嫌な夢見たから幼馴染に告白する
今日の寝起きは最悪だった。幼稚園から今まで一緒で、家が近所なこともあって毎日一緒に学校にいっていて、喧嘩したりしたがなんだかんだ仲がよく、周囲から可愛いと評判の幼馴染様が、よくわからないヤリチンナルシストにやり捨てされる夢を見た。
本気で気分が悪い。マジで気分が悪い。人生最高に気分が悪い。
俺は純愛厨だ。ざまあも、寝取られも、バッドエンドも死ぬほど嫌いだ。
正直あいつに対する恋愛感情は毛ほどもないと思う。恋愛対象としてどうだとか考えたこともない。
わがままで、俺にだけ意地悪してきて、勉強も全然できないが、長年一緒に過ごしてきたし、一緒にいると楽しいし、笑うとこっちも嬉しくなるし、いい匂いするし、声が可愛いし、最近目で追っちゃうし、他の男と話してると嫌な気持ちになる。ただそれだけだ。
あ、これが恋か。ちょっと告白してきます。
そんなわけで完全に覚醒した頭で諸々の準備を終え、幼馴染様を迎えにゆく。
「おはようございます、七海いますかー。」
「おはよう、零くん。ちょっと待ってねー。」
インターホンを押すと幼馴染の母である、葵さんが出てくれた。
5分くらい待ってたら、幼馴染が出てきた。
「おはよう、零。お待たせー、行こっか。」
「あいよ、おはよう、七海。今日は早かったな。」
そう言って最寄り駅まで並んで歩き始める。
普段から朝にものすごく弱いのが彼女、綿貫七海である。俺が起こしてから準備し始めることもザラにあるため、いつも大体出てくるまでに二十分くらいかかるのだが、今日は例外のようだ。
「今日は早いじゃん、どうした?」
自分の寝覚めが悪かったのもあり、とても気になった。
「今日はめっちゃいい夢見たんだー。すっきり起きれてご機嫌です!」
七海は敬礼しながらこっちに笑顔を見せてくる。鼻歌まで歌い始めて、駅に向かう足取りも心なしか軽やかだ。
「どんな夢見たんだ?」
今朝見た夢を思いだし、少し嫌な気持ちになりながら尋ねる。
「あんまり覚えてないけどなんかハッピーになる夢!」
「そっか、よかったじゃん」
そんなこんなで電車に乗って、学校の最寄り駅についたところである疑問について聞いてみる。
「そうだ七海、好きな人とかいるか?」
「え。」
彼女の足音が消え、こちらを凝視してくる。
「なんでそんな事聞くの?」
「いや、俺と結婚してくれないかなって思って。」
「はああああああああああああ!?」
あ、顔真っ赤になった。可愛い。
「今朝気づいたんだ、七海のことが好きなことに。一生隣にいて欲しいし、毎日今日みたいに過ごしたいし、他の男に渡したくない。」
「なんなの、何で急に!?ちょっと待って無理無理無理無理無理無理、無理!」
勇気を出して話してみたが、彼女は駅まで猛ダッシュしてしまった。
褒めたりするとすぐ照れるのはいつものことなので、無理って言われたのに死ぬほど傷ついた心に蓋をしつつ、彼女のあとを追いかけて学校に向かう。
「無理、なのかなぁ、はぁ。」
そんなこんなで学校につき、教室にはいるも幼馴染様の姿はない。どこに行ったのか気になり、先に来ていた悪友に声を掛ける。
「おはよう光。七海見てないか?」
こいつは上田光。中学からの同級生でめちゃくちゃ頭が良く、彼女持ちである。羨ましい。
「おはよう零。綿貫さんならフラフラしながら顔真っ赤にして教室に来て、仲良い子たちに保健室に連れて行かれたぞ。何があったんだ?」
光に今朝のことを話すと、感慨深そうな顔でありながら呆れも混ざっているような不思議な表情をしていた。
「やっと気づいたのか、お前。にしても結婚って行き過ぎじゃないか?急にどうしたんだよ。」
「これまで十年以上一緒に過ごしてきた幼馴染だからなぁ。一生一緒にいたいと思ってたら勝手に口から出てたわ。まぁ振られちゃったんだけどな。」
「本当にそうか?わかってるんだろ?量産型鈍感系主人公の振りはやめろよ。」
痛いところをついてくる。なんだかんだで十年以上一緒にいるから、あいつの無理が本当にそのままの意味ではないと思っている。でもこれが自分に都合のいい妄想なのか、本当にそうなのかわからない。ままならないものだ。
「はは、どうなるんだろうな。まぁ早いうちにいい報告ができるように頑張るよ。」
「おう、頑張れよ。」
チャイムが鳴り、ホームルームの時間がきたため光と別れ自分の席に着く。七海の席を見ると、そこには頭を抱える彼女の姿があった。
早く話したいという思いはあれど、授業がそれを邪魔する。七海と話すのを待ちきれないまま、今日も一日が始まった。
授業が全て終わり、放課後。あれから何度も接触を測ろうとするが、その度に彼女は顔を真っ赤にして逃げていったり、教室からすぐにどこかに出ていったりする。自分を意識してくれているのか、もう関わりたくもないと思われたのか、前者であってほしいという思いを胸に、七海に声をかける。
「七海、一緒に帰ろう。」
「わかった、いこっか。」
彼女ももう心の整理はついたようだった。
そうして歩くいつもと同じ帰り道は、どこか緊張感が漂っていた。
少しの間無言でただ歩いているだけだったが、俺から口を開く。
「朝の話で七海が思ってること、聞かせてくれないか。」
「わかった。」
心臓が痛い。気心の知れた幼馴染が相手でも、やっているのは青春における最も重要な儀式、嫌いだと言われたら、そんな未来を考えて心が苦しくなる。
「まず、朝とか休み時間とか、逃げちゃってごめん。今までは恋愛のことなんて考えてなくて、急に零に好きだ、って言われて頭がパンクしちゃって。朝の話を聞くまでは仲のいい幼馴染としてしか考えてなかったんだ。」
「でも、よく考えてみたんだ。毎日一緒にいて楽しいし、ちょっと意地悪な時もあるけど本当はめっちゃ優しいし、最近は大人っぽくなってきてかっこいいなって思ったり、これからも一緒にいたいなって思ったし、他の子と付き合って一緒にいるところを想像して、悲しくなったりもしたんだ。今までは距離が近すぎて、恋愛対象として好きだとか考えたことはなかったけど。」
七海は緊張しているのか少し声を震わせながらも、思っていることを話してくれた。
「ずっと一緒に過ごしてきて、恋愛がどうだとかを考えることがなかったのは俺も同じだよ。でも、一度考え始めるとすぐにわかったよ。」
「七海。やっぱり俺はお前が好きだ。今までみたいに一緒にいたいし、今までより仲良くなりたい。結婚を前提に、付き合ってほしい。」
「私も大好きだよ。これからよろしくお願いします!」
「よっしゃああああああ!」
嫌な夢の影響で告白したけど、結果よければ全てよし!
絶対に二人で幸せになってみせる!
深夜テンションで思いついたものを投げてみる。初投稿です