騒音トラブル
全く、うるさいったらありゃしない!
引っ越したのは失敗だった、と俺は後悔した。
こりゃいい物件だ、と特に深く考えず飛びついてしまったのだった。新しいアパートは周りと比べて家賃がとびきり安く、駅からも近かった。最寄りにコンビニやスーパーがあったりして、利便性はかなり良かったのだが……致命的な欠陥があった。
壁が薄いのだ!
そのせいで隣の部屋の生活音が筒抜けだった。全く音をいうのは、立派な凶器に成り得る。ドタバタガタガタ、ガシャンバタン。何かを落としたり、走り回ったり。毎日毎日、いい加減にして欲しい。騒音トラブルが暴力事件や殺人に発展するというのも、さもありなんと思えてしまう。此処のところ寝不足が続いて、本当、気が変になりそうだった。
昨日も夜中から、隣人は大音量で深夜ラジオをかけっ放しにしていた。それも朝までだ! きっと聴きながら寝てしまったのだろう。日が昇っても、俺の頭の中ではまだガリガリ、ガリガリと、雑音がお経のように耳に纏わりついていた。
今日こそは文句を言ってやろう!
そういきり立って、いつの間にか数日が過ぎた。ここら辺が、自分のダメなところだが……我ながら沸点は低い方なのだが、その勢いで他人を罵倒できるほどの意気地もないのである。大家さんに相談するか、手紙や文章で告発するのが良いだろうか、などと考えている時に、事件は起こった。
隣人が逮捕されたのだった。
これが結構な大事件だった。殺人事件だ。犯人はシングルマザーで、まだ幼い自分の息子を「うるさい」と殺してしまった。亡くなった子供には虐待された痕があり、手足は縛られ喉が潰れて、助けも呼べないような状態だったらしい。何とも後味の悪い事件である。俺は呆気に取られた。雑音だと思っていたあの喧騒は、実は子供が逃げ回ったり叩かれたりする音だったのだ。
だとすると、あのラジオの声は……喉を潰された子供が、必死に助けを呼ぶ声だったのか? 俺は心底震え上がった。さらに事件を知ったSNSの匿名希望さんから、隣人がすぐに異変に気付いていれば助けられたはず、隣人は何をしていたんだと散々叩かれた。
全く、うるさいったらありゃしない!
毎日毎日、いい加減にして欲しい。騒音トラブルが暴力事件や殺人に発展するというのも、さもありなんと思えてしまう。此処のところ寝不足が続いて、本当、気が変になりそうだった。
良いだろう。だったら誰かさんのご忠告通り、今度は躊躇わずに行くとしようか……。