じないことを悟ったのだ。
「自分の保身のために嘘を重ね、俺たちを罠に嵌め、最期まで騙そうとする。……あんたに王を名乗る資格なんてないよ」
タカヒロは喉元に突きつけた剣をピタリと止めたまま、顔を引きつらせる国王を嘲笑うように、ふっと口元を歪めた。
「あんたの考えてることなんて、最初から見え見えだったんだ」
「な、何だと……! 最初から、だと……!?」
「俺たちの世界にはね、500年も昔にマキャベリっていう政治思想家が書いた『君主論』っていう本があるんだ」
タカヒロは憐れむような目で、哀れな王を見下ろした。
「その本にはさ、『外国の援軍(強力な他者)を頼って勝利しても、その軍勢は君主にとって有害でしかないから速やかに排除せねばならない』って、はっきり書いてあるんだよ。
つまり、あんたの陰謀なんて、俺たちの世界じゃ大昔に語り尽くされた、使い古された政治のイロハなんだ。そんなカビの生えた理屈で俺たちをハメようとするなんて……。
あんたの頭、周回遅れなんだよ」
「しゅ、周回、遅れ……っ!?」
プライドと正気を完全に打ち砕く言葉に、王は言葉を失い、ただただ絶望に目を剥いた。
次の刹那、大広間に一閃の光が走った。
王の首が転がる音だけが、静まり返った大広間に響き渡った――。
※
数日後。
血に染まった絨毯はすべて片付けられ、主を失った王座の間には、穏やかな陽光が差し込んでいた。
その王座に、タカヒロは浅く腰掛けていた。その両脇には、いつもと変わらない様子でタケシとサヤカが並んでいる。大広間に誰もいないのを見計らい、タケシが大きなため息をついて大剣を床に立てかけた。
「いやー、終わった終わった! これで本当に一区切りだな。あの時の王の顔、マジで傑作だったわ。一世一代のドッキリ大成功って感じ?」
「ドッキリにしては首が飛んでるけどね」
サヤカがクスリと笑いながら、手にした聖なる杖を弄ぶ。
「でも、これでやっと女神様との約束の半分が完了、ってところかな。あの高圧的な王から王権を引っぺがすこと。これも女神様から頼まれた『真の平和な世の中』を作るための必須条件だったわけだし」
「ああ。魔王を倒すことじゃ、この世界の歪みは解決しないからな」
タカヒロは王座の肘掛けをトントンと指で叩きながら、苦笑交じりに遠い目をした。
「それにしても、あのあと残された国の公文書とか財政状況を軽く調査してみたけどさ……。
出てくる裏帳簿やら指示書やら、裏でやってたこと、好き勝手すぎてマジでヤバくなかったか?」
「ほんとそれな!」
タケシが激しく同意するように拳を握る。
「王の裏金作りも大概だけど、王妃なんて、自分のきらびやかな衣装代とか夜遊びのためだけに、一部の村の税率を勝手に3倍に引き上げてたんだぞ? 完全にただのバカじゃねえか。
重臣どもも重臣どもで、王や王妃の不正を見て見ぬふりをして、自分たちもしっかり横領してたっていうんだから救えねえよ。調査書を読めば読むほど『あいつら生かしておいたら国が滅んでたわ』って、呆れを通り越して笑えてきたもん」
「本当にね。私たちをハメようとしていた裏工作の書類も山ほど出てきたし」
サヤカが呆れたようにため息をつく。
「国民には『勇者たちの生活費と魔王討伐の軍資金』っていう名目で高い税金を課しておきながら、実際は私たちのところには一割も届いてなくて、残りは全部王族と重臣たちの懐に入ってたんだから。
『勇者が国費を使い込んだ』って罪を着せて処刑したことにするシナリオまでバッチリ用意されてたよ。どこまで自分たちの都合のいいように好き勝手やれば気が済むんだろうね」
「あいつら、俺たちを異世界テンプレ通りに騙せると思って、自信満々に毒だの騎士だの用意してたみたいだけど……」
タカヒロが窓の外に目を向ける。
「まさかあのやり取りが、魔道具を通じて『国中の全街、全村の広場』にリアルタイムで生中継されてるなんて、夢にも思わなかっただろうな。
俺たちを害そうとした決定的な証拠と本性、ついでにこれまでの悪政の数々を全世界に公表できて本当にスッキリしたよ」
「おうよ!」
タケシが声を弾ませて笑う。
