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虫除け

作者: 西順

 虫除け━━。最初に思い付くのはぐるぐるの蚊取り線香だろうか。人によっては液体を蒸発させる電気式のを思い浮かべたり、体に噴射するスプレー式とか、窓際に掛けておくだけで虫が寄ってこないタイプのものを思い浮かべる人もいるだろう。


 我が家も同様に虫除けを使っているのだが、我が家で使っているのは三角錐型のお灸のような形で、小皿の上にそれを置いて家の各所に設置するように使っていた。他所の家では見掛けた事が無いので、珍しいのだと思う。しかも夏だけでなく年中焚いているのだ。


 それに疑問を持つ事無く大学生になった俺は、地元を離れて都心で暮らす事となり、色々探した結果、とあるマンションで暮らす事となった。都心のマンションともなれば家賃もそれなりだが、そこは曰く付き物件で、自殺者が何人か出たとかで安く借りられたので俺はラッキーだった。


 人によっては嫌がるのだろうが問題は無い。俺に霊感は全く無いからだ。実家の裏は墓地で、良く幽霊が出没する心霊スポットとして、馬鹿どもが肝試しをする場所だったが、俺自身は生まれ育って一度も幽霊を見た事が無く、逆に肝試しをしている連中の悲鳴で、夜中に飛び起きる事が多々あって迷惑していたくらいだ。


 それに比べれば新天地のマンションは静かで、これは夜もゆっくり眠れるに違いないと思っていたのだが、初日から金縛りにあってしまった。


 まあまあ。引っ越し初日で疲れもあったのだろう。と気にしないでいたのだが、二日目、三日目と同様に金縛りにあい、ついには四日目に女の幽霊を見てしまったのだ。玄関前に立つ長い髪にジーンズ白シャツの女の幽霊だ。


 ベタだなあ。とは思ったが、本能がこの女の幽霊と同居するのを拒否していた。とは言ってもすぐにここから引っ越すのもシャクだ。なので一応お札を壁や玄関扉に貼り付けたり、盛り塩をしたりと対策を取ってみたのだが効果は無く、女の幽霊は一日毎に俺に近付いてくるのだ。玄関前からじわりじわりと部屋の中に入り込んできて、あと何日かすれば、俺の寝るベッドまで辿り着きそうであった。


 ここまできてはこのマンションに住み続けるのも辛いと親に連絡した所、送ってきたのが件の虫除けのお灸だった。何でもこのお灸、虫除けは勿論の事、幽霊除けの効果もあるのだと親が説明してくれた。だから我が家では年中このお灸を焚き、幽霊を見る事が無かったのだ。


 それならばと俺はその日から部屋でお灸を焚いて眠るようになり、すると金縛りは無くなり、女の幽霊も出てこなくなったのだった。


 その何日か後の事だ。道端でばったりあのマンションを紹介してくれた不動産屋と出会い、不動産屋も気にしていたのだろう、「どうですか?」と尋ねられたので、


「問題ありませんよ。良い幽霊除けを手に入れましたので、女の幽霊も出なくなりました」


 と返事をすれば、その不動産屋は目を見開いて顔を真っ青にしていた。対処法は合っているはずなのに、何をそんなに怖がる事があるのかと尋ねれば、


「あの部屋で亡くなられたのは、いずれも男性なんです」


 との返事。いやいや、何を馬鹿な。じゃああの女の幽霊は何だったんだ? とは思ったが、こちらには幽霊除けのお灸があるので、あの女の幽霊も手は出せまいと、その日もお灸を焚いて眠りについたのだが、昼間の事が気になって中々寝付けない。


 そしてふとお灸を見れば、いつの間にやら煙が消えていたではないか。これは不味いと起き上がろうにも、金縛りで起き上がれない。それでも藻掻いていると、俺を金縛りにしていたのが、男の幽霊であった事にここにきて気付いた。


 では女の幽霊は何なんだ? と思った所で、ベッドの上から俺に覆い被さる女の幽霊。


『会いたかったわ』


 そんな女の幽霊の声を聞くや、男の幽霊は俺をその場に残して退散し、女の幽霊は俺の首を締め始めたのだ。とても愛しそうに。


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