ひまわりの丘
※『第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』参加作品です。
「ここを一杯の向日葵で埋め尽くすんだ!!」
わたしにそう言っていた大夢はもう居ない。
私が生まれたのは、都市部じゃなくて、山々に囲まれた本当に『長閑』と表現するのが正確な地域。
住んでいる人も少なく、今じゃ私の家の周りには同年代の人たちは数人しか残ってない。町には分類されている地域なはずだけど、実際には村に近い――。そんなところに24歳の私、紗英は住んでいる。
「紗英。何とかここに人を集めたいよな」
「無理じゃない? 何も無いもの、ここ……」
久しぶりに休日が合った同級生の一人にして、こんな辺鄙なところに残った変わり者の大夢が、目の前の景色を眺めながら話を始めた。
「そうはいってもさ……このままじゃ寂しいだろ?」
「そんな事は無いんじゃない? 元からこんなものだったでしょ?」
「う~ん……」
町の観光課に勤めている大夢が静かに考える。
「そうだ!!」
「なによ?」
数分後、突然立ち上がりながら大夢が叫んだ。
「ここ!! 今俺達が居るここって街を一望できるだろ?」
「うん……そうだけど?」
「ここを太陽のように明るい場所にして、観光地にしないか?」
「はぁ? 何を言って……。と、いうか……どうしてそれを私に言うのよ?」
興奮する大夢を見上げ質問する。
「それは……」
「それは?」
「紗英と一緒だと楽しいしさ。こんな考えに付き合ってくれる奴なんて紗英ぐらいしかいないだろ?」
「そうかなぁ……?」
一気にまくしたてた大夢の話に、私は頭を傾げて考える。
「ここで、太陽のような明るい景色とずっと一緒に……紗英と暮らして行きたいんだよ」
「……え? それって……」
私を見ながら優しい声でそう言ってくれた大夢の顔を今でも忘れない。
それから二人で色々と駆けずり回った。数か月後……ようやくすべてに準備が整った頃。
大夢は新たな町一番の眺めにして、観光スポットになった場所を見ることなく、あっさりとこの世からいなくなってしまった。
「頼む……紗英……。あそこを……太陽と同じくらい明るい……場所へ」
そう言いながら、私の手を握り締め、病院のベッドの上で息を引き取った。急に進行してしまった病には気づくのも遅く勝てなかったのだ。
「見てる!? 大夢!!」
ーー今の景色を空の上から見てるといいな。
大輪の大きな花を空へと背を伸ばす向日葵の花達。
向日葵の丘と名付けられたこの場所で、私は頬を伝う涙を静かに拭った。あの時渡された左手の指輪が、きらりと光り輝いていた。
お読み頂いた皆様に感謝を!!
なろラジ参加作品の最後になります。
この作品で打ち止めですけど、実はこの作品が最初に構想出来た物語だったりします。
構成の方はともかく、初めて公式企画に参加できて良かったです。
短くもギュッと詰まった作品を書くという良い経験をさせて頂きました。