「俺たちが4年間旅をしながら、王族のキッツい重税とか、自分たちだけ贅沢してる圧政の実態をコツコツ民衆に触れ回ってきたのが、あの生中継と今回の調査結果の公表で一気に爆発したわけだ。国民からすれば『世界を救った英雄を拉致した挙げ句、用済みだからって殺そうとした独裁者』にしか見えないもんな」
「おまけに、あの騎士団長さんもいい仕事してくれたよね」
サヤカが感心したように頷く。
「わざと王様に向かって『もともとこの化け物どもは我が騎士団が処分する手はず』なんて、一番言っちゃいけない裏工作を大声で暴露してくれて。
あの瞬間の国中の『やっぱりな』って冷めた顔が目に浮かぶようだよ。まぁ、仕込み通りなんだけど」
「団長には事前にこちらの計画を伝えて、協力を取り付けておいて正解だったな」
タカヒロが少しだけ表情を緩めた。
「あらかじめ『騎士団の連中に死者を出さない。衝撃波や斬撃に見えるものはすべて、サヤカの幻術と、タケシの峰打ちで手加減する』って約束してたからな。おかげで騎士団の奴らは全員生きてるし、今頃は新しい体制への移行準備で、怪我の治療を受けながら元気に動いてるはずだ。
団長の斬られた首も、サヤカの超高度な幻術だし」
「おうよ! 俺の大剣の風圧だけで、みんな綺麗に壁まで吹っ飛んでくれたからな。我ながら完璧な寸止めだったぜ」
タケシが胸を張る。
「ちょっと、完璧な寸止めって言っても、あいつら結構な勢いで吹っ飛んでたからね?」
サヤカがジト目でタケシを睨み、呆れたように杖をトントンと床に突いた。
「私がとっさにエアクッションの魔法を背後の壁に展開して保護してあげなかったら、何人か頭の骨がバキバキに砕けて無事じゃ済まなかったんだから。まったく、タケシはこれだから大雑把で困るよ」
「お、おう……悪かったよ。でもサヤカのおかげで本当に死者ゼロなんだから、結果オーライだろ?」
タケシがバツが悪そうに頭を掻くと、タカヒロが小さく吹き出した。
「でも、一番大きかったのはやっぱり魔王さんの真実だよね」
サヤカが少し真面目な顔になって言った。
「やっぱりかあ、とは思ったけど。
王国側が魔王の領土へ侵略を仕掛けておいて、魔王側はただ防衛のために反撃してただけだったなんてね。国王が始めた戦争のケツ拭きを、私たちがさせられてたんだもん。いろいろ調査して、対話の席を設けて本当に良かった。魔王さんも話が通じる人? で助かったよ」
「本当にな。
『人を撃ってよいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ』
って有名なセリフが俺たちの世界にあるけど、あの王にはその覚悟もなかったな」
タカヒロが冷徹な声を落とす。
「自分から侵略を仕掛けておいてさ、いざ反撃されて負けそうになったら、異世界から関係のない俺たちを召喚して『助けてくれ、魔王を倒してくれ』なんて泣きつくんだから。
その時点で王としても、一人の人間としても、終わってただろ。
打たれ返される覚悟もないような奴が、一国のトップに君臨しちゃいけなかったんだよ」
「人間と魔族の共存。それも国中に流した映像と、これからの新体制でしっかり民衆に伝えていく。
悪いのは魔王ではなく、自らの私欲のために戦争をふっかけ、都合が悪くなると異世界から子どもを召喚して泥を被らせようとした先代の王族だ、とね」
タカヒロは王座からゆっくりと立ち上がった。
「さて、根回しも万端。あとは、これまでずっと王宮の片隅で虐げられていた、あの優しくて聡明な側妃の子に正式に王権を譲るだけだ。
今回の調査で出たクズどもの不正の証拠を側妃の子に渡せば、旧勢力の残党を一掃する良い大義名分になる。彼なら、魔族との和平条約も民のための政治も、間違いなく上手くやってくれる」
「これでようやく、この世界も本当の意味で平和になるな」
タケシがすっきりした笑顔で大剣を背負い直す。
「うん。世界が平和になった暁には、きちんと元の世界の元の時間軸に戻してくれるって女神様も約束してくれたしね」
サヤカが嬉しそうに微笑み、タカヒロの隣に並んだ。
タカヒロは大広間の大きな窓から、王都の美しい街並みを見下ろした。
「ああ。コウコウセイの日常に戻ったら、まずは美味しいラーメンを食べに行こう。俺たちの長かった旅も、あと少しでゴールだ」
3人は互いに頷き合い、求める未来を引き寄せるため、新たな一歩を踏み出した。




